第123話 増える
「……なるほど、大体の見当はついたでありますよ」
小鬼王に吹き飛ばされたツヴァイ。
どうにか起き上がった彼女は、これまでの出来事を脳内で整理した。
そして、小鬼王の異常な耐久性のカラクリをおおよそ理解する。
小鬼王には、周囲のゴブリンから生命力を収奪する能力があるのだ。
これによって、どれほどダメージを受けようと瞬間的に回復してしまうのだろう。
――周囲のゴブリンを犠牲にすることによって。
「つまり、ゴブリンをすべて倒さない限り無敵というわけでありますか」
「……ほほう、よくわかったな」
ツヴァイの考察を聞いて、小鬼王は感心したように頷いた。
しかし、それが分かったところで出来ることなど何もない。
戦場にいる数万ものゴブリンを根絶やしにすることなど、誰にもできないのだ。
「お前がいかに強かろうと、王には勝てぬ。これがこの森の掟だ」
「さっきも言ったでありますよ。すべてを奪うのは三流だと」
「ほざけ!」
斧を振るう小鬼王。
それに対抗して、ツヴァイもまた鋭い蹴りを繰り出す。
激しい攻撃の応酬。
次々と攻守が入れ替わり、大地が揺れる。
その振動は、離れたところにあるイスヴァールの城壁内まで伝わるほどだった。
「信じられん……。王とここまで戦える者がいるとは」
「敵対を避けてよかったですな……」
ツヴァイと小鬼王の戦いを、城壁の上から見守る豚人王と側近たち。
彼方で繰り広げられる戦闘は彼らの理解を大きく超えていた。
豚人王にも、王としての権能は備わっているが……。
それをもってしても、あのツヴァイには勝てそうもない。
「だが、それでも小鬼王には勝てるかどうかだな」
「いっそ、王権を移譲するのは……」
「馬鹿な! 自らを滅ぼす気か!」
「だが、このままでは小鬼王に滅ぼされるではないか!!」
戦いを見守る豚人王を尻目に、激しい言い争いを始める側近たち。
そうしたところで、ツヴァイが大きく体勢を崩した。
そのまま小鬼王に圧され始め、じわじわと戦いの趨勢が傾いていく。
「ははは、もう限界のようだな!!」
「まだまだでありますよ!」
「動きが鈍くなってきておるわ。おらぁっ!!」
ツヴァイの脇腹に、小鬼王の斧が直撃した。
ギリギリのところで身体を曲げて勢いを殺したが、それでもダメージは甚大。
身体にヒビが入り、足の付け根が軋みを上げる。
「くっ!」
「ははは! これでもう早い動きは出来まい。このまま苗床にしてやるわ!」
そう言うと、小鬼王はツヴァイの服に向かって手を伸ばした。
そして力任せにそれを引きちぎったところで、戸惑いをあらわにする。
「……なんだ、これは」
「馬鹿でありますなぁ。このツヴァイはゴーレムでありますよ」
「お前がゴーレムだと? 何かの間違いだ、ありえん!」
王に抗するほどの力を持った雌ならば、素晴らしい子を産むに違いない。
そう思って、小鬼王は大いに期待していたのだ。
それが思いもかけない形で裏切られ、小鬼王は呆然と立ち尽くす。
するとその隙をついて、ツヴァイが小鬼王の股座に強烈な一撃を入れた。
「ングォオオオッ!!!!」
この世の終わりのような絶叫。
小鬼王はたちまち白目をむき、口から泡を吹いた。
そしてそのまま倒れかけるが、とっさに生命力を収奪して意識を保つ。
巨体が大きく揺らいだものの、かろうじてバランスを維持した。
「おのれ……! 必ず殺す! 殺す殺す殺す殺す――!!」
血走った目で、ひたすらに殺すと連呼する小鬼王。
その魔力がさらに膨れ上がり、肉体が充実した。
周囲のゴブリンから更なる魔力を収奪し、力を得たようだ。
するとここで、ツヴァイが笑いながら言う。
「怒りに任せてそんなことをして、良いのでありますか?」
「何をほざく!」
「いつの間にか、減っているでありますよ」
ゴーレムらしい、凍てつくほど無機質で冷たい表情。
それを向けられて、小鬼王の怒りの感情がにわかに冷えた。
彼は周囲を見渡すと、気づかぬ間に群れが小さくなっていることに気づく。
「……何が起きた!?」
「あなたが吾輩との戦いに夢中になっている間に、少しずつゴブリンを駆除していたのでありますよ」
「馬鹿な! あのゴーレムどもよりも、我らの方がはるかに多かった!」
戦場に割って入った際、すべてを押し潰せるだけの戦力が揃っていた。
そのために時間をかけて準備してきたのである。
たとえゴーレムどもが一体当たりの戦力で勝ろうとも、それを擦り潰せるだけの数がいたはずなのだ。
それがどうしたことだろうか。
小一時間ほどの間に、戦場をひしめいていたはずのゴブリンはまばらとなり驚くほどに減っている。
「足りないなら、増やせばいいのであります」
「なぬ?」
「今のイスヴァールの生産力をもってすれば、あの通り」
そう言ってツヴァイが指差した先には、亀のような姿をした巨大ゴーレムがいた。
その筒のような口から、続々と戦闘用のランスロット型が吐き出されていく。
――大規模工場型ゴーレム、ヘパイストス。
材料と魔石さえあれば、無尽蔵にゴーレムを生み出す狂気の機械だ。
「な、なんだと……!!」
ヘパイストスの口から吐き出され、見る見るうちに増えていくゴーレムたち。
その姿を見た小鬼王は、王となって初めて恐怖を感じたのだった――。
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