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領地のすべてをゴーレムで自動化した俺、サボっていると言われて追放されたので魔境をチート技術で開拓します!  作者: キミマロ


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第120話 敗走と危機

「うおおおおぉん! ぼくの、ぼくの剣があああぁっ!!」


 剣を折られ、そのまま泣き崩れるアーブ男爵。

 大きな背中を丸くして、威風堂々とした偉丈夫が跡形もない。

 そのあまりに情けない姿に、周囲の騎士たちはたまらず唖然として固まった。

 そして数十秒後――。


「だ、男爵がやられた!!!!」

「もうおしまいだ!」


 先ほどまでの勢いが嘘のように、騎士たちが撤退を始めた。

 さながら、潮が引くかのように戦線が後退していく。


「ああクソ! なんだよありゃ!!」

「もしかすると、あれがヴェチアで暴れた女では?」

「そうかもしれんな……!」


 先日発生した領都ヴェチア襲撃事件。

 今回の遠征のきっかけとなる出来事だが、その詳細を下々の兵士はほぼ知らない。

 大樹海からやってきたと推定される謎の空飛ぶ船によって、公爵家の重要な施設が襲われたということだけが知らされている。 

 しかし、そんな情報が制限された中でもまことしやかに囁かれる噂があった。

 曰く、空飛ぶ船から降りてきた途方もなく強い女が大暴れをしたと。

 ライリーとマルスはそんなものは与太話だと思っていたが、目の前に現れた怪物を見て認識を改めるほかなかった。


「う、撃て! あの女を殺せ!!」


 ここで、フィローリが錯乱しながらも叫んだ。

 その命令に従って、軍勢の奥に座していた大砲が動く。

 ――ドゴオオォンッ!!

 猛々しい砲声が轟き、無数の砲弾が放たれた。

 すると少女は自らに迫る砲弾を見ながら、のんきに口を開く。


「なるほど、面白い兵器でありますな!」


 そう言うと少女は、向かってくる砲弾をあろうことか手で受け止めた。

 それと同時に砲弾が炸裂し、爆風が彼女を襲うが小動もしない。


「魔力を感じないであります。これは噂に聞く火薬というものでありますかな?」


 砲弾の残骸を子細に観察する少女。

 攻撃に晒されたというのに、探求心を優先するその様子は異様ですらあった。

 ――観察者。

 そう、その目はまるで虫の群れを観察する人間のようである。

 はるかな高みから戦場を見下ろしているのだ。

 そのあまりに超然とした姿に、兵士たちは体が硬直して動かなくなる。


「……勝てない」


 冒険者として、多くのモンスターと対峙してきたライリーの本能が叫ぶ。

 あの生き物には勝てない。

 人の姿をしているが、あれはまったく別種の生き物。

 自分たちが戦っても決して勝てる存在ではないと。

 彼はすぐさま部下たちを見渡すと、あらんかぎりの声を上げる。


「撤退だ! 急げ!!」


 ライリーの声によって、惚けてしまっていた兵士たちが我に返った。

 彼らは乱れていた隊列を整えると、すぐさま撤退を始める。

 ライリーの隊を筆頭にしたその動きは、たちまち戦場全体へと広がった。

 見る見るうちに戦線は崩壊し、瞬く間に絶望的な敗走が始まる。


「こ、殺されるぞ! 我々も逃げねば!」

「お前たち、私を守れ!!」


 ここで、これまで比較的落ち着いていた貴族たちもまた混乱を始めた。

 いよいよ自分たちの身に危険が迫ってきて、落ち着いていられなくなったらしい。

 彼らのめちゃくちゃな指示によって状況はさらに加速していく。

 もはや軍勢はただの烏合の衆となり、我先にと走り出す。

 

「骨がないでありますなぁ」


 少女の呆れたような声が響く。

 それと同時に、敗走する兵士たちを見守っていたゴーレムが再び動き出した。

 始まる追撃戦。

 それはさながら、草食獣の群れを狩るかのよう。

 遅れた兵士から次々とゴーレムによって倒されていく。


「嫌だ、置いていくな!」

「うわあああああっ! くるなあああっ!!」


 阿鼻叫喚の地獄絵図。

 兵士たちが無慈悲に狩られていき、断末魔の叫びが響く。

 しかし、ゴーレムたちは手を緩めない。

 冷徹無比な魔導回路は、その主人以外の感情を考慮することはないのだ。


「クソ、クソクソクソ……!! なんなんだこれは!!」


 フィローリは悪態をつきながら、輿の乗っている地竜の背を鞭で打つ。

 その顔にはもはや、戦闘意欲など微塵もない。

 一刻も早くこの場から離脱することだけを考えていた。

 するとここで、フィローリの目にある人物が飛び込んでくる。


「おぉ、ヴィーゼルではないか! お前、少し時間を稼げ!!」


 フィローリに声をかけられたヴィーゼルは、肩を大きく震わせた。

 しかし、そのまま気づかぬふりをして馬を走らせ続ける。

 だが、そのようなことで見逃されるはずもない。

 フィローリは地竜の速度を上げると、強引にヴィーゼルの横を走る。


「おい!! 俺様を無視する気か!」

「フィ、フィローリ様……! すいません、聞こえませんでした!」

「聞こえないわけないだろ! お前、思いっきり反応していたではないか!」

「そ、それは……!」


 フィローリに問い詰められ、しどろもどろになるヴィーゼル。

 ここで不興を買えば、貴族としての人生が終わりかねなかった。


「まあいい! お前はヴィクトルの兄だろう! 俺が逃げるまで、ゴーレムの侵攻を止めさせろ!」

「確かに私は兄ですが、ヴィクトルが今さら話を聞くとは……」

「うるさい! やれ! 貴様を消すぐらい簡単だぞ!」


 有無を言わせぬフィローリの勢いに、ヴィーゼルはやむなく首を縦に振った。

 そして、半ば自棄になったように叫ぶ。


「聞け!! 私はヴィーゼル・シュタイン!! ヴィクトルの兄だ!」


 こうして混沌とする戦場にどこか情けない叫び声が響き渡るのだった――。

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