第113話 王とは何か?
「王について……ですか。森を支配する存在ということ以外には、特には」
豚人族の来訪から数日。
あの一件で王のことが気になった俺は、早速コボルトたちから情報を集めていた。
しかし、彼らはもともと六王とは距離を置いて生き延びてきた種である。
当然ながら王に対する情報はほとんど持っておらず、村長のムムルさんでさえも何も知らないありさまだった。
「参ったな……。何かあるとは思うんだけど」
「エルフたちに聞いてみてはいかがですか? 彼らならば、ある程度の情報は持っているでしょう」
「それが、妙に口が堅いんだよ。触れてほしくないみたいな感じでさ」
街に来たエルフたちは俺たちに対して友好的な立場をとっていた。
彼らの基準からすれば、破格で良質の宿や食料を提供しているのだからある意味当然である。
だがそれでも、王に対しては誰一人として深く語ろうとはしなかった。
マキナの推測では、眼や顔の筋肉の動きからして何かを隠しているそうだが……。
流石にその内容までは、彼女の観察眼でも見抜けてはいない。
「例の竜人族はどうでしょうか? あの者ならば、立場上、ある程度のことには答えてくれそうですが……」
「シェグレンさんのこと?」
「ええ」
「あー……」
シェグレンさんというのは、とある事件をきっかけにイスヴァールに住むようになった竜人族の若者である。
故意ではなかったとはいえ、街を破壊してしまったのを許された過去があるため俺たちの要望にはたいてい応じてくれる人だ。
しかしながら……。
「あの人に聞いたら『王はとにかく凄いんだぜ!』って竜人王の自慢話が始まっちゃってさ。止まらなくなっちゃったんだ」
「あの方はそういうところがありそうですな」
シェグレンさんにとって、竜人王というのは憧れの存在だったらしい。
迂闊にも彼の好みの領域へ足を踏み込んだことで、俺とマキナは二時間ほど延々と語られてしまった。
だがその結果として分かったのは、竜人王がとにかく強いことだけ。
ほかは酒が強いだの鎧のセンスが良いだの、プライベートなことばかりである。
どうやら彼は、王の秘密などについては触れる立場になかったらしい。
「ひとまずは豚人王の監視を続けるのが正解でしょう」
「そうだな。あの様子だと、何かやりかねないし」
マキナにプライドをへし折られて、豚人王の不満が溜まっているのは明らかだ。
ロンさんあたりと結びついて、何か画策しないとも限らない。
万が一、街で反乱でも起きたら大変なことになってしまう。
「現状、新市街地は想定より安定しています。食料をこちらで全面的に供給したのが効いていますね」
「衣食住が整えば、妙なことを考える奴は少ないってわけか」
「はい。加えて、力を発散する場があるのも良いようです」
「発散する場? もしかしてダンジョンのことか?」
「ええ。戦士たちでチームを組み、攻略に当たっているようです」
街へ来て早々にダンジョン攻略を始めるとは……。
戦士が多いとはいえ、なかなか血の気の多い種族だな。
「順調なのか?」
「思いのほか。すでに五階層を突破しているチームもあるようですね」
「豚人族ってかなり強いんだな」
アリシアさんたちの話では、第五階層にいる階層主はレベル六十ほど。
大樹海基準でもかなり強いモンスターである。
その攻略を始めるとは、流石は六王直下の精鋭といったところだろう。
平均でレベル五十ぐらいはありそうだ。
「特に一人、かなりレベルの高いものがおります」
「お? マキナがそう言うってことは、相当なんだな」
「レベル二百以上かもしれません。大蛇様に単騎で打ち勝てるレベルではないでしょうか」
大蛇様といえば、岩山に巣食っていた巨大な怪物である。
その身の丈は数十メートルにも及び、マキナを作り直すきっかけとなった存在だ。
それに単騎で打ち勝てるとなれば、当時のマキナに匹敵するということか。
流石は六王の一角、伊達じゃないな。
「へえ、豚人王も何だかんだ王だけあってやるなぁ」
「いえ、王は動いておりません」
動いていない……?
こういう時こそ、王が率先して動くものなんじゃないのか?
モンスターの社会では基本的に力が物を言う。
こういう時こそ率先して動いて、部下に力を示すべきではなかろうか。
「動いてないって、何をしてるんだ?」
「到着当初から監視をしておりますが、一日の大半を睡眠と食料の摂取と雌との交尾に充てておりますね」
「な、何という……! すごく羨ま……いや、引くぞ!」
食べて寝てエッチする生活に憧れる俺ではあるが、時と場合というものがある。
彼らからしてみれば、長い逃避行の末にようやく住処を得たばかりなのだ。
しかも、最初に起こしたトラブルが原因で住民との関係はあまり良好ではない。
そんな状況でそこまで野放図な生活をできるとは……。
能天気というか、怠ける才能がありすぎるというか。
気楽すぎて羨ましいぐらいだ、俺の方がお腹が痛いぞ。
「ヴィクトル様?」
「あ、ああ。ひどいなと思って……」
「わかっておりますよ、ヴィクトル様はいずれは」
そういうと、マキナは何やら意味深な笑みを浮かべた。
いったい、何をわかっているというのだろう……?
俺はマキナの眼に不吉なものを感じつつも、ひとまず笑うのだった。
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