第113話 マキナの予感
「お、おぉ……!?」
城壁の下から次々と現れた異形の巨人。
その姿と勢いに、豚人王はたちまち圧倒されてしまった。
――我が率いてきた軍勢よりも、はるかに強大ではないか!
彼が連れてきた豚人族の精鋭たち。
それをはるかに凌ぐであろう戦力に、豚人王の背筋が冷える。
恫喝する立場から、される立場へと決定的に切り替わった瞬間だった。
これまではまだ、マキナが強そうだといっても数の力を頼れたのだ。
「我らはいったいどうなるのでしょうか……?」
「これは、すぐに逃げた方がいいのでは……」
「まずい、実にまずいですぞ……!」
あまりの出来事に、豚人王の取り巻き達も動揺を隠せない。
彼らは寄らば大樹の陰とばかりに王との距離を詰めると、怯えた様子を見せる。
しかしゴーレムはそんなこと関係ないとばかりに工事を進めていく。
「あ、ありえん……!!」
あらかじめ加工されているらしい部材。
それが次々と組み合わされ、見る見るうちに家や壁が出来ていった。
ゴーレムならではの驚くべき手際の良さである。
さながら、植物の芽がにょきにょきと生えてくるかのようだ。
「工事完了です。あなた方の体格ですとやや狭いかもしれませんが、居住する上での問題はないかと」
こうして数十分後。
マキナがいまだ呆然としている豚人王たちにそう告げた。
彼らは彼女に促されるまま、立ち並ぶ家の一軒に足を踏み入れる。
「おぉ……!!」
こうして足を踏み込んだ家は、簡易ながらもしっかりとした作りであった。
戦いに敗れるまで彼らが暮らしていた都の家と比べても遜色ない仕上がりだろう。
人間を想定したサイズなのか、出入り口がやや狭い以外は全く問題はない。
むしろ、難民である彼らのために用意されたものとしては贅沢なものだ。
「これは素晴らしい……!」
「ははは! 連中もあれこれ言っていたが、我らのことを認めたというわけだな!」
「……そうなのでしょうか?」
用意された家の様子を見て、すっかり機嫌を良くする王と取り巻きたち。
一方で、ロロ・タウだけは眉間にしわを寄せていた。
いきなり押しかけてきた自分たちに、なぜ質の良い住居を提供するのか。
何かしら裏があるとしか思えなかったためだ。
ロロ・タウは同行していたマキナにすぐさま疑惑の目を向ける。
すると――。
「効率良く組み立てるために、柱や壁などの寸法精度が良いだけです。そもそも質の高い住居ではありませんよ」
「それはつまり……あなた方の観点だと、この家は大したことないと」
「あくまで仮住まい程度のものです」
マキナのはっきりとした口調に、オークたちの表情が固まった。
彼らは互いに顔を見合わせながら、呆気にとられたように目を丸くする。
彼我の文化的な水準にあまりにも差があるようであった。
やがて豚人王は唇をかみしめ、マキナに聞き取られないように小声でつぶやく。
「……まあいいだろう。すべて奪えばいいのだ」
「聞こえていますよ。恐ろしいほどの迂闊さに呆れます」
「ブモォッ!?」
聞かれてはならないつぶやきを聞かれ、たちまちひっくり返りそうになる豚人王。
その情けない姿を尻目に、ひとまずマキナはヴィクトルたちのいる城壁の上へと帰っていくのだった――。
――〇●〇――
「ただいま戻りました」
「お疲れ様」
ひょいっとジャンプして帰ってきたマキナを笑顔で迎える。
いやはや、凄いというか何というか……。
先ほどまで草原が広がっていた土地に、簡易的ながらも街が出来ている。
ゴーレムたちの労働力の凄さは知っているが、流石にこれは驚いた。
それに――。
「あのブロックを組み合わせるような建築法。もしかして、俺が前にアイデアを出したやつか?」
「はい。ヴィクトル様はそこまでの建築速度は過剰だとおっしゃられましたが、いざという時のために必要かと思いまして」
しれっと言ってのけるが、まったく大したものである。
あれだけの建築速度があれば、戦争とかにも応用が利きそうだ。
もし父上が知ったらいろいろ良からぬことを考えそうだな……。
まぁ、ゴーレムの大群や空飛ぶ船がある時点で今更の話ではあるのだけど。
「これからは新技術を実用化するときはあらかじめ連絡してくれ。あと、あのゴーレムの大群についても事前に知らせてほしかった」
「……大変失礼いたしました。ヴィクトル様を驚かせようと思いまして」
「驚きすぎて、腰が抜けそうになったよ」
「歩けなくなった際は、私が代わりに背負いますのでご心配なく」
そういうと、マキナは柔和な笑みを浮かべた。
その屈託のない表情に、俺は何とも言えない安心感を覚える。
その気になれば、俺から実権を奪うことなど容易いのだろうが……。
今の彼女には全くその気がないことが感じられる。
「それより、豚人族たちの件ですが……」
「当面はあの街に住ませて様子を見るしかないだろうな」
「それもそうですが、気になる点があります」
「気になる点?」
いったい、何に気づいたというのだろう?
俺たちが首を傾げると、マキナは声を潜めて言う。
「あの豚人王ですが、力と精神性があまりにも不釣り合いです。当初は豚人族という種自体がそういったものかと思っておりましたが、そうではないようでした」
「もしかして、彼らの内部でクーデターが起きるかもしれないってこと?」
「いえ、彼らは王に従わなければならない理由があるように見えます。もしかすると、この大樹海において王という存在は我々が思っている以上に特別なのかもしれません」
うーん、これはいろいろと調べた方がよさそうだな……。
マキナの言葉に、俺はフームと顎を撫でる。
これはもしかすると、また魔導王国あたりに出かける必要があるかも知れない。
「わかった。ひとまず今日のところは、解散しよう。今後については後日、改めて会議をしたい」
こうして俺は、その場に集まっていた皆を解散させるのだった。
読んでくださってありがとうございます!
おもしろかった、続きが気になると思ってくださった方はブックマーク登録や評価を下さると執筆の励みになります!
下の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にしていただけるととても嬉しいです!




