5 僕はいない
クロッシェを目深に被り、メガネとマスクをつけ、気分は大正時代のモダンガール。通称モガ!
わたしはバカと呼ばれてますけどね。
ハイカラさんが通るならぬメンヘラさんが通る!
ーーなわけですが、そんなメンヘラさんはただいま某デパート内の本屋で目的のブツを物色中。
太宰治の『人間失格』だ。
『人間失格』といえば、太宰で最も有名な作品である。愛人・山崎富栄との入水自殺(本当に自殺だったのかはわからんけど。遺作である『グッドバイ』に自分をネタにされたことでブチ切れ、富栄が強引に玉川上水に引き摺り込んだのではないかとの説もある)前に書かれた最後の長編。太宰自身をモデルにした大庭葉蔵の半生を描いた作品で、これと同名の主人公が太宰の第一作品集『晩年』の中の『道化の華』にも登場する。
ーー道化! まさにバカを演じて世間を生きるわたしにピッタリの言葉じゃないですか。『人間失格』は、この『道化の華』のセルフリメイク作品みたいなもので、これを遺書代わりに抱えてわたしは死ぬ。残された者たちは、わたしが大事そうに抱えた『人間失格』を見て、「うむ、これはダイイングメッセージなんじゃないか!?」と考えて各々勝手に考察するだろう。
「ミタネ屋」や「ワイ、ドウナットンノヤショー」などでわたしの自殺の真相をめぐって、喧喧諤諤[けんけんがくがく]の論争に発展する!超見てえけど、自分じゃ見れないのがつらい。