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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
弐章:禁忌を恐れた日
79/300

79.袋小路に追い込んだのなら、後戻りすることは無い。

袋小路に追い込んだのなら、後戻りすることは無い。

追い詰める気が無かったとしても、追い込んでしまったのであれば、所詮その程度の相手。

情けをかければ、やられるのはこちら側なのだから、そのまま押し込んでしまえば良い。


「戻ってこれましたか」


丸い窓の外、藍色の空が見えた。

ここは四隅を白い壁に囲まれて、青いカーペットが敷かれた現代的な部屋。

その一角、壁に寄り掛かっていた私の前に、八沙がしゃがみ込んで尋ねてきた。


「あー、ここは?モトの部屋?」

「はい、もう夜です」


普段通りの八沙の口調。

白菫色の髪を持つ、私によく似た顔の男の子形態。

さっきまでの同心姿ではなく、京都の街を歩く時の様な着物姿だ。


「どうやって私達の居場所を?」

「帰りが遅いので、今朝から潜り込んで色々調べ回っていました。ようやく情報が掴めて、魚河岸に向かった所で呪符の光が見えたので」

「それで私達がそこに居ると」

「はい。沙月様の呪符かと思ったのですが、あれは元治様のだったんですね。随分強くなっているようで」

「鍛えてるみたいだし、ここにきて鍛えてまた伸びてたし…で、モトは?」


ゆっくりと頭を動かせば、部屋の反対側、敷かれた布団の上にモトが横たわっている。

傍には沙絵がいて、呪符を何枚も使って治療している真っ最中。

昨日まで真っ白だった布団が、所々赤く染まっていた。


「大丈夫ですよ。軽傷です」

「とてもそうは見えないんだけどね」

「体は軽傷、内面は重傷かな。一先ず手当して、彼は"現実"に戻ってもらわないと」

「私はまだ働けと?」

「そろそろ体も動くでしょう?」


軽い調子でそういう八沙。

ヒュッと彼が小突いてきて、私は咄嗟に手を出しそれを防ぐことが出来た。


「本当だ」

「まだ感覚は戻って無いでしょうけど、もう健康体なんですよ」

「なんか、まだ、頭が動いてないというか。怠いんだけど」

「寝起きだからでしょう。沙絵!鏡貸して」


そう言って、沙絵から投げられた手鏡をキャッチして、私にそれを向ける。


「今の沙月様、こうなってます」


久々に見た鏡、そこに映った私の顔は、自分が知っている顔ではなかった。

さっき、刀に映った時のような、ちょっと歪な"人ではない"姿。


「うわぁ…」


鏡に映る私の顔。

白菫色の髪と、細い目つきをした顔はそのまま。

違っていたのは、右頬の傷痕と肌の色、そして頭の上に生えた狐の耳。


元ある傷痕が更に成長したような傷痕。

元々白い肌が、更に病的さを増した青白い肌。

そして、髪の色に合った毛の色をした、大きな狐耳。

聞こえがおかしいと思ったら、音はここを辿って聞こえているらしい。

人間の耳も、消えていないが、塞いだところで外から聞こえてくる音に変化が無かった。


「本物だ」


意識させればヒョコヒョコと動く。

触ってみれば、そこだけ猫を触ってるかの様な感触。

耳の周りだけ、ほんのりとモフモフして暖かい。


「やっぱり、夢の中なんじゃない?」

「現実です、沙月様。さっき色々見させて貰いましたが、外に出れば、まだ人に戻ります」

「そうなの?」

「"純度"が違うので。僕達の様に、人間の匂いが消えてはいないのです」

「そんなものなの。でもなんで耳が?」

「角じゃないのは変ですけどもね。入舸の者はそれなりに"色々混じって"いるので…」


鏡を沙絵の方に投げ返す八沙。

一度沙絵の方に向けられ、こちらに向いた彼の顔は、ほんの少しだけ真剣味が違っていた。


「して、沙月様。元治様と2人、託された仕事の内容は覚えていますか?」


丁寧な口調。

だが、その声色は少しだけ低められている。

私は、コクリと頷いた。


「拠点だけ見つければ良かったんでしょ」

「はい。どうしてああなったんですか?懐まで入り込んで」

「見つけて帰ろうとはしたさ。ただ、鬼に囲まれて」

「鬼に?」

「降ってくるついでに斬ったあの鬼。あの鬼、近所の蕎麦屋の店主さ」


そう言って、事の顛末を話す。

八沙の表情は、その間、一切変わらなかった。


「あそこで終わっても、その下の倉庫までは分からなかった」

「怪我の功名でしょうが、どの道、悪手です。魚河岸の中というだけで、後は本家の"執行部"に任せておけば良かったのですから」


ひとしきり説明しきった後、この形態の八沙に珍しく叱られる私。

気まずさを感じつつも、立ち止まる事もせずに突き進んで、私の姿がこうなってしまったと考えれば、彼のいう事が全てにおいて正論だった。


「それで、私達を連れ戻しに?」

「いえ。最初はそのつもりでしたが、そうも言ってられません」


一通りの"お叱り"の後。

八沙は私の問いに首を横に振る。


「元治様はここまでですが、沙月様はもう少し、居てもらいます」

「1人?」

「僕が付いてます。目標は拠点の壊滅。彼らも放っておかないでしょうから」

「壊滅。葉津奇と、ギター男を消せばいいの?」

「ええ。目撃証言のある28号はあの2人。ギターの方は段陀沢と言います。沙月様が知らないのは意外でしたが」

「そう?あの男、見た覚えなかったけど」

「偶に沙月様が聴いてる、"THE Twenty Eight"というバンドのギターボーカルですよ」

「え?あんな顔だったっけ?」


八沙の情報に、私は思わず目を見開く。

目と同時に、頭の上の耳も動いていた。


「ダンダンって、確かにモトも言ってたけど、まさかそのダンダンだとは思わなかった」

「元治様も知っていたのですか」

「曲、良い趣味してたのに。"Tod Leopard"とかさ。あぁ、この辺の妖だったの」

「彼が妖なのは知っていましたが、まさかでした。バンド名も随分ストレートで」


八沙はそう言って苦笑いを浮かべた。


「確かに。28号って、まさかと思っても、冗談にしか聞こえないしね」

「ええ。兎に角、葉津奇と段陀のどちらかを捕まえ、あの趣味の悪い"ドナドナ"を終わりにさせれば、僕から上に報告ができます。後の事は任せてください」

「倒すまでは、私の力がいるって?」

「はい。時間も手すきの人間もいませんので」


その言葉に、小さく頷く私。

再びモトの方へと顔を向ければ、彼の容体はさっきよりも大分マシになっていた。


「沙月様、もう少しで外に出ます。準備を」


八沙に言われ、私はゆっくりと立ち上がる。

自分が思っていた以上に軽く動く体、八沙は、体を適当に動かして驚いている私に、さっきまで下げていた刀を寄越してきた。


「事が済めば、暫く妖の力とはお別れです。あと1日半、使える力は気にせず使って下さいね」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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