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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
弐章:禁忌を恐れた日
78/300

78.気まずい空気の中では、結局黙り込む事しか出来ない。

気まずい空気の中では、結局黙り込む事しか出来ない。

何か空気を変えようかと、思う事はあるんだけど、結局変え方を思いつかない。

だから、私はそのまま黙って、時間が過ぎるのを待っているだけ。


「ナ…!」


オレンジに染められた霧の中。

"人間置き場"と化した、魚河岸の中の倉庫の一角。

天井から降って来たのは、導火線に火が付いた何か。

小さな何か、導火線の火は、空中にいる間に燃え尽きてすぐさま派手な爆発音を鳴らした。


「深追いしないようにと、沙雪様に言われていたはずですよ?」

「まぁ、引くに引けなくなったから、もう仕方が無いけどね」


その爆発音、爆竹の音。

直後、更に2人分の人影が降ってくる。

同心みたいな、黒い羽織りに着流し姿の人影。

その髪は白菫色で、その顔は、見慣れた顔。


「ア…ア…!」


私とモトの間に着地した2人。

2人の登場と共に、この場を纏っていた霧が晴れていく。

沙絵と八沙は、気だるそうに立ち上がると、葉津奇とヤマシロの方へ振り向いた。


「沙月、1匹、やり残しましたね」


八沙の手には、いつの間にか抜かれていた刀が握られている。

その刀身、何者かの血が付いており、彼はその血を雑に拭うと、刀を鞘に収めた。


直後、ヤマシロの体はパラパラと崩れ落ちる。

両手足、首だけでは済まされない、文字通りの木端微塵。

ヤマシロは、悲鳴を上げる間もなく、言葉を上げることもなく、床に崩れ落ちた。

沙雪はヤマシロの頭を拾い上げて、それを懐から取り出した袋に突っ込む。


「聞きたい事が幾つかあってね」


袋の中、見えなくなったヤマシロの頭にそう語りかけると、視線は葉津奇の方へ。


「さっきまでの余裕は何処へやら。といった所かな、葉津奇ぃ?」


一瞬の間の出来事に、驚き固まる葉津奇の姿。

沙絵は、そんな彼を見て、ニヤリと趣味の悪い笑みを投げかけた。


何も持たずに佇む沙絵。

だが、葉津奇の様子は、さっきまでの余裕ある態度とは正反対。

顔中に冷や汗を流して震えている。


「久しいね。いつかの借りを返してやろうかと思ったけど。その様じゃあ、別にいいや」


沙絵の声は、いつも以上に棘が強い。

よく見れば、葉津奇の姿、右腕と顔の一部が"砕けて"いた。


「よくも…何故…だ」

「幾ら霧に隠れようが、手を砕かれちゃ、何も出来ないだろ」

「私の身体が、どうして!」

「アンタ、もう少し、自分に詳しくなるんだね」


砕けた手と耳から血を流す葉津奇。

更に、少し遅れて破裂音。

彼の左足が弾け、葉津奇も、私達と同じように床に崩れ落ちる。


「穴が開けば、やる事は同じ」


沙絵が赤紙の呪符を懐から取り出した。


「沙絵、待って!」


それを止めたのは八沙の声。

その辺りで、ようやく私の体は私の言う事を聞き始める。


「今はこっちに分が悪いです。雑魚1匹、動けないならそれでいいでしょう?」

「ふーむ?ああ、まだ、いるのか」


八沙の言葉に、沙絵は部屋の窓から外を見回して一言。

すぐに呪符を仕舞いこむと、私の方へと歩み寄って来た。


「元気があるなら、叫んでも良いですよ」


ようやく動き出した体。

私の腕を沙絵はグッと掴みあげて引き寄せる。


「ウグァ!」


言葉にならない叫び声。

激痛が体中を駆け巡り、表情が歪む。

そのまま沙絵に抱きかかえられると、私の口元は、沙絵の手に塞がれた。


「ゥー!ンンンーー!」

「シー。その元気が残っていれば十分です」


一気に体を動かされ、痛みに叫ぶ私。

塞がれた口元から漏れ出る悲鳴に、沙絵は悪戯が成功した時の様なニヤけ顔を向けた。


「では、撤収しましょうか」


そこから上へ飛び立つ。

急激な変化に、体が上げる痛みは更に増した。

最早叫ぶ事も出来ない私。

飛びそうになる意識の中、沙絵を掴む手だけは離すまいと力を込める。


終わらない浮遊感。

2人は長屋の屋根から降りてきたらしい。

気づけば、外に見える光景に、碁盤の目の街並みが見えていた。


ヒューっと上昇して、ピタッと止まる。

空はまだ、オレンジ色の光を放ち、眼下には美しい碁盤の目の街並み。

沙絵は私の顔を見て笑みを浮かべ、その横に居る八沙は反応のないモトを抱えていた。


「さて、あの部屋ですね?」


反応の鈍い私に、沙絵が尋ねてくる。

指した先は、モトの部屋のある長屋。

この高さからでも、モトの部屋の、特徴的な丸い窓が見えた。


微かに頷くことしか出来ない私。

沙絵は、そんな私の顔に呪符を1枚貼り付けると、そのまま部屋の方へ降下し始めた。


数秒後。

降り立ったのはモトの部屋がある長屋の目の前。

衝撃に体中のあちこちが悲鳴を上げ、遂に私の意識は半分以上、どこかへ消えていく。

さっき倉庫の中で見えた、何処かの桜の木の下の光景が、目の前の光景に重なった。


「桜、綺麗、桜」


うわ言の様に呟く。

沙絵の苦笑いした顔が、その景色に紛れ込んだ。


「いよいよ、戻ってこれなくなるかな」

「まだ平気。暫く人間になっててもらう事になるけど」

「そっちは?」

「軽い怪我って所かな。本人がこういうのに慣れてないせいか、気絶してるけど」

「沙月様に合わせると、そうなるでしょうよ。彼は只の人でしかないんだし」

「確かに。で、治療、頼める?」

「え?嫌ですけど」

「沙絵?」

「勿論やるって。職業柄なの。これ」

「全く」


沙絵に揺られながら、2人の会話を聞きながらモトの部屋へ歩いていく。

薄れかけの意識、現実と幻想が混じりだした景色が途切れる間際、2人の声が耳に届いた。


「これからどうするかねぇ」

「毒を食らわば皿までって、感じじゃないかなぁ」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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