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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
弐章:禁忌を恐れた日
76/300

76.次から次へと事が起きれば、先のことなど考えてはいられない。

次から次へと事が起きれば、先のことなど考えてはいられない。

目の前で起きた事を、ただ、片付けていく事で精一杯。

何かに追われている時に、それが終わったらどうしようかだなんて、考える暇もないだろうさ。


「エ?」


モトの叫び声、それとほぼ同時に、私は彼に突き飛ばされた。

オレンジ色の光が差し込む倉庫の、暗がりの方へ飛ばされる。


刹那。


耳を劈くギターの音色。

空気が震え、そこに悲鳴が轟いた。

見えたのは、鋭くも輪郭がぼやけた、斬撃の様な影。


「あっ…ぐ…」


驚いた私の眼前、オレンジ色の光に照らされたモトの体が何かに貫かれる。

その周囲、檻で喚いていた"人間"達の声も、一瞬のうちに、かき消された。


「モト!」


血を吹いたモトに駆け寄る。

彼を引き寄せ、"何か"が飛んできた方へ刀を向けた。


腹部や胸元に大穴が開いたモトの体。

割れた狐面が床に散らばり、狐面の奥、苦悶の表情を浮かべるモトの顔。

更に見れば、全身に細かな傷が見えた。


引き寄せた私の着物に、彼の血がしみ込んでくる。

ギターの音色はそれ以上鳴り響かず、代わりに、牢の隙間から何者かの影が見えた。


「おっと、仕留め損ねてるな、ダンダ。珍しい事も有るものですね」


その声と共に、倉庫の中に霧が立ち込めてくる。

影は2つ、いや、その後ろにそれ以上。

その先頭に立っていたのは、胡散臭いという表現がピタリとハマる長髪の中年男。


「28号。葉津奇…英軌」


長髪パッツン髪、丸い片眼鏡をかけた色黒の顔には、両目を縦に貫く深い傷が走っている。

ブレザーを着た良い身なりをしていたが、この薄気味悪い霧と、浮世離れした見てくれが、人ではない証拠だ。


「あらあら、オデを知っていたのですか。でしたら、こちらの男は更に有名人でしょう」


霧の中、葉津奇が早口言葉で喋る後ろで、もう1人の男の姿が鮮明になって来た。

彼とは正反対の、病的なまでに青白い肌を持つ若い男。

耳元まで適度に伸ばされたボサ髪にしかめっ面、垢抜けた格好に、肩から下げられていたのは、黄色いアコースティックギター。

その姿を見止めた時、モトが力ない声を上げた。


「ダンダン…」

「ハ?あのヤル気の無さそうナ男が?」


霧の中から現れた者達と対峙しつつ、その裏でモトに呪符を当てて治療する。

モトの体から流れる血は、少しずつ弱まって行ったが、それでもまだ収まらない。

和服が切り裂かれたせいで、呪符の枚数は一気に心許ない枚数にまで減っていた。


「ヤバい」

「…すまん」

「黙っテナ」


小声でやり取り。

葉津奇はゆっくりとにじり寄ってくると、ギターを手にした男が傍に来るのを待つ。

2人の背後、霧に覆われた人影、頭に角が見える限り、上で対峙した鬼達の様だ。


「やはり知っておられましたか。ダンダ、彼が、言っていた少年?」

「さぁな。白髪のガキを見た気はするが、面まで覚えちゃいねぇぜ」


ゆっくりと、霧を纏って来た2人。

動きはゆっくりなのに、喋りは共に早口。

共に、何処か私達を下に見ているような、下衆な目をこちらに向けていた。


「子供にしては、防人と言えど、よくやる様ですね」

「といえど、所詮、ガキだ。どーするよ?これ」

「もう、どうにも出来ないでしょう。玩具にしては?」

「つまらん。ライブ前なんだ。手間かかるだけだぜ?テメェでやれや…」


そう言うなり、手にしたギターをそっと奏でる。

少し高く、切ない音色。

その音は、一瞬のうちに"刃"と化し、ヒュッと霧を"歪めて"こちらに向かってきた。


一閃。


モトの前に立って、手にしていた刀でそれを弾く。

切ない音色は、ゆらり揺れた音に変化して、やがて消えていった。


「おっ」


ダンダンと呼ばれた男がピクッと眉を上げる。

彼のやる気なさげな顔が、私に向けられた。


「そこの女狐。良い腕してるな」


気だるげだった声色に、少し活気が混じってくる。

その声に、横に居た葉津希が呆れた顔を浮かべた。


「段陀。時間が無かったんじゃなかったのか」

「うるせぇよ。玩具にしろっつったのはテメェだぜ」

「直ぐ片付けられないならヤメロ。駒もいる」

「あ?鬼風情、雑魚を幾ら差し向けた所で倒せやしねぇよ!」


段陀と呼ばれたギター持ちの男。

どうも葉津奇との相性は良くないらしい。


「お前な、人間相手にマジになるな。この程度」


葉津奇の呆れ顔がこちらに向けられる。

何か嫌な感触が頭の一部から、ピクッと背中に伝った。


「…くっ!」


モトの手を引いて床を蹴飛ばし、一歩部屋の奥へ。

直後、私達が立っていた箇所が"何か"に下から突き上げられる。

床を突き破って来たのは、"無数の手"。

その光景を見た私は、奥歯をきつく噛み締めた。


「おっと」


意外そうな表情を浮かべる葉津奇。

立ち止まるわけにはいかないらしい。

モトを抱えて右に左に、前に後ろに動き回る。


「なるほど、勘が鋭いですねぇ。でも!」


一歩も動かない葉津奇。

彼の表情、口角が嫌らしく吊り上がった時。


「あっ!…が」


私の右頬を"拳"が突き抜けた。

クシャっとした感触。

骨と歯が砕け散り、危うく右目が吹き飛びそうになる感覚に浸りながら宙に浮く体。

それでもモトの事は離さなかったが、2人宙に浮いて、掴まれて、そのまま床に叩き付けられた。


「段陀ぁ、所詮はこの程度だ。人間なんて、都合のいい燃料でしかない」


葉津奇の嫌らしい高音の早口言葉が、ねっとりとした妖らしい言葉に変わって行く。


「"鬼"でも十分なんだよ、この数なら。"商品"になる程度にシメてやれ。無理ならせめて、そこに転がる"燃料"位には残すんだな」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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