表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
弐章:禁忌を恐れた日
71/300

71.想像通りに進んでいる時は、足を止めるべきかどうかで迷う。

想像通りに進んでいる時は、足を止めるべきかどうかで迷う。

そのまま進めて、次から次に進んでいきたい自分が体を動かしている一方。

それを何処か嘲るような目で見て、何か起きたら「ほら見た事か」って言ってる自分もどこかに居るんだ。


「蕎麦と天ぷらと。あ、あと、蕎麦湯は多めで」


異境に来て4日目の朝。

オレンジ色の空が碁盤の目の街を照らし、通りの上の提灯に明かりが灯りだした頃。

私とモトは、蕎麦屋の隅の席で、タンバに注文を入れた。


「さて、来るかな」

「どうだか。来なかったら、ここで打ち止めね」

「分かってる」


蕎麦屋の隅は、通りからも、店内からも見えづらい位置。

先に話を付けていた鬼に、態々用意してもらった特等席だ。

狐面を半分被った私と、狐面を被って、昨日と同じ"完全防備"状態のモト。

傍目から見れば、私達を"エカキ"と"ラクハラ"と知らない限り、妖にしか見えないだろう。


「で、なんだって天ぷらまで頼んだんだよ」

「あー、つい。どうせこの後、何かあった所で散歩だろうし」

「残すのも…忍びないもんな」

「ま、チップって事で」


緊張感は、そこまで感じない。

元より、来てラッキー、来なくて当然位の心持ち。

すぐに蕎麦と天ぷらがテーブルに並び、私達はちょっと遅い朝食に手を付け始めた。


「飽きないね」


ずぞぞっと啜って、程よいまろやかさ?のようなのを感じる蕎麦の味。

その後で、天ぷらを蕎麦と同じ汁に付けて食べれば、この2つがセットになってこそ良い物だと思い知る。


「美味しいよね。ここの蕎麦」

「ああ。何だかんだ、迷ったらここだしな」

「"運び人"も、舌は狂っちゃいないわけだ」

「どうだか」


朝の客に交じって食べ続け、テーブルの上はあっという間に空になった。

最後に残した葉っぱの天ぷらを取って、それに塩を振って食べて、終わり。

酸味と甘味がある葉の味に、塩が程よく絡む。

シメに良い…その後で、熱いお茶を啜れば完璧。


「ソバユ。ツユ、タシトク」


食べ終えたドンピシャのタイミングで、ヤマシロが蕎麦湯を持って来た。


「ありがと」


蕎麦湯の入った急須を受け取り、注いでくれた汁に早速それを混ぜ入れる。

その後で、モトの方に急須を渡すと、彼もまた蕎麦湯を汁の中に流し入れた。


「どれくらいで来るの?」

「サア。タダ、クルトシタラ、ソロソロ」


空になった皿を片付けつつ、ヤマシロはそう言って去って行く。

それを、蕎麦湯を飲みながら見送ると、小さくため息を付いてモトの方に向き直った。


「やっぱ、思い過ごしだね」

「何が?」

「昨日の話さ」

「んー?」


首を傾げたモトに、私は何も言わずに鬼の方を指さす。

そこでようやくモトの表情が晴れた。


「本当に、後は待つだけ」

「そうなりゃ、暇だな」

「良いんじゃない。こういう時間があっても」


半分ほど飲んだ蕎麦湯をテーブルに置いて、楽な姿勢を取る。

朝から蕎麦と天ぷらは、流石に重いというもの。

お腹を摩ると、普段はシュっとしている胴回りが、ほんの少し太く感じた。


「食いすぎか?」

「はっ、オブラートに包んだね。その通りだけどもさ」

「朝っぱらからこれは辛いわな。確か、普段はパンしか食わないだろ?」

「そ、朝パン民族」

「よくやるよ。意外と、この世界来て舞い上がってるよな」

「言ったでしょ。空気は合うんだって。良いか悪いかは別として」


テーブルの上に蕎麦湯が2つ。

それを挟んで、私達は雑談を続ける。

時折外の方を見ても、明るい時間帯を行く妖の行き交う姿が見えるだけ。


「何時まで粘る?」

「夜になるまでは良いんじゃない?3食、蕎麦になるけど」

「了解。こういう時は、蕎麦屋のカレーとかその辺があればなって思うよな」

「全くさ」


蕎麦湯を飲んで、雑談しての繰り返し。

そんなことも、体感で1時間か2時間、やっていれば飽きてくるものだ。


「これ、いざ動くってなったらスイッチ入るのかな」


店内の客が4巡位回った頃。

3度目のおかわりを経た蕎麦湯にも飽きてきた頃。

何度目かの言葉をモトに告げた瞬間、入り口の方からの光が一瞬、遮られた。


「……」

「……」


2人、入り口に顔を向けてすぐに顔を見合わせる。

狐面の奥の表情は分からないが、きっと、私と同じように口元を引きつらせているはずだ。


入って来たのは、1人の"運び屋"。

ヤマシロと言葉を交わしたその妖は、フラフラと空いている席に向かう。

ヤマシロはその妖を見送ると、私達の方にゆっくりと顔を向けた。


「どうする?」

「出よう」


モトの問いに、私は席を立って答える。

彼の答えを聞く前に、彼の手を引いて入り口の方に戻ると、ヤマシロのお代を手渡した。


「ありがと」

「アア」


無駄な言葉は交わさない。

店を出て、少し歩いて、蕎麦屋の入り口がギリギリ見張れる所までやって来た。


「尾行か」

「そう。映画みたい」


長屋の壁に寄りかかる私達。

蕎麦屋の方を気にするモトの横で、私は懐から呪符を3枚取り出す。

モトの腕を引いて身を寄せると、取り出した呪符を彼の腕と首元に、適当に貼り付けた。


「沙月?」

「御守り。銭湯に居た奴よりも、妖力が強かった。近くにいると、人だってバレるかも」

「なるほど。サンキュー…」

「まさか、ここにきて順調になるとはね」


呪符を貼り付けて、その後でスマホを取り出して沙絵と八沙にメッセージ。

すぐに既読は付かなかったが、まぁ、別に構わない。


「保険はかけておくに限る」


そう言いながら、心臓の鼓動が少し早まった。


「何の変哲もない屋敷に案内してくれればいいのだけど」


お読み頂きありがとうございます!

「いいね」や「★評価」「感想」「ブクマ」等々頂ければ励みになります。

よろしくお願いします_(._.)_

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ