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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
弐章:禁忌を恐れた日
68/300

68.色々と付き合いが増えてくれば、何故か自分が大きくなったと錯覚してしまう。

色々と付き合いが増えてくれば、何故か自分が大きくなったと錯覚してしまう。

そういう時こそ、注意を払うべき時だ。

そのままの勢いで、進んでいければどれだけ良いだろうかと思ってしまうが、自分を見誤るもんじゃない。


「見つからないもんだね」


オレンジ色の空が、一番明るくなる時間帯。

昼間時の通りは、昼間に働く妖達でごった返していた。

通りの隅で、私とモトは、妖達の姿を眺めつつ、次の手を考える。


「"ゴノヤカタ"ってだけじゃ駄目だったか?」

「あからさますぎる名前だと思ったんだけどね」

「連中の呼び名ってだけみたいだな」

「奉行所に聞いても駄目だった時点で察するべきか」


昨日、銭湯で得たヒントから、"運び屋"の拠点を掴みたかったのだが、それがどうにも上手くいかない。

まだ、1日は半日以上残っているが、それなりに有力そうな妖に尋ねて回ってこの様だ。

終わったも同然だった昨日の夜の私を、グーで殴ってやりたい。


「そうこうしてる間に、昼時か」

「だね」

「今日は何にする?」

「んー、蕎麦屋に行かない?あそこで知り合った妖には、まだ聞けてないし」

「いいけど。昼間っから居るもんかね」

「あの鬼二人にも尋ねてみたいしさ」

「じゃ、決まり」


通りの隅でウダウダしているのも勿体ない。

蕎麦屋の方に足を向けると、少し先に見える店の方へ歩き出した。


「刀の手入れもしたいんだよね。朝から4体分斬ってるし」

「じゃ、店に持ってかないと駄目だな。部屋に手入れ道具ないし」

「刀だけだったの」

「使うとも思ってなかったしな。手入れ道具は、"向こう"の家だ」

「そう、後で連れてって。なんか、手に馴染みが良くて。気にいっちゃった」

「やっぱ妖の作った道具の方が良いんだな。沙月は」

「妖力が籠ってるからね」


通りを歩き、蕎麦屋の前にやってきて、扉を開けて中に入って行く。

入ってすぐ。

初めて入った時のように、私達の事を見てビクついた赤鬼が私達を出迎えた。


「ヒト!…イラッシャイ」

「もうビビらないでよ。昨日も風呂屋で会ってるんだし」

「ナレナクテ」

「クックッ…なんか、いいキャラしてる。何処でもいい?」

「アア」


おどおどしているタンバの横を抜け、適当に空いてる席に付く。

頼むものも決めて、注文を終えると、私達はふーっと一息ついた。


「探せなかったとしても、何とかなるか」

「十分、探し出せるだけのネタは見つけられたでしょ」

「それもそうか」


すっかり厭戦気分。

腰に下げていた刀を横に立てかけると、立てかけた2本の刀の柄を触って弄ぶ。


「そう言えばよ、どうしても勝てないって言ってた奴に勝てたのか?」


そうしていると、モトが不意に尋ねてくる。

狐面を外した彼の顔をジッと見据えると、私は小さく首を振った。


「命がけと競技は別物さ。勝てないね。きっと、もう」

「凄い奴も居たもんだ。防人で、20代位までなら、負けた事無いのにな」

「防人だと、竹刀よりもこっち使う事が多いからね。やっぱり競技にのめり込んでる連中とは"熱量"も違うし、それに合った"技"だってある。別物さ」


蕎麦と天ぷらが出て来るまでの話題は、今の仕事に全く関係が無い。

一足先に出された、お冷代わりの茶を呑みつつ、私達は"異境"の景色の一部に溶け込んでいた。


「モトも知ってるはずだな。私が勝てない人」

「この間、修学旅行の時に会ってる?」

「会ってる会ってる。正臣さ。悪霊に憑かれてなきゃ、先ず勝てない」

「はぁ?細い優男みたいな奴だったぞ?」

「竹刀持つと性格が急変するから。思わず祓いたくなる位」


他愛のない雑談。

数少ない"友人"の話をしてみると、モトは分かり易いくらいに驚いた顔を浮かべた。


「人は見かけによらねーな」

「ねー。これくらいの年になれば、体格差も出て、もう敵わないし」

「沙月ならまだ何んとかなるだろ」

「普段は呪符で"強化"してるからさ。素で勝ちたかった。せめて中3終わりまでに」


そう言いつつ、思い出すのは高校に上がる前の春休み。

何時ものように呪符も何も使わずに挑んで負けて、正体がバレたのだからと言って呪符で強化して挑んでも、彼には勝てなかった。

思い出して、奥歯を噛み締めると、モトは口元を僅かに緩ませる。


「負けず嫌いだよな」

「嫉妬深いんだよ」

「そうだった」


そんな会話をしているうちに、青鬼が私達の注文した物を運んで来た。


「マタセタ」


テーブルの上に並ぶのは、二八蕎麦と天ぷらの盛り合わせ。

お茶のおかわりを貰って、蕎麦湯が置かれれば、頼んだものが全て揃った。


「デ、チョウシ、ドウダ?」


ヤマシロは、すぐに戻らず私達をジッと見下ろして尋ねてくる。

その問いで、急に現実に戻されたような気がした。


「全然。昨日、切欠になりそうなのは分かったんだけどね。ほら、銭湯で会った時に」

「スレチガッタナ」

「そう。そこでさ、"ゴノヤカタ"って、チラッと聞いたんだけど。この辺に無い?」


箸を取りつつ、ヤマシロに聞き返す。

表情を滅多に変えない彼は、珍しくピクッと眉を上げると、顎に手を当てた。


「ドウダッタカ」

「似た単語には聞き覚えがあるとか?」

「アア、ソレトナ、エカキ。"ハコビヤ"、ミタゼ」


ヤマシロの言葉に、私もモトも身を乗り出す。

別にどうでもいいと思っていた事でも、"何か進展がある"となれば話は別だ。


「本当?」

「アア、キョウ、キテナイガ、ウチニキタ。デカイノ」

「昼間に動くのか…」

「デテッテ、ソノサキマデ、ワカラナイガ」

「十分十分。"ゴノヤカタ"が空振りでさ、見つかる手掛かりも無かったのさ」


知った顔からの、思いがけない情報。


「ありがと。これ、お酒代」


笑みを浮かべてヤマシロに情報代を渡す。

彼は微かに口元に笑みを浮かべて受け取ると、手にした金を顔の前に掲げた。


「タシカニ。アシタ、ハッテミルカ?」

「朝からやってるんだっけ?」

「アア」


頷くヤマシロ、私は彼の顔をじっと見据えると、笑みを深めた。


「なら、そうさせて貰おうかな。この後は楽して、色々見て回ってみるのも良いのかもね」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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