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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
弐章:禁忌を恐れた日
63/300

63.普通じゃないことをしている時、覚える必要が無い事まで頭に残ってしまう。

普通じゃないことをしている時、覚える必要が無い事まで頭に残ってしまう。

光景と一緒に頭に残った事は、不意に何かの拍子に思い出せる。

そういう類の事で、何かプラスになるような事を覚えるのは、中々無いんだけどさ。


「モト。これを」


白い湯気が立ち込める中、湯船に浸かった私達。

電気風呂のピリ付く感覚に慣れてきた頃、隣に座ったモトに、手ぬぐいを手渡した。


「え?何?」


隣の湯舟には、探しても手がかりすら掴めなかった"運び屋"の妖が3人。

今は幸いにして、"異境"の妖に私達の存在は認知されていないが、この距離なら何があってもおかしくない。


「…!いえ…タダの手ぬぐいじゃないから。コレ」


一瞬、ロクでも無い発想が思い浮かんだが、直ぐにその発想を隅に追いやった。

困惑した顔を浮かべるモトの頭に、受け取ってもらえなかった手ぬぐいを巻き付ける。

そして、それに手を当てて、そっと念を込めると、困惑した顔が、驚いた顔に成り代わった。


「多分、ココじゃ私は"妖"として見られてるんだろうさ。デモ、モトは違う」


手ぬぐいに施してあった仕掛け。

使う気は無かったが、"無防備"にならざる負えない場所にいるのだから、備えは当然の事。

モトは、自らに仕掛けられた"呪符"の効果を感じたのか、何も言わずに頷いた。


「出るまでは、ソノママ、頭に手ぬぐい巻いててよ。取れれば、効果は消えるから」

「ああ」


モトに保険をかけて、黙り込んだ私達は、横の浴槽の会話に耳をすませる。

周囲よりは、少し妖の少ない電気風呂の辺り。

3人の、巨大な"運び屋"の声は、彼らの体躯並みに大声になって届いてきた。


「イツヨ?」

「サア。マダ、ワカラナイ」


さっき聞こえた"ゴノヤカタ"。

そこから続く会話は、どんな些細な事でも、私達にとって大ヒントとなるだろう。

思わぬ長風呂になってしまったが、そんなに熱くないお湯だから、もう少し粘れる。


「ツギ、クルマ、イクツ?」

「ゴ…ロク?アタリ」

「ソウカ、サイキン、オオイナ」

「"ムコウ"、ソレデモ、タリテナインダト」


大声で話す"運び人"。

その様子は、仕事の内容が混じっていれど雑談そのもの。

周囲の様子を意に介する様子も無い。


「ココ、アブナイ、チガウ?」

「アブナイ。ダガ、ダイジョウブ」

「ナゼ?」

「ミハリ、マダ、ダイジョウブト、イッテイタ」


妖の何気ない一言に、少しだけ息が詰まる。

彼らの方から目を逸らし、横にいたモトと顔を合わせたが、彼らの意識はこちらに向きもしなかった。


「ニブチン、助かったかな」


そっと、モトの耳元でそう囁くと、笑って無い目を彼に向けて口元を吊り上げる。

彼も、似たような表情を浮かべて頷いた。


「どうする?出ない?」

「あと少シ」

「分かった…」


揃って、少しだけ湯船に深く浸かった。

首までだったのを、少し浅く座って、顎の先が付くくらいまで浸かる。


「コノマエノ、ニンゲン、サキモリ?」

「ヒト?イタカ?」

「"ゴノヤカタ"デテ、スグ、イタロ」

「アア、ワカラネェ」

「イタンダ。タブン、サキモリ。サキモリイガイ、イルハズナイ」


影を薄くした直後、話題は私達の事に。

白い湯気のお蔭で、互いの姿はボンヤリとしか見えないが、それでも心臓は早鐘を打っていた。


「ヤバイ?」

「ミツカレバ」

「クルマ、イレラレル?」

「サイアク。タダ、キエレバ、オレラハ、ハガタタナイ」

「"ダンダ"デモ、ムリカ」

「ココデ、シゴト、デキナクナル。スコシ、シンチョウ、ナルベキ」


白い湯気の中。

そっと彼の方に目を向けると、ゆっくりと湯船から腕を出して、出入り口の方を指した。


モトがゆっくりと頷くと、私達はそっと立ち上がって湯舟から出ていく。

隣の湯船の妖達は、一瞬こちらに目線を切った様に見えたが、私達に気づいた様子は無さそうだった。


「セーフ」


出入り口が迫ってきて、ようやく私はニヤリとした笑みを浮かべる。

モトも同じような気持ちだったらしく、薄っすらと口角を上げた。


「さっさと拭いて着替えて、戻るか」

「そうだね。…アー、脱衣所にずぶ濡れで行くわけに行かないか」


緊張感が去った後。

さっきの空気に比べれば小さな問題が浮かび上がる。

一旦出入り口の隅に除けると、その横を妖達が通り過ぎていった。


「まぁ、モウ。なんか面倒だよね」


一旦、互いに見合ったが、そう言って気にせず浴衣に手をかけた。

私の行動に驚いて、目を背けたモト。

想像通りのリアクションに砕けた笑みを浮かべさせると、彼が見ていないうちに、浴衣を絞って体を適当に拭き上げる。


「妖に男女の区別は無いんだよ?今は"そっち側"だ」


顔を真っ赤に上気させたモトの顔を、クイっと両手で、こちらに向けさせてそう言うと、頑なに視線を上に向け続ける彼を見て笑った。


「先に行ってるよ」


一言、そう言った私は、扉に手をかけて風呂場を出ていく。

出てすぐ、浴衣でもう一度体を拭いて、濡れた浴衣が積み重なったカゴに浴衣を放り込むと、自分の荷物を置いた場所へと歩き出した。


ごちゃついた妖の間を縫って歩き、隅の方まで辿り着く。

持って来た風呂道具から、バスタオルを取り出すと、殆ど乾き切っていた水滴をサッと拭い、新しい下着と着物をパッと着てしまう。

タオルを頭に巻いて、道具の中に入れていた手鏡で自分の姿を一通り確認すると、道具を纏めて脱衣所の外に歩いていった。


「ム?エカキ?ダヨナ?」


脱衣所を出てすぐ、見覚えのある顔が私を見て声を上げる。

ガタイの良い、人で言えば大男である青鬼と赤鬼。


「あら、蕎麦屋さん、今日はもう終わり?」

「キョウ、ヒマダッタカラ、シメタ。ドウダ?キキコミノチョウシハ」


青鬼のヤマシロが、表情を変えずに、少し食い気味な声色でそう尋ねてくる。

私は彼をじっと見つめた後で、ゆっくりと、小さく首を左右に振った。


「空振りばかりでさ。ま、最後に、良い事知れたから、結果的には良かったんだけども」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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