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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
弐章:禁忌を恐れた日
62/300

62.終わったと思っていた日が急に動き出せば、こっち側の再始動に少し手間がかかる。

終わったと思っていた日が急に動き出せば、こっち側の再始動に少し手間がかかる。

あとは寝るだけとなった時に何かが起きて、そこから1日が延長されたとしよう。

そうなれば、昼間の"感覚"を呼び起こすのに時間はかかるものだし、その後の時間の感覚だって狂うものさ。


「あー、気持ちいいー」


真っ白に包まれた風呂場。

その中の一番大きな浴槽の隅に座って、首までお湯に浸かったならば、出てくる言葉はただ一つだった。


「偶にはこっちに来ようかな」

「本家もそれなりだけどね」

「いやぁ、ココはもっと良いよ」


妖達も浸かる湯船。

私達は、目立つような場所を避けて湯に浸かっている。

お湯は、何の入浴剤的な物も入っていない素の水だと思うが、入っていて妙に心地よい。

周囲の妖達の中には、徳利とお猪口を載せた盆を湯船に浮かべ、思い思いに酒盛りをしている者もいた。


「持ってきていいんだ。お酒」

「まぁ、家からシャンプーだのなんだのって持ってこれたし」

「それもそっか。普通でしょって思ったけど。駄目かもしれなかったのか」

「ま、言われてないならセーフだ」


手ぬぐいを頭の上に置いて、まったり周囲を見て回る。

今いるのは、一番大きな浴槽の隅。

その正面には、入って来た入り口が見えて、左手には洗い場が見える。

そこから、視線を右に切れば、水風呂の様な浴槽と、更に幾つかの小さな浴槽が見て取れた。


「ボンヤリとしか見えないけどさ。あっちは何なんだろうね」

「沙月を待ってる間に見てきたけど、電気風呂みたいだな」

「電気風呂?ビリっと来るやつ?」

「そう」

「電気も通ってないのに?」

「ああ。なんか仕掛けでもあるんだろうさ」

「へぇ。行ってみよ」


そう言って、隣に座ったモトの手を引く。

モトが驚いた顔を見せたのが、ハッキリと見えた。


「俺もかよ」


白い湯気と、暗い空間の中で、私達の髪色と白目の肌は目立つのだろうか。

私の目線から言えば、この空間の中では良く目立って見える方だと思うが。


「じゃないと、逸れても面倒だし」


モトを引っ張って湯船の隅から隅まで泳ぐようにして進み、ザーっと湯船から上がって入り口の前へ。

そのまま、電気風呂のある方へと足を進めると、その湯船の周囲には、妖の姿は見当たらなかった。


「ラッキー。開いてる」


周囲の喧騒が少し落ち着いた空間。

少人数で入れそうな浴槽に、モトを連れて足を入れる。

足を地に付ける間も無く感じられる、電気特有のピリ付いた感覚。


「おぉ」


ピンと背筋が伸びると、そのまま私達は浴槽の奥に入って行った。

私達が入ったものも含めて、4つ程ある電気風呂。

周囲に妖が居ないのは不思議だが、落ち着いた雰囲気の中で入るのも中々に良い。


「効くね」

「ああ。足と腰に…」

「おじいさんか」

「沙月と違って、修行でもしなきゃ動かないのでね!」

「動けば良いってもんじゃないのさ。柔軟性も必要だ」


ビリビリと感じる感覚に、ふやけた顔を晒しつつ。

さっきのお湯よりも温く、丁度いい塩梅とはこのことだ。


「あー、段々良い感じ…」


何気なく、モトの方へと顔を向けると、彼も私の方に向き直った。


「……」

「……」


互いにふやけた顔。

黙って見合うと、慣れたと思った事でも、妙に意識してしまう。

見合って、視線の行き場を無くして下に目が行って、で、直ぐに明後日の方へ目を向けた。


「透けてなかった?」

「セーフ。沙月、スゲー顔になってたぞ」

「それはお互い様だね」


顔が赤いのは湯気のせい。


「いや、見えたところで、今更か」


真っ赤に染まった顔で苦笑い。

モトも、私につられて似たような顔を浮かべた時、私達は何者かの影に覆われた。


「ん?」


顔を影を作った者の方へ向ける。

白い湯気の中、見えたのは巨大な人型の影。

目を凝らせば、サイズの合わない浴衣に身を包んだ、背の高い妖の姿だった。


「!?」


その姿、見覚えのある姿かたちは、"行列"を作っていた"運び人"。

言葉を失う私達。

咄嗟に、"何の力もない"モトを私の影に隠す。


「沙…」

「シー」


ピリ付く電気風呂の隅。

モトを角に追いやって、その角を隠すように、モトに半分寄り掛かるようにして彼を隠して様子を見る。


「……」


向こうも目立つが、こちらも目立つ。

"人"なんて種族、この世界では思わず勘違いしそうだが、"異境"で"人"と言えば、どういう扱いを受けるか、分かった事じゃない。


"運び屋"の妖は、数にして3人。

彼らは、私達の横の電気風呂に入ってきて、気の抜けた声を上げた。


「アァーーー」


一瞬で張り詰めた緊張感が解ける。

こちら側に顔を向けたものの、私達の姿が見えないのか、ボヤけているのか、"人"だという事までは分からない様だった。


「沙月」

「うん」


首をクイっと半分回して、間近にあるモトの顔を見る。

潜められた目は妖に向けられていたが、変に引きつった口元は、力なくふやけていた。


「一旦、並んで、くれるか…」

「そうだね」


そう言って、体をモトの横に戻すと、隣に居た妖達の声が耳に聞こえてくる。


「ツギ、マタ、"ゴノヤカタ"?ソコ、トリニイケバイイカ?」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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