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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
弐章:禁忌を恐れた日
52/300

52.初めてするタイプの後悔だけど、多分懲りない性質だと思う。

初めてするタイプの後悔だけど、多分懲りない性質だと思う。

今までの経験上、この手の後悔は数多くやって来たけれど、スイッチが入れば抑制が効かない。

だったら、今この瞬間を精一杯に後悔して、いつかまた、いけしゃぁしゃぁと繰り返せばいいのさ。


「あー、頭がガンガンする」


再びオレンジ色の空が地上を照らすようになった"異境"で、私は頭を抑えていた。

蕎麦屋で、途中くらいから記憶が曖昧だ。

モトに担がれていた様な気がするが、彼は私を背負えるのだろうか…?


「モトぉ、なんだって、部屋の近所じゃ駄目なのさ」


重い頭を抑えたまま、私は"扉"がある展望台付近まで私を連れ出した男の方をジトっとした目で見据える。

彼は、ほんの少し息が上がっている様だったが、その表情は狐面の奥に隠れていて良く分からなかった。


「派手な事やるなら、人気の無い場所に限るだろ」

「正気?」

「どっちでもいい。に、してもさ。よく息上がらないよね」

「それよりも、頭が痛いもの」

「ハァ…2キロはあるし、最後はそこそこ急な階段なのに」

「散歩道だったの?」

「トレーニングだよ。今日はまだ、酒残ってるからゆっくり来たけど、関係なさそうだな」


私の様子を見て、呆れた様子のモトは、そう言いながら呪符を数枚取り出す。

その内の数枚を、私に手渡した。


「何する気?」

「修行付き合ってって、言ったよね」


右手で頭を抑えつつ、微かに感じる傷の感触を感じつつ、左手で呪符を受け取る。

修行…という言葉に、ピクッと反応できた。

渡された呪符に、この広さ、彼のやりたい事が何となく想像できる。


「あー、そんなことも言ってたっけ。ルールは?」

「黒オンリーで、3点先取」

「よーし、酔い醒ましといこう」


細かく言わなくても伝わる間柄は、ツルんでて楽だ。

呪符を手にした私は、そう言ってモトから距離を取った。

距離を取って、展望台の麓…木々に覆われた隙間から"異境"の街並みが見下ろせる所まで離れて、その景色にクルリと背を向ける。


「さぁて。どれだけ強くなったか試してやろうか!」


貰った呪符を1枚左手に持って、それ以外は和服の懐に仕舞いこむ。


「1本も取らせないからね?」


互いに、どちらともなく足を一歩踏み出して"修行"開始。

互いの手に握られた呪符が、ボワっと黒い光を放ちだした。


「おっとっ」


真っ黒な光に包まれる広場。

足元、周囲が真っ黒に染め上げられる。

感じたのは、モトのものとは思えない妖力。


すぐさま足に力を込めて斜め前に飛び出す。

その直後、立っていた足場が"炎に抉られた"。

背中に嫌な汗を感じつつ、手にした呪符をモトに向ける。


「と?」


着地。

再び足元に真っ黒なサークル。

黒の色は、すっかり熟していた。


「取ったぁ!」

「けっ!」


モトに向けた呪符を、すぐさま足元に。

呪符に念を込め、熟した黒の上から黒を染める。

足元に出来たのは、小さな火の弾。

即座に破裂、自らの呪符で吹き飛ばされ、吹き飛んだ先は展望台よりも高い空。

背後を振り向けば、オレンジ色の光に染め上げられた、時代劇の街並みが見下ろせた。


「やるようになったもんさね」


頂点まで浮き上がり、2枚目の呪符に念を込めてそのまま落下。

クルリと体を捻って落下しつつ、足元にもう一度、真っ黒な熱玉を繰り出した。

いつの間にか、距離を取っていたモトの方へと体を捻って、手先に力を込める。


爆発。

今度の爆発は、さっきよりも規模が大きい。

私の姿を、一瞬のうちにモトの立つ場所まで運んでくれる程の規模。

爆風よりも速く、音より少し遅い程度の速さで彼の懐目掛けて飛んで行く。


「ゲ!」


スローモーションになった刹那。

研ぎ澄まされた世界の中。

狐面の隙間、その奥に、モトの藍色の瞳が大きく開かれた様が見えた。


着地、一瞬の静止。

地面の石畳が抉れ、そのまま骨が軋み、砕け、直ぐに回復した足に力を込める。

目線の先、見ている光景は、距離を取りたがる細身の男の、和服の懐だけ。


崩壊した骨のことなど気にせず、抉れた地面から飛び出し低空飛行。

右腕を顔の前に掲げて、そのまま一直線に突き進む。

腕はモトの胸元を突き飛ばし、彼はそのまま背後によろけた。


「つ・か・ま・え・たぁ!!!」


吹き飛ぶモト、彼の顔へグイっと顔を寄せ、見開いた双眼が狐面の奥を射抜く。

そんな彼の襟を、"呪符"を手にした左手でガシッと掴みあげて離しはしない。


「まずは1点目」


刹那、袖を掴んでいた左手が、私の体諸共吹き飛んだ。


"見栄え"重視の爆発。

煤けただけで、害は無い。

それでも、それなりに爆風に乗って、着地してみると、ちょっと距離が空いた。


「さぁて、酔いが醒めてきた」


爆風の余韻に浸るモト目掛けて、私はそのまま追撃を開始する。

2枚の呪符を取り出し両手を広げると、左右どちらの呪符にも念を流した。


「え?2枚…!?」

「さぁ。何処に逃げる?」


真っ黒に染まった両手。

私達の周囲を、真っ黒なサークルが取り囲む。

その黒は、モトが作り出した時より速く染まりだした。


「ちっ」


さっきの私の要領で、空に逃げるモト。

それを見て、ニヤリと顔を歪ませ、その場に立ち尽くす。


「同じ手、前までは"逃がしてた"よなぁ…ちょーっと、趣向を変えてみましょうか」


ふわりと浮き上がったモトへそう言って、左手の呪符を手から放す。

足元の真っ黒なサークルは色を失って消え失せ、空に浮いたモトの顔がこちらに向いた。

右手に持った呪符はそのまま、右手の先は真っ黒に輝いたまま。

その輝きが向けられた先、顔を"上"にあげた先、驚きの声をあげたモトよりも高い場所に、黒いサークルが出来上がっていた。


「2枚。モトをサンドイッチにするには十分さ。これで2点目ね」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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