表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
弐章:禁忌を恐れた日
49/300

49.見知らぬ土地で、見知った物を見た時は反応に困る。

見知らぬ土地で、見知った物を見た時は反応に困る。

ほんのちょっと感じるのは安心感だけど、その土地が危険だったとしたら、ちょっと困る。

見知った存在が、異質に感じてしまう時は、大抵良くない事が起きる前兆なのだから。


「これ見てよ」


モトがA4の紙を1枚、差し出してきた。

ヒョロヒョロした妖達の行列を眺めている通路の隅。


オレンジ色の空の下、石畳の上に立ち、和楽器の音を聴きながら、行列を眺める。

妖に混じって祭りの出し物を…それこそ、"よさこい"でも眺めている様な感覚。

私は書類を受け取ると、書かれていた内容を見て眉を潜めた。


「謀ったな?お得意の"見敵必殺"はしないの?」

「しないし、修行ってのも本心だよ。何だかんだ、毎回付き合ってくれるし」

「珍しい。京都で何かあった?ついでにやる事にしては、事がデカすぎるのさ」


そう言いつつ、書類をクシャっと潰して懐へ。

書かれていたのは、今も目の前を運ばれていく"駕籠の中の人"の処遇についてだった。


「別に"防人"も、罪人を助ける義理は無いんだけど。人攫いってのに違い無い訳よ」

「なるほど、妙な気配は罪人だったの。それが、何故か攫われこうなってると」

「そう。"28号"の仕業さ」

「またまた。こんな、"防人"の本家と繋がってる世界で?堂々とされたものじゃない」

「嘘じゃない。彼らは"運び役"。"28号"とは違う。運ぶ事なら何だって請け負う連中さ」

「じゃ、切り込んで助けても良い訳だ。大した強そうにも見えない訳だし」


そう言って、懐の短刀に手を伸ばす。

直ぐにモトの手が私の腕に伸びてきた。

彼のか細い手にギュッと捕まれて、止められる。


「違う。彼らは本当に"運ぶだけ"で何も害は無い。手を出せるもんか」

「幇助って言葉知ってる?あの状況、私達ですら動くのに」

「知ってるよ。沙月、ここは"異境"だ。俺等も現実の様に妖狩りはできないんだ」

「…それじゃ、これを眺めて"28号"様方は怖いですねって?」

「違う違う。俺等に頼まれたのは、本体を叩くことじゃない。さっきの紙よく読んで」


彼に言われるがまま、握りつぶした用紙を懐から取り出して開いて中を見た。

"観測外異界域非友好性団体第28号"の活動拠点を探し出せとのお触れが出ている。


「ここを"28号"の行列が流れてくってことはだ。この近辺に拠点があるはずなのさ」

「でしょうね。世界と世界を繋ぐにも、出入り口位は無くっちゃいけない」

「それを探し出せとのお達しだ。あの"運び屋"の事も、"行列"の事も詳しく分かってない」

「ゴールデンウィークなのに、休ませてもらえないの」

「高校生なんだから、休みの日は"勉強"しろってことなんじゃない?」

「余計なお世話だ」


そう言ってニヤリと笑って、用紙を再びクシャリと握りつぶした。


「他に目的は無いの?」


頭一つ分、高い所に目線を切って一言。

直後、狐面がこちらに顔を向けた。


「……」

「洛波羅家、"洛外"の家じゃなかった?それが、"洛内"の本家から繋がる"異境"に拠点を持つってのは、ちょっと変な気がするのさ」

「考えすぎだ、さっきから勘弁してくれ。沙月とは、こう…親のやってるみたいな面倒ごとを持ち越したく無い」

「そう、ごめん。なら、いいのさ。…ごめん、警戒しすぎた」


少しの間、2人の間を流れた緊張感がスーッと抜けていく。

その間に行列は過ぎ去っていき、妖達が再び通路を埋め尽くした。


「そろそろ夜だね」


フッと笑った私は、近くに見えた蕎麦屋の方へと歩いていく。

さっきまで、私を案内する立場だったモトは、少し遅れて付いてきた。


「モト、手持ちあるの?」

「そりゃ、ここに部屋持ってるんだし」

「じゃ、奢って?」


ニコッと笑みを向けて、蕎麦屋の方を指さす。

祭りを眺めていた時から、微かに感じる蕎麦の香りに興味が湧いていた。


「持ってないのかよ」

「当たり前でしょ、行き成りだったし」

「じゃ、屋敷に戻って…」

「こっからあの扉を潜って、ピリ付いた本家の食堂に呼ばれたとして、食べる気ある?」

「ぐっ…それも嫌だ」

「あの部屋に戻って自炊って言葉が出てこないのも分かってた」

「俺はともかく、沙月に任せたらどうなるか、考えたく無いもんな?」

「あの廃墟みたいな、積み重なった長屋は良く燃えるでしょうね」

「しゃーねぇか」


少しの間の押し問答。

折れたモトは、肩を竦めて蕎麦屋の方へと向かって行く。


オレンジ色の空の下。

歪な進化を遂げた江戸時代を見せられているような"異境"の隅。

妖に混じって過ごす不思議な日が、ようやく始まりを告げたような気がした。


「ア…ア…ヒト…!」


蕎麦屋の暖簾を潜るなり、迎え入れた鬼が両目を大きく見開く。

"人"という単語にピリ付いた店内。

応対したのは、私が知る"鬼"とは大きく違う"鬼"。

真っ赤な肌に角が2本、如何にも"昔話"に出てきそうな赤鬼が、私達を見るなり困惑し始めた。


「ソレ、サキモリ。ヨコノ、ムスメ、ハジメテミル」


困惑した、女型の赤鬼に、男型の青鬼がフォローに入ってくる。

どうやら、こちらはモトの事を知っているらしい。

"防人"という単語が出た直後、蕎麦屋の空気が少しだけ和らいだ。


「モトサン。ナニモ、アリマセンヨ?」

「そう言うんじゃないよ。今日はお客さん。彼女は沙月。俺の昔馴染み」

「フム。コンナトコロニ、ヨウコソ」


モトが私を紹介すると、青鬼が礼儀正しくペコリと一礼して来る。

それに私も思わず一礼し返した。


「美味しそうな匂いだったので」

「ドウモ、デハ、オスキナセキヘ」


入り口でのやり取りののち、暗い店内の隅の席に着く。

その時も、周囲の妖からはチラチラと目を向けられたが、奇異な目線には慣れたもの。


「"異境"というより、タイムスリップしてきたみたい。それか、時代劇の体験か」

「この辺は"防人"の息がかかった世界だしな。思ったより人っぽいだろ?」

「ぽいというか、そのものだね。時代が違っただけ」

「そういうのを集めたんだとさ」

「そしたら、そこに"人染みた"何かが紛れ込んだってわけだ」


作りの脆い木の椅子に座って雑談を少々。

そこから、入り口の方にかけられた大きな木の板に、達筆な妖怪文字で書かれたメニュー表に顔を向ける。


「沙月は読めるの?」

「えぇ。モトの方こそ、どう?」

「読めなきゃ部屋借りられない」

「それもそっか。何にする?私は…二八蕎麦」

「俺も。あ、季節の天ぷら詰め合わせってあるぞ」

「半々にする?」

「乗った」


小さな机を挟んで2人、揃って同じ方向を眺めて、注文を決めて、鬼を呼び出す。

さっきの赤鬼がやってきて、注文を伝えると、今度は普通の応対をしてくれた。


「な?案外何も無いだろ?"異境"でも」

「こういうのがあると、尚更"どっちなのか"に困るのさ。ホント」



お読み頂きありがとうございます!

「いいね」や「★評価」「感想」「ブクマ」等々頂ければ励みになります。

よろしくお願いします_(._.)_

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ