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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
弐章:禁忌を恐れた日
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47.ちょっと期間があけば、少し気まずくなるものだ。

ちょっと期間があけば、少し気まずくなるものだ。

幾ら慣れ切った間柄だったとしても、久しぶりの感覚は、少しの間変な空気を醸し出す。

その空気のまま、暫く経てば元に戻ると分かっていても、何か何処かムズ痒く感じるものさ。


「沙月じゃん」


京都に着いて、"防人"達へ挨拶周りも済ませて、後は大人達の時間になった頃。

無駄に広い屋敷の隅、落ち着いた庭が望める一角でラムネを飲んでいた頃。

偶然通りかかったのは、同い年の男だった。


「モト」


白菫色の長髪ボサボサ髪に、丸い白縁眼鏡姿が特徴的なその男は、洛波羅元治らくはらもとはるという。

仲の悪い本州の"防人"家系で、周囲に余り居ない同年代での顔馴染み。


「元気かい?」


ギクシャクした声色。

一切表情が変わらないのは昔から。

その声色に感情を感じないのも昔から。

私はコクリと頷くと、目を泳がせたのちに、座っていたソファの隅へ体を動かした。


「座る?」

「ああ。ありがとう」


私と同じ意匠の和服に身を包んだ彼が、私の隣に腰かける。

窓の外には、映える庭園の風景。

ふと、モトの方に目線を切ると、彼の耳にはピアスがつけられていた。


「手伝いでもやってたの?」

「ん?…あぁ、最近、ずっと付けてる」

「正気?」

「俺は"強く無い"から。これを付けてても平気」

「へぇ…」

「そう言えば、この間は酷い目に遭ったって聞いたけど」

「ああ。この傷がまた伸びたさ」


そう言って、今日1日ずっと晒しっぱなしの"素顔"の一部を指す。

モトは、顔をグイっと近づけ、そして、そっと手を近づけてきた。


「触って良い?」

「別に」


彼の手がそっと私の頬の傷に触れる。

刹那、ちょっとピリ付く痺れが体に響いた。


「何したの?」

「腕試し。どうなった?」

「ピリッと来ただけ。電気治療でもやってくれたの?」


ジトっとした目を彼に向けて言うと、モトは少しだけ目尻を下げた。


「割と強めに流したはずなんだけど」

「…モト、そっちの傷、こっちさ見せてみな」


意図を理解できた私は、そう言いながら、少し強引に彼の耳の裏に手を回す。

少し髪を弄って、引っ掛かる箇所を探り当てると、口角を吊り上げた。


「イタダダダダダダダダ!」


念を流せば、モトの体が妙な捻じれ方をする。

手足が震え、痺れ、彼の顔が変わった所を久しぶりに拝むことが出来た。


「この間は、ピアスを付けて面を付けて、後少しで"あっち側"に行くところだった」

「もう行ってる気がするんだけどなぁ…」


少しだけ感情の入って来た声色。

能面に戻った彼の表情は、ほんの少しだけ奥歯を噛み締めている様だった。


一瞬の静寂。

"防人"一同が集まる恒例行事の真っただ中。

その喧騒すらも聞こえてこない屋敷の隅。


「そうだ」


不意に、モトが口を開いた。


「どうせ、この後は終わりまで、俺等は自由なんだよな」

「うん。何時も通り、京都巡りにでも連れてってくれる気?」

「修学旅行でコッチ来て、色々やらかしたって聞いたけど?」

「ええ、まぁ」

「じゃ、八つ橋も何もナシだ。ま、今回は繰り出す気も無かったけどよ」


そう言って、ソファから立ち上がるモト。

彼は、和服の帯に引っ掛けられていた狐面を取ると、それを顔に付けた。


「お、お面付けてても見える様になってる」

「嘘だろ…何したんだよ」

「で、そんなことしてどうする気?」


狐面を付けたモトに、私も同調して面を付けながら問うと、彼は長い廊下の先を指した。


「修行に付き合ってほしい。"異境"の方に繰り出してさ」


彼の提案に、肩を竦めて見せて、飲みかけのラムネの瓶を手に取る。


「"元"にバレたら何言われることやら。いつかみたいに"監獄"行きかな」


歩き出したモトの横、頭1つ分背の高くなってしまった彼に付き添いながら話を進めた。

長い廊下の左側、窓の外は真っ暗闇の世界が広がっている。


「許可は取ってる。高校生になったんだし、そろそろ良いんだとさ」

「そんな軽く許可出るものなの?」

「この屋敷から繋がる"異境"なら、危険は無いんだ」

「確かにそうだけど」

「何度か入ってるから、もう慣れてるって」


静寂に包まれた廊下に2人。

徐々に、廊下の奥に"扉"が見えてきた。

"赤紙の呪符"が幾枚も貼られた、古い木の扉。


「行くよ?」

「どーぞ」


扉の前で最終確認。

モトが扉に手をかけ、開き、その奥に足を進めると、私もその後に続いていく。

ブワっと、潮風の様な、少し塩っ気のある風が髪をかき混ぜた。


「ん…」


一瞬の暗転、すぐ解けて、視界の先に"異境"が広がる。

そこは、まだ"現実"に近い"異境"だった。


オレンジ色の空に黄色い雲がチラつき、地上は一面石畳。

扉は小高い丘の上、"骨"が展望台のように組まれた建物の上と繋がっていた。


眼下に見えるのは、京都や東京の裏路地も甘く見える程に入り組んだ街並み。

妖文字が建物の壁に踊り、そこを"鬼"や"天狗"が行き来する様子が見えた。


「相変わらず、絵巻の京都をギュッと濃縮したみたいな街だね。前より入り組んだ?」

「メイン通りは変わらないよ。そこから枝分かれでごちゃついてるだけ」

「最悪跳べばいっか」

「そういうこと。こっち来て」


幾つか言葉を交わした後、眼下に広がる、天然百鬼夜行みたいな光景に飛び込んでいく。

狐面を被った2人組、少しだけ広い、記憶にある通りの"メイン通り"に降り立った。


「さ、こっちこっち!」


感情が滲むモトの声。

その横顔、狐面の隙間から見えた口角は、ニヤリと愉快そうに吊り上がっていた。


「何が目的か知らないけど。モトは"人間"なんだから。気を付けなさいよ」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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