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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
幕間:その壱
44/300

44.現実に戻ってみると、思った以上に危うい状況だったんだと思わせられる。

現実に戻ってみると、思った以上に危うい状況だったんだと思わせられる。

非日常に身を置いて、そのままそれが当たり前になりかけて、ふと元に戻った時。

前までなら、気づかなかったようなことに気づいて、非日常の危うさに気づいて、ゾッとするんだ。


「大丈夫なのね?」


穂花に、今日何十回目かの確認を受ける。

火曜日、昼休みに入ったばかりの、私の席。

その前に人影が2つ、全く同じ顔を、私の左頬に向けた2人に、何度も向けた苦笑いを贈る。


「大丈夫さ。痛みは無いよ」


そう言って手をヒラヒラ振ると、正臣が通りすがりに止まって、私の顔を覗き込んだ。


「大丈夫?」

「何度も聞いてたでしょ?」

「知ってる。でも、無茶はしちゃ駄目だよ」


軽い口調でそう言った彼は、そのまま教室を出ていった。

男子が数名、正臣と共に消えていった所を見ると、体育館にでも行くのだろう。


「全く」


そう言って、2人に視線を戻す。

アッサリと去っていった正臣と違って、2人はまだ疑いの目を向けていた。


「日曜日と、随分な様変わりじゃない」

「そういうものなのさ。"元に戻ってこれば"ね」

「初めて見たけども。前にも似たようなことがあったの?」

「あそこまでになったのは1回だけ。この間ので2回目だけど、2回目なら、慣れてるよね」


そう言いながら、左頬を摩る。

血のにじんでいない、綺麗な白のガーゼの感触が、ちょっと心地いい。


「一時はさ、凄かったんでしょ?こう。何て言うか知らないけど。スマホのアレ」

「あぁ。"イッター"ね。すぐに終わったけど」

「そうなの?」

「所詮は良く分からない出来事だったし。そう言うものよ」

「へぇ」


軽い返事。

座っていた椅子に浅く座って楽になると、2人が私を見る表情は、ようやく普段のそれに戻った。

じっと値踏みされている様な表情だった顔が、普段のそれに変わる。


「ああ」


ふと、原因が思い当たった。


「まさかさ、この間、騙したせい?」

「どうかしら。その線も考えてたけどね」

「学校に来てる事すら怪しかったのよ」


尋ねてみると、ちょっと曖昧な返事。

その後で、穂花がグイっと私に顔を近づける。


「正直、八沙さんじゃないかと思ってた」


小声で一言。

私は口元を引きつらせた。


「ちゃんと見分け付いたでしょ」


作ろうとしても、変に強張る笑みを2人に向ける。


「確かに、今度からは笑顔を基準にしようかしら」

「駄目よ楓花。卒業式までには、まだ真面な顔を作れるようにするの」

「どうして?」

「今までの写真で、マトモに笑った写真はゼロなのよ。そろそろ何とかしないと、気づいたら高校すら終わってしまうわ」


至極真面目な口調でそう言って、穂花はクスッとした笑みを向けてくる。

その笑みの裏側に、どこか黒さを感じるのは、気のせいだろうか。


「あの、い、入舸さん?」


会話の合間。

近くにいた子が声をかけてくる。

見かけない子だ。


「はい?」

「お客さんが来てるって、先生が」

「あぁ、ありがとう。玄関の方で良いの?」

「うん。玄関だって」


そう言って去って行く女の子。

学年章を見た限り、私達と同じ学年。

穂花達の方に目を向けて、目で"誰?"と言って首を傾げると、2人も似た反応だった。


「誰かしら。居たっけ?」

「さぁ。可愛い子だったわね」

「2人で知らないなら余程だよ。まぁ、いいや。ちょっと行ってくる」


そう言って席を立つと、2人は何も言わずに手を振った。

時計を見れば、まだ、昼休みの中間地点。

教室を出て、小走りで階段を駆け下りて、向かった先は来客用の生徒玄関。


「やっぱりそうだ」


校舎の隅、滅多に人が来ない場所。

そこに居たのは、見覚えがある女の子だった。


「え?」


驚く私に、彼女は一気に距離を詰めてくる。

見慣れないセーラー服姿から察するに、彼女も学校がある身なのだと思うのだが…


「初めまして、じゃないですよね。入舸沙月さん」


少し低く落ち着いた、お淑やかな声色

そこに微かに、知っているような雰囲気を感じた。


「どちら様?あと、学校なんじゃ…」

「もうやることがありません。なので、今日は、この間のお礼にやって来た次第です」


目の前の少女は、「この間はありがとうございました」と言ってペコリと頭を下げる。

決して、私だと認めたわけじゃないのだが…彼女は確信を持っている様だった。


「入舸さん、警戒しなくても良いですよ。ボクは、美国の方から来た者でして」


困惑する私に、彼女は少しだけ近づいてくる。

お淑やかな所作だが、一人称や見た目も相まって、どこか少年っぽさも伺えた。


「"神岬漁酒会"にいる"天狗"の1人が、ボクの家の遠い祖先なのですよ」


小声で告げられた言葉。

目を見開いて彼女の顔を見つめれば、彼女はようやく年頃の子らしい笑みを浮かべた。


雨次あめつぎジュンです。昔から、噂だけは聞いていました」

「なるほど。そういうのもあるのか。にしたって、美国から…」

「この間は、偶々こっちに来ていて、変な雰囲気の人が居るなと思ったら…ああなって」

「そうなんだ…何も無くて良かったよ」

「助けて頂いたお蔭です。親に"天狗"には会うなって言われているのですが、まさかと思って聞いたら、入舸さんの事を聞いて…土日は会えなかったですし、昨日はいらっしゃらなかったようで」

「色々あってね。でも、聞いてる限り、4日連続でこっちか」

「高校は小樽にしようと思ってるので、その予行練習ですね」


彼女はそう言って控えめに笑うと、時計を見てハッとした顔を浮かべた。


「すいません、時間ですよね。ボク、潮ヶしおがおかを受けるんです。高校生になったら、違う学校でも良いので、仲良くしてください」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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