表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
壱章:少女は境に立つ
38/300

38.雪の空は綺麗だけど、その下は地獄そのものだ。

雪の空は綺麗だけど、その下は地獄そのものだ。

ちょっと強く雪が降ったのならば、歩く場所もままならず、車が走る場所も白に染まる。

何をするにしたって、雁字搦めになるんだから、そう言う日は家に籠るに限るんだ。


「ハハ!ようやく気づいたみたいね!お寝坊さん?コッチよコッチ!」


快活な声で、雪の中を飛んで行くのは、夏の格好に身を包んだ地下アイドル女。

それを追いかけつつ、時折、雪が積もった屋根に足を取られて悪態を付く私。

土曜日、彼らの宣言通り、夜の8時に"事件"が起きた。


「早くしないと、みーんな、骨にされちゃうわよ!」


中央通りを挟んだ向かい側で、私の速度に合わせるようにして運河へ飛び続ける女。

それを見ながら、手にした"赤紙の呪符"に念を込め、手を空へ突き出した。


「あらぁ?」


女の疑念。

その直後、雪明かりに照らされた、赤紫色の空が真っ赤な靄に染め上げられる。


「小手調べさ!」


叫んだ刹那、区画を埋め尽くすほどの光と音が辺りを包み込んだ。

"人の世"に影響を与えない音と光が、一瞬のうちに伝わっていく。

靄に包まれた世界、微かに見える、街の様子に、見慣れない"扉"が見えた。


「そういうことか」

「あら、バレちゃった」


扉を見て、背筋が凍った私の背後。

靄の中から、整った顔つきの女が姿を見せる。


「な!」

「ハロー」


一瞬で詰めてくるにしては、早すぎる。

目を見開く間もなく、女の足が鳩尾を貫いた。


「ヵハア!」


雪より早く落ちていく。

落ちた先は、中央通りから1つ入った路地の歩道。

氷と化した雪山を打ち抜いて、雪煙に視界が遮られた。


「なーんも、"タネも仕掛けも"ないっての!馬鹿なんじゃないの?同じ手は必要ないんだよ!」


空からかけられた煽り言葉。

微かに、靄の中に見えた女は運河の方へと消えていく。

地上の人々は、徐々に早歩きになって運河の方へと歩いていく。


頭からの血が、右目を湿らせた。

肩や足も、ちょっと真面な感覚をしていない。


「ク…ッ」


目を血走らせて、起き上がろうとしたが起き上がれない。

雪山の中で無様に足掻いた私の手を、誰かが掴みあげてグッと引き上げた。


「大丈夫ですか?沙月様」


やっと地上に足をつけられた私。

引き上げた人影に目をやると、そこに居たのは傷を負った赤眼の男。


「申し訳ありません。抜かりました」

「八沙は?」

「骸骨退治の真っ最中です。あちこちから無数に湧いて出て来ています」

「…扉の位置と数。調べ損ねたな?」

「はい。この街全体に"蜃気楼"が薄くかかっているようです」

「何が、子供騙しだ。向こうが一枚上手だったか」

「いえ。出来たのはつい先ほど。恐らくこの1週間で目途を立てていたのでしょう」


男は私の肩を抑えて、冷静な口調で言った。


「悪い。熱くなりすぎた」

「仕方がありませんよ」

「運河に誰かいる?」

「"白龍"と"狐"と"鳥"が」

「相手は"冥暗"の幹部だ」


私の言葉に、赤眼の男は青ざめる。

路地の奥に目を向けると、靄の中から見つけた"扉"が微かに揺れ動いていた。


「大丈夫さ」


男に向けてそう言って、髪をかき上げ左耳を見せる。

雪が降りしきる中、風に乗った雪が耳に当たって溶けた。


「まさか」

「雑魚骸骨の1体や2体に遅れをとる事もあるまいな?」

「お任せを」

「大丈夫。もう、二度と、二度と、誰も消しはしないさ」


驚いた顔に揺らぐ男に、私はそう言って狐面を外す。

狐面の裏に作っていた、ニヤリとした表情を見せると、男は表情を引き締めた。


「必ず、お力に」

「期待してるよ」


再び狐面に顔を隠す。

そして、再び屋上へと舞い上がった。


さっきよりも雪が積もった屋上に、足を止めて運河の方に目を向ける。

そこには、既に豊宝山の姿は見えず、眼下の中央通りに、運河の方に向けての歩みを止めない人々の姿が見えるだけだった。


その数は、ざっと200人位だろうか?

今でもこれなのだから、運河にはどれだけの人が居るのだろう?


嫌な予感が全身を強張らせ、直ぐに首を振って運河の方へと飛び出す。

本降りとなった大粒の雪の中、視界の奥にボヤけて見える運河の光目掛けて突き進んだ。


「見ぃつけた…」


数百メートル、ビルの屋上を越えてきて、運河にやって来た私の前。

寒そうな格好の女が笑みを向けていた。


「良く来たね!そうだよね!その程度で死ぬはずはないか!」


中央通りと運河通りが重なった交差点。

その角の、レトロな装いのビルの上。

血濡れになり、息が上がった私の前で、女は眼下の景色を指さした。


「見なよ!こんなに"イイ骨"が集まってるの!」


天真爛漫な声色。

ビルの下に見えたのは、運河通りに"自発的に集まってきた"人の姿。

そして、それに混じる"人に化けた"妖達の集団。


「あぁ、極上の"骨"がそこに居たわね!」


眼下の人々を見て唖然とした私の背後。

ガシッと両腕を捕まれる。

なんの気配も感じなかった。

首を回せば、そこに見えるのは、"屋上の上に出来た扉"と2人の男女の姿。


「お面を取っちゃいましょう。貴女を"予約"してた2人はもう居ませんからねぇ」

「早い者勝ちでしょー。こんなに活きの良い骨は!」


ゾッと背筋が凍り付き、狐面を外される。

刹那、全身を痛みが貫いて、私の体は運河の方へと舞い上がった。

落ち行く最中、嘲笑をこちらに向けた男が、下の"骸骨達"へ高らかに宣言する。


「さぁ!皆さん!"収穫祭"の目玉のご登場ですよ!」


お読み頂きありがとうございます!

「いいね」や「★評価」「感想」「ブクマ」等々頂ければ励みになります。

よろしくお願いします_(._.)_

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ