表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
壱章:少女は境に立つ
29/300

29.慣れた事とはいえ、受け入れられるかは話が別だ。

慣れた事とはいえ、受け入れられるかは話が別だ。

何度も何度もあったから、すっかり慣れ切った事でも、嫌なのは間違いない。

そんな時は、普段以上のオマケをつけて、思い知らせてやればいい。


「沙月様」


横に居た沙絵が、潜めた小声で私を呼んだ。

顔をそっと寄せると、沙絵も同じようにこちらに顔を寄せる。

前に居る2人には、表情を消して、唇に指を立てて見せた。


「3人ですよ。あと1人居たのでは…?」

「伊達男か。名前もそんなんだったっけ」

「窓の外を」

「分かった」


まだ、入り口で待たされている妖3人には気づかれて無さそうだ。

その間に、さっき窓越しに見えた時には居たはずの、背の高い大男を見つけられないかと窓の外に目を向ける。


再び見えたロマン交差点。

忙しなく目を動かすと、歴史のありそうな建物の横に佇む、寂れた男の姿が見えた。


「居た」

「…動きは?」

「煙草を吸って、新聞を読んでる」

「この時代に、不自然なものですね」

「あっ?そういうことか」

「何かありました?」

「目が合った。"動く"気だ。"白龍"の目はどうなってる?」

「届いてるはずですが」

「…私の"代わり"をここに」

「承知しました」


窓越しの光景を眺めつつ、2人に聞こえないよう、更に小声で会話する。

監視の目があるというのに、男の態度は大胆不敵な様に見えた。


「ごめん。やっぱ何か起きたみたい」


窓から目を離すと、私はそう言って2人に頭を下げる。

さっきまでの雰囲気は何処へやら、表情を暗くした2人は、精一杯の笑みをこちらに向けてくれる。


「ううん、大丈夫よ。沙月。無理はしないでね」

「うん。直ぐに戻るから。ちょっと出て来る」


後ろ手で指を重ねながら言うと、すっと席を立った。

甘い香りのするレストラン内を歩き、3人の前を通り抜ける。


「あれ?」


取り巻きの男が訝し気な目を向けたが、それに反応を見せることは無い。

ウィッグの髪型を変えて、眼鏡も無いだけで誤魔化せるとは思わなかった。


「……」


口角を吊り上げ、階段を降りて…そのまま外へ向かって一直線。

外に出て、ロマン交差点の方へ小走りで向かうと、遠くにヨレヨレのハット帽が見えた。

後少し走れば、浮浪者の一歩手前の様な格好をした変質者が目に入る。


「さて…」


人混みに紛れ込み、サッと近場の雪山の影に隠れた。

通りを歩く人の目から消えて、ポーチに忍ばせた狐面を顔に付ける。


そして、雪山の影から飛び出して男の下へ。

車が通らない隙を縫って車道を渡り、あと数メートルの所まで着いた時。

ようやく見えた男の眼は、しっかりと私を捉えていた。


「甘ったるいなぁ…さっきからずっと待ってたんだぜぇ、絵描きさんよぉ」


律儀に、煙草を携帯灰皿に捨てた伊達男。

彼の目の前に立ち止まると、不自然に膨れ上がったトレンチコートのポケットに灰皿を突っ込んだ。


「最後の1本のお味は?」


会った直後から男を煽ると、大男の額に青筋が通る。


「口の減らねぇ奴目ぇ…だがなぁ、これを見なぁ!」


ボタンの閉まっていないコートが開かれる。

それと同時に、周囲の時が止まったような錯覚を受けた。


「……!?」

「フッ…ハハ…名高き絵描きでもぉ、見た事ねぇかぁ」


周囲がシンと静まり返る。

周囲を賑わしていた観光客の声も、車の音も、遠くに聞こえる海の音も聞こえない。

寒さも感じなければ、さっきまで吹いていた冷たい海風すらも…今は何一つ感じなかった。

私に付いていた、ルナイの甘い匂いだけが、ここが現実であると伝えてくる。


「"蜃気楼"とやらの内部かな」


周囲の変化を見て回り、再び男の方へと目を向けた私は、今度こそ目を剥いた。


「絵描きぃ!一つぅ、賭けをしようじゃぁないかぁ…」


そう言った男の懐。

コートの内側、仕立ての良いYシャツと黒いパンツ姿。

その体に、グルリと鎖で巻かれた人影が1つ。

真っ青な顔でぐったりとしている、私と同い年位の女の子がそこに居た。


「ほぅ。下種め」

「1時間だぁ。生きたままぁ、骨に変え終わるまでぇはぁ…」

「その間に、伊達男の泣きっ面を拝めれば私の勝ちというわけ?」


嘲る様な、真っ赤な細い目をこちらに向ける男。

その男に、"赤紙の呪符"を突き付けた。


「おぉ、それがぁ、噂のぉ…」

「"殺し"はしない。"隠す"だけ。遠い国に"隠れて"もらうよ」


その一言が、事の切欠。

地面を"真上に"蹴り上げた男、それに付いて行く私。

舞台はこの間と同じく、高所になるようだ。


「啖呵切っといて、逃げるだけ?」


雪の無い屋根の隅に降り立って、向かい側の建物のアンテナに捕まった男に問いかける。

"固まったアンテナ"にぶら下がる男は、細めた目をこちらに向けて口角を吊り上げた。


「これから1時間よぉ、お前ぇにやられなきゃ、いいんだぜぇ?」


男はアンテナを掴んだ手を離す。

男を追いかけ下に向いた目線、揺れるアンテナの音、視線の先に男はいない。

そこにやって来た、思いもよらぬ、上からの衝撃。


「ィ…!」


後頭部を揺らす強い打撃。

滑り易い屋根の上、成す術もなく地上に落ちて行く。


「ギィ…」


"落ちて直ぐ"分厚い圧雪路面の上に、おかしな体勢で押しつぶされた。

痛みを発する体を無視して、即座に振り返るとニヤけた男の顔が映し出される。


「さっきまでの威勢はどうしたぁ?」


向けられたのは、嘲るような笑み。

地上に落ちたはずの周囲の光景が、さっきまで立っていた屋根の上に変わっていた。


「まだだぁ…まだぁ、熟し切ってねぇなぁ!」


お読み頂きありがとうございます!

「いいね」や「★評価」「感想」「ブクマ」等々頂ければ励みになります。

よろしくお願いします_(._.)_

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ