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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
壱章:少女は境に立つ
24/300

24.そうと決まれば、話は早い。

そうと決まれば、話は早い。

気持ちはどうあれ、ウズウズしていた所に、ゴーサインが出れば、あとは飛び出すだけ。

飛び出すための準備は出来ているのだから、あとは目標目掛けて突っ走ればいいのだ。


「あれ?入舸さん、まだ帰ってなかったんだ」


八沙からの報告を受けた次の日の放課後。

今日もまた、穂花達を先に帰して居残っている。

昨日、是枝陀先生と会話した校舎の隅で、彼女が"私目当てに出て来る"のを待っていた。


「なんでジャージに…?もう夜よ?人には寒いでしょうに。風邪引いちゃうわよ?」


まるで、まだ学校で働いているかのように、職員用玄関から姿を見せた先生。

鞄を背負い、コートのポケットに手を突っ込んだまま何も言わない私に、ゆっくりと歩み寄って来た。


「先生に用事がありましてね」


周囲を見つつ、誰もいないことを確認してようやく口を開く。

目の前までやって来た彼女は、眉を上げて首を傾げた。


「あら、私に?」


首を傾げたその額に、ポケットから取り出した"赤紙の呪符"を貼り付ける。


「ア?」


貼り付けた刹那。

呪符は溶け出し、先生の体に吸い込まれていく。

軟膏がしっかり塗り込まれたように、呪符は先生の体に消えていく。


「ほぅ…」


溶け込んだ呪符。

それは、人に義体した妖の本性を曝け出す特効薬。

先生の"本性"が、夕方の寒空の下に曝け出される。


「そうだよなぁ。子供に"先生"って職業は、良く効くもんなぁ」


彼女の骨の一部が、この間対峙したときと明らかに違っていた。

頭蓋骨、この間とは全く別の頭にすげ変わっていて、その頭頂部には2つの角が見える。


「昨日、鬼が1人消えたみたいだけどもさ。彼、そんな頭してたよなぁ」


その姿を見てニヤリと笑う。

開きっぱなしだった鞄の中から狐面を取り出すと、それをゆっくり顔に付けた。


「ソンナ…」


骸の声が、ほんの少し上ずる。

狐面の中で口角を吊り上げて、コートのポケットから取り出した"赤紙の呪符"を、"彼女"の方に突き出した。


「"滅し"はしない。"隠す"だけ。その先に、何があっても、知ったことではないけども」


寒風が吹きすさぶ校舎の隅。

突き出した呪符は、何時ものように"綺麗な"光り方をしていない。

さっきまで私を煽るようにカタカタ音を立てていた骸骨は、馴れ馴れしい距離から二歩分離れていった。


「祭りは大勢で楽しみたかったよ。でも、"待て"も出来ない犬は、受け入れないよなぁ」


その言葉と共に、圧雪の上で一歩足を踏み出す。

手にした呪符は、時を追うごとに靄となり、私を包み込んでいく。

その刹那、たじろいだ骸骨は、校舎の壁に自らの骨を突き刺した。


「おぉー、魅せてくれるわ」


"人"の世界にも影響を与えかねない傷が、校舎の壁に残される。

それはよく、"怪奇現象"と言われ、暫く噂となって残るものだ。


「やっぱ、人の世界で動けばさぁ。常識もそっちに寄ってくるもんだわな!」


冷たい壁を駆け上がる骸骨。

それが作ったヒビに手をかけて、視界から骸を消さぬまま追いかけた。


「エ?ナンデ…!」


カメムシのように壁を這いずる骸。

その視界に私が映る事が、余程意外だったらしい。

表情の無い、角が生えた頭骸骨の口元が、上下に揺らいでいた。


「よっほっ!っとぉ!」


校舎のヒビに窓枠に、そこから勢いそのままに、もう一度ヒビに手をかけて。

自由自在に登って辿り着いたのは、これまでの雪がどっさり積もった校舎の屋上。

雪が無い端っこに足を載せると、屋上の中心部に逃げた小柄な骸骨の妖をじっと見据えた。


「この間は、"隠す"の失敗したからなぁ」


ずっと手にしていた呪符が放つ靄は、全身を包み込むほどに深くなっている。


「ソンナ…チカラ、ドコカラ…!」


周囲を見回す骸。

そこへ目掛けて足を踏み出す。


踏み出した先、深々と積もった"ベタ雪"の上。

人ならば、埋もれてしまいそうな雪の上を、滑るように駆け抜けた。


「クゥ…!」


構える骸骨。

飛んできたのは、左右6本の"腕"から放たれた斬撃。

どんな仕組みか知らないが、骨が"伸びて"飛んでくる。


右に左に…右と見せかけて左に大回り。

この間、お腹を貫いてきた刃先を交わして前だけに進んでいく。


「チクショウガ!」


堪らず後退し始める骸骨。

彼女が作った雪の轍の上に足を置き、向かってくる刃を躱してその先へ。

靄と化した私は、靄に掠れた軌跡を後ろに残して追いかけた。


「おっとぉ!」


最中、躱しきれない骨が迫る。

それに動じず、強引に体を捻って翻すと、骨が伸びてきた"可動部分"に手が伸びた。


「グ!ギ…ャアァ!!!」

「あと5本だね」


手刀で砕いたのは、思った以上に柔らかい関節の部分。

その破片を手で掃い、得られた"戦利品"を右手に握った。


「骨も、ダイヤになるもんなぁ」


刀のように握ったのは、人の何処かの部位の骨。

加工されて、光沢が出る程に磨き上げられた刃の部分を見せつけた。


「片手で十分さね」


一瞬怯んでいた骸骨は、腕を1本失った程度で手を緩めない。

殆ど間合いに入ったと言える今、5本の腕が私を目掛け、空気を切り裂いてきた。


一閃。


右手一本で振るわれた刃が、5本の腕を木端微塵に刻み込む。

切り刻んだ勢いそのままに、雪の上を踏み込み、飛び出し、呪符を手にした左手を、骸骨の胸元へと突き出した。


「つかまえた!」

「ツカマエタ!」


お読み頂きありがとうございます!

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よろしくお願いします_(._.)_

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