表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
壱章:少女は境に立つ
21/300

21.事の重大さを知るにも、順序というものがある。

事の重大さを知るにも、順序というものがある。

何も知らぬまま押さえつけるのは簡単だけど、それで得られるものはきっと何もない。

だからといって野放しにしていれば、重大さに気づいた頃にはもう遅いんだけどさ。


「こんな時間に呼び出されたってことは、何かあったってことだよね」


週の真ん中の昼休み。

校内放送で呼び出されて向かった先は、来客用玄関。

そこから外に出て、久々に見た家の車に乗り込んで、ようやく話が始まった。


「どうしたもこうしたも。今朝、2人攫われたのさ」


後部座席で向かい合うのは、私の母様。

母様は、険しい顔を浮かべたまま話を続ける。


「攫われたのはどっちも子供なのよ」

「…"白龍"の監視があったんじゃないの?」

「ちゃんと見てた。こっちに抜かりは無かったさ」

「それなのに、やられた。と」


話題は、平日の昼にするには凄く重い。

似たような顔を作ると、ぶかぶかの制服の右袖に仕込んでいた呪符を抜き出して見せる。


「この程度じゃ駄目ってことじゃん」

「ええ。さっき、お触れを出したわ」

「そこまでとはね。じゃぁ、さっき攫われた時に使われたのは…」

「"蜃気楼"でしょうね。敵は"No6"…"冥暗"で間違いない」

「"蜃気楼"…見た事ないよ」

「私ですら無いわよ。その辺は八沙が詳しいから、対処を任せているけれど。手を打つまで少し掛かりそう」

「ほー」


眉を上げて、口元を微かに吊り上げる。

周囲の音が何も聞こえない車内で、母様の瞳が私に突き刺さった。


「京都の人達には何て言われてるの?」

「"丁寧な仕事ぶりを拝見させていただきました"だって」

「はぁ。だったら人の1匹2匹、寄越せってさ」

「…えぇ。被害が出た以上、また何か起きるわ」

「でしょうね」

「だから、沙月にこれを渡しに来たってわけ」


そう言った母様は、小さなケースを渡してくる。

微かに目を剥いだ私は、何も言わずに受け取ると、すぐに蓋を開いて中身を見た。


「久々に見た」

「そういう事だから」

「分かった。それじゃ」


嫌な汗が背中を流れ落ちる。

コクリと頷くと、ケースの蓋を閉じて、車のドアノブに手をかけた。


「冥暗の掟として。骨に防人の匂いが付いていれば、序列が上がるそうよ」


出ていく直前、母様はポツリと助言をくれる。


「気を付ける。彼らの"祭り"までには、ちゃんと舞台を整えておいてね」


頷いてそう告げた私は、ドアを開けて外に出た。

ドアを閉めると、車は直ぐに動き出し、駐車場から消えていく。

その影が見えなくなるまで見送った私は、手にしたケースの蓋を開き、中に入っていたものを手に取った。


「アクセサリーは校則違反なんだけど」


誰もいない、寒風が抜けていく駐車場で、ポツリと呟く。

手にしたものは、小さな呪符が付いたピアスだった。

これをつければ、どちらでもない紛い物になれる。


「…あぁ、今更か」


拒否権の無い問いの答えを出すと、両耳にピアスをつけた。

つけただけで、目に見える世界は何も変わらない。


右耳につけたピアスに手を触れて、それから右耳の後ろ側に手を触れる。

あるはずの髪が剃り込まれた部分。

人の肌の感触が返ってこない、"元から人ではない"部分。

ヒンヤリとした、それでいてヒリつくほどの妖気が指先に伝わってきた。


「見ぃちゃった、見ぃちゃったー」


静寂が突如として破られる。

ハッとして声の方に顔を向けると、校舎の影に人の姿。


「是枝陀先生」


右手を戻して楽にすると、周囲を見回して彼女の方へと歩いていく。

その途中、校舎に付けられた時計に目を向けると、休みの残りは10分少々といった所。

骸の姿ではない、"人の姿をしただけの妖"は、私の姿を見て何処か楽し気な様子だ。


「随分と不用心ですね」


周囲を気にしつつ、面倒くささが混じった声色で声をかける。

彼女は、キョトンとした顔を浮かべて首を傾げた後、可愛い顔には似合わない、気味の悪いニヤケ顔を浮かべてきた。


「さっきのはお母様だったわね。確かに、危うく消されてしまう所だった」

「何もしないでいれば、放っておくのが"この地域"の防人ですから」

「なんだ。気づけないってわけじゃないのね」

「気づかったとしても、気づける存在はちゃんといます」


校舎の隅。

出入り口からは見えない、普段であれば、隠れて煙草を吸うような場所に2人。

いつでも"消せる"用意をしつつ、その気を彼女に向けながら対峙する。


「ふふふ。"表の顔"があるって、大変ねぇ。貴女は、この場所に縛られてるんでしょう?」


それを知ってか知らずか、彼女は得意満面な表情を浮かべたまま私の顔を見上げてきた。


「人攫いのこと言ってます?」

「どうだろう。ただ、攫ってから、この世界で言う"1時間"の間に骨に出来るのよ」

「じゃ、もう遅いじゃないですか。今朝やられたんだし」

「でもぉ、きっとぉ、アレは良い出来にぃ、仕上がらないわぁ」


妖としての口調と、人としての口調が混じり始める。

悦に浸った様な声色で、煽るような視線をこちらに向けて囁いた。


「何が目的?」


口も触れそうな程、グイっと近づいてきた彼女を押し返しながら問いかける。

彼女の吐息と共に、微かに香ってくる血の匂いに、ほんの少し顔を歪めた。


「目的ぃ?流行りに乗りたいだけですよぉ。今乗らないとぉ、置いて行かれますぅ」

「趣味の悪い流行り。この世界に何もしなければ、私達は本当に何もしないというのに」

「アクセサリィですよぉ。人の世界でもあるでしょぅ?珍しければ珍しい程良いのよぉ」


完全に妖口調になった先生。

最早、その眼は骸の時の様で、表情を作っていない。

だが、それを補うには十分な程に、頬から口がニヤついていた。


「ここはぁ、私がキープしている大事な所なんですよぉ」


私を目の前に、大胆な宣言を1つ。

呪符を出そうとした私の手をがっしり掴むと、首を左右に振った。


「まだですぅ。学びましたぁ。良い骨にはぁ、良いストーリィがいるものですぅ」


人としての腕が震える程の力で、私の右腕を抑えつけながら、彼女は私に目を合わせる。


「苦労すればぁ、苦労するほどぉ、骨の輝きが増すんですよぉ」


色のない瞳の奥、吸い込まれそうな黒い瞳に、私の全身が映し出された。


「骨もぉ、その身もぉ。ちゃぁんと熟しておかないとぉ……後悔しちゃいますからぁ」


お読み頂きありがとうございます!

「いいね」や「★評価」「感想」「ブクマ」等々頂ければ励みになります。

よろしくお願いします_(._.)_

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ