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入舸沙月の妖隠避録  作者: 朝倉春彦
壱章:少女は境に立つ
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14.予想外の事が続けば、どんな朴念仁でも気づくはずだ。

予想外の事が続けば、どんな朴念仁でも気づくはずだ。

1度や2度、3度までは偶然で片付けられど、4度目以降はそろそろ危ない分水嶺。

何時境を越えられるか、ビクビクしながら対峙していれば、その時は案外すぐにやってくるものさ。


「あの…」


気まずい空気が流れる理科室の中。

その入り口にいるのは、よく知った顔。

正臣は、引きつった表情を確かにこちらに向けていた。


「……」


何も返せぬまま、混乱の極致に陥る。

思わず、顔に被せた狐面に手をかけた。


掌の伝わる面の感触。

確かに、顔には狐面が被さっている。


「うわ!」


ならばと、手にした呪符に念を流し込んで塵に変える。

直後、黒く光る呪符。

驚いた正臣が、一瞬教室の外に飛び出した。


「…くっ」


その隙をついて、台の裏側に姿を隠す。


「なんだったんだ…?」


正臣はすぐ教室に戻って来たが、私を見つけられない所を見るに、上手く死角に入れたみたいだ。

ホッと溜息を付くと、こっそりと、彼の気配を感じながら行動を開始する。


「!!」


台の物陰から様子を伺うと、彼はこちらをじっと凝視していた。

パッと影に隠れたが、間違いなく目が合ってしまっている。

背中に嫌な汗が伝い、鳥肌が立ったが、どうやら彼は私に気づいていないらしい。

暫くこちらを眺めた後、ゆっくりと視線を反らすと、首を傾げて視界から消えていった。


「呪符だ…」


狐面の効果が戻っている。

囁くような声で毒づいてすっと立ち上がると、正臣の背後を通って理科室を後にした。


廊下に出て、ホッと一息。

少し離れて、適当な所で立ち止まって、廊下の壁に寄り掛かる。


「あんな呪符も作れるのか」


窓の外、今は雪留場になったグラウンドの様子を眺めながら一言。

明らかに力の籠り具合が違っていたから何かあると思ったが、厄介な効果の代物だ。

あの力の強さに、丁寧さ…きっと先生の作った呪符じゃない。

となれば、何か別の存在がこの学校にいることになる。

ゾッと背筋を凍らせたが、すぐに首を横に振って、最後の呪符の方へ足を向けた。


「鍵、空いてたよね。確か」


狐面の効果が戻ったのだし階段を使いたかったが、気分的に正臣の姿を見たくない。

廊下をそのまま突き当りまで突っ切って、非常階段の扉に手をかけた。


「よし」


思った通り、鍵は開いている。

念のため、一度廊下の方を見て、誰も見ていない事を確認してから外に出た。


「寒!」


体を震わせつつ、冷たく凍った非常階段を駆け上がる。

4階、学校の最上階の扉を開けて校舎内に戻ると、フワッと暖房の暖気が体を包み込んだ。


最後の目標は、この校舎の最奥地。

非常階段を上がってすぐの所にある音楽室。


「最後はご丁寧に、ピアノの横か」


教室に鎮座する、年季の入った真っ黒なグランドピアノが終着点だ。

そこに貼られた呪符を剥がすと、直ぐに念を流し込む。


「これで、終わり」


最後の呪符をサクッと片付け終えると、深い溜息をついて歩き出す。

これ以上、学校に長居しても意味は無い。


「あ?」


教室の外に出ようとする寸前。

楽器が仕舞いこまれた別室の方から何かの気配を感じて足を止める。

ふと顔を向けると、楽器置き場へと繋がる扉の様子が変だった。


「これは?」


狐面越しじゃないと気づけなかったであろう違和感。

お面がちゃんと顔に掛かっているかを確認してから、扉に手をかける。


「……」


扉を開けて、中の様子を見るなり直ぐに閉めた。

直後、ジャージのポケットに仕込んでいた呪符を扉に貼りつける。


「母様にやってもらう事、もう一つ追加っと。これで、正臣の悪霊騒ぎも無くなるかな」


扉の向こうに広がっていた世界は、見てはいけない"境"の先。

きっと、この間の誘拐未遂犯も、先生も、この扉からやって来たのだろう。

口元が引きつり、嫌な類の寒気が体中を駆け巡った。


「怖い怖い。そっと蓋をしておきましょ」


気を紛らわす為の軽口と共に、今度こそ音楽室を後にする。


「その声、沙月だよね」


廊下に足を踏み出した時。

突然投げかけられた言葉に足を止める。


「……!」


喉元までやって来た叫び声を必死に押しとどめた。

ゆっくりと声の方に顔を向けると、見えたのは。怪訝そうな目をこちらに向けた正臣の姿。


「ねぇ、ジャージに名前も入ってるんだしさ。なんか言ってよ」


黙り通す私に、彼はそう言いながら近づいてくる。

間合いに入って来た時、彼の表情…鼻が微かに揺れた。


「なんか鉄っぽくない?」


血の匂いを捉えたらしい。

どうしようと、何も出来ぬまま固まっていると、彼は目の前までやってきて、パッと私の狐面を取り上げた。


「ほら、沙月だ。おはよ」


引きつった私の顔を見て一言。

彼は控えめに、でも、どこか勝ち誇ったような顔を浮かべて、頭一つ分だけ小さい私を見下ろした。


「俺、このお面、見覚えがあるんだよね」


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― 新着の感想 ―
[良い点] ようやく正臣も気付いた。 でもここからどうするか。 沙月がこの状況をどう切り受けるか、見物です。
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