八十九話 地獄の釜
一年も間が空いてしまい申し訳ありません。
正直、モチベーションが無くなってしまいました。次いつになるか私もわかりません。次回の話がなるべく早く書けるように頑張ります。
黒々とした噴煙に巨大な噴石、全てを飲み込む火砕流と轟く火山雷。火口周辺は明らかに危険であり、藤也達一行は休む暇も悲しむ暇も無く、魔法を駆使して命かながら下山するのだった。そして、そのはるか上空で翻る三体の影が見下ろしていた。一体は真っ黒で邪悪な翼をはためかせるラファエル、一体は燃え盛るようなオレンジ色の翼のウリエル、最後の一体は、白鳥を思わせる純白の翼をもち、厳格な面持ちで我の強さを感じられる風貌をしている女の天使である。
「器と女神、勇者が共闘とは皮肉だな。なぁ、ラファエル」
「何が皮肉だ。ガブリエル、父をバカにするつもりか?」
ラファエルはガブリエルと呼んだ白翼の天使をジロリと睨みつける。本気で創造神を敬愛しているのは、ラファエルだけであり、二人のやり取りを見てウリエルはバカにするような笑みを浮かべている。
「何がおかしいんだ」
「いえ、すみません。貴方達のやり取りが実に滑稽で、思わず…」
ウリエルは笑いを堪えていたようだが、途中から吹き出してしまった。
「貴方が真面目すぎて…それなのに全てが空回ってて…ふふふっ」
その言葉にラファエルは眉間にシワを寄せ、額に血管を浮き立たせて目下で起こっている噴火のように怒りを爆発させた。
「貴様!!私を愚弄することがどんなことかわかっているのか!!」
「わかっていますとも。神の指先である私達ですからね」
「そうだな!我らは一心同体だもんな!わっはっはっ!」
ガブリエルは大笑いしてウリエルの肩を叩く。二人してラファエルを馬鹿にしたものだから、ラファエルはとうとう呆れてしまった。目の前の空間を裂き、真っ暗な闇の中へ進もうとする。
「あー、すまんよ。兄弟、からかいすぎた。だがな、一つだけ忠告してやる。神は所詮我らを駒として生み出したにすぎねえ」
「わかっている。だからこそ、神に忠実に生きるのだ」
ラファエルはそれだけ言い残してどこかへ消えてしまった。開かれた虚空も、やがて収縮して消えてしまう。それを見届けた二体は、視線を下へと移して目を細めた。
「…全く人間ってのは悉くしぶといな。この噴火をコレほど間近に受けたというのに、未だに生きおおせている」
「えぇ、だからこそ厄介で、だからこそ面白いのですよ」
視線の先に居る少年達は、魔法を用いて火砕流を凌ぎ、必死に足掻いている。その姿は無様ではあるが、何としてでも生き延びようという強い渇望が感じられた。自分達天使には理解できない、命に終わりあるのにも関わらず必死に足掻く姿は、彼らの目にはどう映るのだろうか。
「我らには我らの使命がある。父とも、ラファエルとも、その他種族とも異なる、楽園のための使命がな」
「えぇ、行きましょう。生きましょうとも」
二人も、ラファエルと同じく、虚空へと消えていった。
その日起きた未曾有の大噴火は、大陸を混沌へと突き落とした。全く変わってしまった生活に、息づく生命は何を思い、何を成すのだろうか。
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過去類を見ないレベルの巨大噴火を火口域で体験した少年達は噴火に巻き込まれて死ぬところだった。しかし、遠くから現れた一匹の鯨によって救出された。無論、その鯨はアンである。一人、噴火を目撃したアンはすぐさま道を引き返して仲間と合流を図った。
(あの噴火、全く前兆がなかったのにも関わらず、とてつもない規模だった…!)
至る所で地面が割れ、どろっとした溶岩が吹き出しているため、空を飛んで最短で直行したい。しかし、今日の変身に使える魔力は全て使い切ってしまい、ただ走ってゆくしか無いのが現状である。
休養中の村が見えてくると、カーターらも異変を察知して外で火山を見上げているところだった。
「みんな!火山が!!」
アンが叫ぶと、不安そうに見上げていた表情が一瞬安堵に変わり、マオが駆け寄ってきた。
「良かった!アンちゃん!」
「よし!コレで全員の無事が確認できたな。俺らもすぐに避難するぞ!」
どうやら村の住人はすでに避難しているらしく、もぬけの殻と化したようだ。すでに身支度は終えているらしく、急いで走り出そうとする。
「待って!少し、少し私に力を貸して!!あの火山にお兄ちゃんが居るの!」
アンがそれを引き止めた。こんな有事に何を言い出すのかと怒鳴ろうとするガットをカーターがすかさず止める。
「どう言うことだ?端的に説明してくれ」
「っ!ありがとう!噴火する直前、火山の方から微かだけど魔力らしきものを感じたの!冷たいけれどどこか安心できるような、出発する前に言った獣人の魔力が」
突拍子もないことを言うアンに一行は険しい顔をして目を見合わせる。命が危ういこの状況、アンを待っていた時ですら恐怖を感じたのに火山に向かって行くなど自殺行為の他でもない。
「お前は…ハァ、今までのワガママとは訳が違う。仮に獣人の魔力を感知したとして、そこに女神様が居るのとどう繋がる?」
「…っでも」
淡々と説教をするカーターにそれでもアンは食い下がる。しかし、顔を上げた際に見えた皆の顔が自分を非難するような苦い顔であったために、足がすくんで言葉も尻すぼみに消えてしまう。
「でももくそもねえ。俺らは付いていかない。それだけでそれ以上も以下もない。行きたいなら一人で勝手にしろ」
「…」
今まで自分の仲間だった彼らとの距離が遥か遠く離れて行くのを感じながら、踵を返して急いでその場を後にする背中を眺め続ける。
「待ってよ…」
消えいるような微かな絶叫が木々の隙間に吸い込まれる。無力感。コレほどまでに自らの愚かさを感じたのはいつぶりだろうか。過去にも何度か感じたそれだが、今回ばかりは助けてくれる味方など誰もいない。俯けば涙で視界の全てが朧げになる。
しかし、そうも言っていられないのが現状だ。アンは見た目は人間だが、その感覚は魔物である砂鯨のものと同じだ。魔物は殆どが魔力探知を得意とし、人間の数倍、数百倍もの感度を誇っている。それ故に放たれた獣人の魔力が残火すら使い切ろうと必死な荒々しい一撃だと感じ取っていたのだ。
(でも、無力なままじゃダメだって、役に立って褒めてもらうんだって覚悟したじゃん!!)
口をキュッと結んで顔を上げると、思いもよらぬものが目に飛び込んできた。それは、ポツリと置かれていたマナポーションである。
「…っ!みんな!!」
すぐに手に取って見てみると、タグに何か書いてある。
『覚悟したなら突き通しなさい』
ただ一言だけ、されどそこには深い深い意図が込められているのをアンは理解していた。これは最後のチャンスである。未熟な己がベテラン冒険者を振り回したことの罪を、強者に頼りきりで何もしなかった己の罪を、何も考えず、何も気にせず生きてきたことに対する罪を生産するための。
瓶の蓋を開けてすかさず一息で飲み干す。良薬口に苦しとは言うが、味など気にならない。それほどまでに切迫した状況である。
「っ!」
回復したばかりの魔力を消費して巨大な鯨の姿に変身する。正真正銘、今日で最後の変身だ。上空から見た地上は地獄絵図そのもので、地面は割れてマグマが噴出し、木々は燃えて青々としていた葉もメラメラと燃えている。空は黒々とした煙に包まれており、陽光は皆無である。殺伐とした景色に焦りを覚えつつ、速度を速めて火山に向かう。途中、人の丈の十倍はあろうかと言うほどの巨大な噴石が付近に落下し、空中であれど安全ではないと悟る。しかし、心配は杞憂であった。これまでの悲しみに神が応えたかのようにアンには尽く当たらなかった。
火山に着くと、噴火の影響がより強まった。溶岩が河川のように筋を作って流れている。
(みんな…!どこにいるの!?)
鯨の姿では辺りを見回すのもいい一苦労である。暗い環境では目視による捜索は無力である。しかし、アンは魔物だ。魔力放出さえあればすぐに位置を特定できる。
(でも魔力を使ってくれないと地脈のエネルギーが強すぎて常時垂れ流れてる魔力がわからない…)
溶岩には大地のエネルギーがある。それは熱となり光となり魔力となり周囲に放出され続けている。この環境下では生物の放つ微かな魔力はわからない。ならば、魔力を放って貰えば良い。そう考えたアンは、鯨の姿を活かして低く響く鳴き声を奏でる。
『オォォォォォ……』
低音は高音よりも広範囲に響く。これで霊華や藤也が気がつけば何かしらアクションをしてくれると踏んだのだ。そして、その目論見は見事に当たった。山の中腹から水が噴き出したのだ。
(この魔力は誰の?)
水魔法を使ったのはテティスだが、アンとは面識がない。当然警戒をするが、魔力探知をその地点に集中すると、藤也と霊華の魔力もしっかり感じ取ることができた。先ほどの魔法は味方のものだと判断してアンは超特急で泳いでゆく。それからは早いものだった。アンと合流した一行はアンの背中乗り、火山から一目散に逃げた。死者を出すほどの大きな戦い。女神である霊華は短期間で度々の死闘を繰り広げた結果、確実に力を消費している。ナレスは魔力が枯渇寸前であり、当分は魔法を使えないだろう。少年も破壊の力の酷使により無気力な状態が続いた。
しかし、ゆっくりと休息を取ることはできなかった。大陸は熱い雲に包まれ、地表の至る所で溶岩が流れる。この大地は、数百年全く小氷期に突入したのだが、火山付近は地脈のエネルギーにより高温となる。その寒暖差が気候変動を引き起こし、人間の住める地はゼロに等しい状態になった。
人々は己を守るため、争いを始めた。国家間は勿論、それぞれ組織を作り数少ない物資を巡り抗争が絶えず起こる。天変地異で乱れた世は弱肉強食である。強者は己の力に陶酔し、弱者は見返りを求めて神に縋り付く。ただ、神が応えることはなく、教会も崩壊寸前。女神霊華の味方はあっという間に数を減らしたのだった。
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