表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全テをハ壊スル者  作者: 南十字
四章 邪神の力の解放
86/89

八十六話 可愛い娘

大変遅くなって申し訳ございません。

なんだかんだこれからも忙しそうなので不定期投稿が続きます。

 背後の霊華を振り向きざまに払いのけるラファエルだったが、炎で体内を焼かれたのは流石に堪えたのか、膝を突いて項垂れる。


「キサマ…この程度で勝ったつもりか…」


 威勢の良い言葉を吐くが、掠れた吐息で滑稽にしか映らない。


「そりゃそうだ。頭の高い方が勝者なのはいつの時代も変わらねえ。それともなんだ?そこからまた地面を崩して一からやり直すか?」


 図星なのか、ラファエルは即座に実行に移そうと手に力を入れた。しかし、そうはさせじと霊華は瞬きをする間に肉薄し、ボールのように乱暴に蹴り飛ばした。更に、火球を何個か創り出して追撃も加える。


(危なかった…しかし、追撃はやりすぎたか?残りの魔力(ねんりょう)がかつかつな状況じゃ悪手だったな)


 平常心を装いつつ、内心では幾つもの不安要素に冷や汗を垂らしていた。

 ラファエルはというと、蹴り飛ばされて壁に追突して追撃も喰らったため、服に土煙が付いてしまった。ただ、損傷があるのは服のみであり、初撃以外殆どダメージにはなっていない。


「生意気な餓鬼が…」


 意外にも冷静になったのか、今までとは様子が打って変わり、精神の昂りが収まっていた。握り込んだ拳に闇魔法を纏い、霊華に微塵も魔力を与えない方向で攻めることにしたようだ。


「『闇魔法・黒腕(アーテルブラキウム)』」


 ゆっくりとした歩みは一歩ごとにその速度を増していき、すぐに最高速度に達した。


「っ!!」


 霊華は、土煙から唐突に現れたラファエルに驚きながらも、居合の体勢で迎撃する。


「『桜火乱舞・妖桜(あやかしざくら)鈴咲(りんしょう)』」


 この技は、刃を下にした刀を逆手で持ち、切り上げの後に持ち替えて切り下ろしを放つものである。たとえラファエルの突進が居合を誘ったものであってもリカバリーが効くだろう。


「うおぉぉぉぉ!!」


「シュッ!」


 雄叫びを上げる霊華と息を吐いて拳を突き出すラファエル。一段目の切り上げが拳に吸い込まれると思いきや、ラファエルはすんでのところで軌道を内側に曲げ、フックを空振らせる。そして、勢いのまま半回転して裏拳が飛んできた。

 意外な形のフェイントに呆気に取られる霊華だが、読みは外れていないため、即座に切り下ろしを放とうとする。しかし、ラファエルの拳の方が早かった。


「『衝撃魔法・インパクト』」


 闇魔法と衝撃魔法の重ね技は、単純な足し算では無く、掛け算として威力が現れる。それに加えて、衝撃魔法が効率よくエネルギーを伝えるため、敵を大きく吹き飛ばすことなく次の攻撃を叩き込めるのだ。


「グゥッ!」


 脇腹を殴られた霊華は体勢を崩してしまう。すぐに復帰しようにも、衝撃が内臓まで響くため神経が言うことを聞いてくれない。


(っ!やられた!)


 霞む視界に映るのは真っ黒な拳。放たれる左フックは霊華の頬を捉え、振り抜かれた。


「ふぅ…対策がわかれば他愛もない」


 魔法の面積を小さくすることで炎との接触の可能性を少なくしたことが功を奏し、霊華を一方的に追い詰めることができている。確信。ラファエルは勝利に向かって着実に歩みを進めていた。

 苦戦している霊華。一方、ナレスはと言うと、風魔法の機動力を駆使して二人を翻弄している。


「『風魔法・妖精の囁き(シルフィーウィプス)』!」


 放たれる突風が少女を捉え、遠くに吹き飛ばす。すかさず振り向き、Dr.ノイゲルに照準を合わせた。


「大地を吹き荒ぶ威風よ。堂々と吹き抜けたるは明日の道…」


 魔力剣の切先をDr.ノイゲルに向け、詠唱を開始する。それとともに、遺跡で手に入れた耳飾りが薄緑に明滅する。渦巻く魔力は剣に集中し、凄まじい奔流が生まれる。


「我が道を切り開け!『風魔法・威風(ディクティニー)堂々(プラウドリー)』!」


 詠唱が終わると共に、大地すら削り取る爆風が放たれる。従来の威力の数倍に増幅されたそれは、人間の肉体など容易に塵に帰すことができる過剰なまでの威力になっているだろう。


「な…なんて威力だ!」


 Dr.ノイゲルは非道であれど研究者である。魔力の研究で得られる威力とはかけ離れた天災に匹敵する事象に、思わず感心してしまう。しかし、この絶体絶命の状況下を乗り越えなければ研究を再開することができなくなってしまう。


(実験体のストックも尽きた…どうすれば…!)


 フル回転する思考。だが、そんなものでは防ぐこともできず、跡形もなく削り取られてしまった。呆気のない最後に、ナレスは唖然とする。


「厄介なのは殺せた…残りはあの娘だけだ」


 しかし、戦闘はまだ継続しており、次のステップへと移行する。死ぬことのない不死の少女をいかに殺しきるか、手探りで何度も殺すしかないのだ。


「痛い…いぃたたい…」


 突然聞こえる少女の声。今までの戦闘で一切声を発さなかった少女の声にナレスは少し驚いた。しかし、それ以上に、聞き覚えのある吃音の症状に戦慄を覚える。


「キサマ…!どこまで人の道を踏み外すのだ」


「…面白くもない道を歩んでも面白くないだろう」


 少女はこれでもかと感情を表に出して笑みを浮かべ、カツカツと余計に踵を鳴らして歩く。


「しかし、もしもの為に自我と記憶のバックアップを取っておいてよかった」


 そう言いながら己の頭に手を突き刺して乱暴に引き抜く。脳の負傷により目がぎょろぎょろ動き、痙攣する姿は不気味なことこの上ない。だが、再生能力のお陰で脳は再生し、元の様子に戻った。


「ふふ…本当の性能テストもできたところだ。それでは…先程のリベンジさせて頂きたい」


「っ!!」


 子を子と思わない人物だとは先の戦いで分かっていた。だが、自我すら自分で塗り潰すとは思いもよらなかったナレスは、何度目かわからない怒りに吐き気を覚えながら突貫した。


「そ、そんな力技じゃ、きょ、興味は湧かない…わた、私をマトモにする技術を見せてくれ!さっきの魔法を見せてくれ!!」


 攻撃を容易く受け止めたDr.ノイゲルは、ナレスの頭部をひしと掴み、魔法で加速させた岩石に思い切りぶつける。それだけでは飽き足らず、乱暴に振り回してから空高く放り投げた。


「っ…!!」


 強烈な脳震盪に苛まれ、視界が朧げに崩れる。勢いがなくなって頂点に達した時、大地のものでは無い強烈な引力によって地面に向かって引き寄せられた。自由落下とは到底考えられない衝撃が、着地と共に全身を襲う。


「っがはぁ!」


 肺の空気が全て排出され、代わりに血で満たされている気がする。強い引力は未だ収まらず、身体が軋む不快な音が耳小骨を直接揺らしている。


「…なかなか良い連携ですね」


 Dr.ノイゲルは冷めた目でナレスを一瞥して踵を返す。強い引力を生じさせた者はDr.ノイゲルでは無い。霊華との一戦に区切りがついたラファエルが、闇魔法を用いて強烈な重力場を生み出して横槍を入れていたのだ。それを快く思わないDr.ノイゲルは、不愉快そうに舌打ちをして去ろうとする。


「待て。まだ女神を殺せていない」


 ラファエルは霊華を探して辺りを見回しながらDr.ノイゲルを呼び止めるが、言うことを聞こうとしない。


「わた、私は次の研究に、と取り掛かる。ま、全く、あれだけぃ居た対女神用の実験体がつき、尽きてしまったわ」


 嫌味ったらしい独り言を周りに聞こえるように言い放つ。


「はー…今日の収穫はこの身体か…」


 そこまで言ったところで突如声が途切れた。


「…?」


 それに違和感を覚えたラファエルは、顔を上げてそちらに目をやる。するとそこには、衝撃的な光景が広がっていた。まるで深海に沈められた物体のように身体がぐちゃぐちゃにひしゃげてグロテスクな姿に変わったDr.ノイゲルの姿。そして、視線を移した先には、相変わらず地面に張り付くナレスと、微かに光る耳飾りが。


「この…耳飾りは…魔力を直接操れる…これなら重力の外にある空気にも…干渉ができるでしょう?」


 戦闘の最中、敵を確実に仕留めるまで視線を外してはならない。しかし、戦闘をまともに経験していないDr.ノイゲルとラファエルはその当たり前が身についていなかった。

 息の根を止められていないのはナレスだけでなく霊華もそうだった。


(いっ…たいなぁ…乱暴に殴りやがって)


 霊華は、ラファエルに殴られてから気絶してしまい、今まで動けずにいた。痛む頬を庇いながら起き上がる。すると、無防備に立っているラファエルの姿が目に入った。


「へへっ…チャンス到来だ…」


 この機会を逃せば次いつやって来るかわからない。残りの炎は僅かであるが、今なら脚力だけでも届くかもしれない。

 足元から妖術を行使し、地面を静かに凍らせる。


「よし…これで滑って高速で切りつけることができる」


 足に氷を纏い、体勢を低くして空気抵抗を無くす。その姿はさながら、スピードスケーターのようだった。勢いよく地面を蹴り飛ばす。すると、少ない摩擦のお陰でスルスルと初速を落とさずに滑り出す。更に地面を蹴り加速してラファエルに肉薄する。


「『桜火乱舞・氷桜(こおりざくら)』」


 横薙ぎの一閃を放とうとする。しかし、ラファエルは我に返っており、すかさず正拳突きを放つ。斬撃と打撃が交わるかと思われたが、霊華はドリフトのように横滑りして軌道を変え、攻撃を避けながらすれ違いざまに脇腹を切り裂いた。切り口はみるみるうちに凍りつく。


「こざかしい!」


 しかし、それを気にも留めずに闇魔法の巨大な球体を作り出した。そして、それと同時にしまったとでも言いたげな表情に顔を歪めた。


「へっへっへ。待ってたぜこの瞬間(とき)をよぉ!」


 魔力で生み出された物体。それは、霊華にとって絶好の燃料である。蝋燭の灯火の如し小さな火球は、闇魔法に触れた瞬間に一瞬で全体を包み込んで巨大な火球へと変貌する。霊華は炎を操り、圧縮して手のひらで握り締めてしまった。


「充電完了。威力マックス。『桜火炎魔法・春一番』」


 腕を突き出して手のひらを前に向けると、圧縮された炎が突風のように吹き抜け、ラファエルを一瞬にして覆い隠してしまった。


「…ざまぁねえな」


 炎で隠れて見えないラファエルに、霊華はそう吐き捨てたのだった。

 読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字などがありましたら教えて頂ければ幸いです。

評価や感想などもお待ちしてます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ