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全テをハ壊スル者  作者: 南十字
四章 邪神の力の解放
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八十四話 あぁ愛しの愛娘

 先の見えない暗い通路を歩くナレスと霊華。人の気配はせず、危険な様には見えない。しかし、瞬きをした一瞬でそこに居なかった筈の異物が現れる。黒いローブを着た長身の男。一見普通の人間だが、腰の辺りからカラスのような真っ黒な翼が一対チラリと見える。


「お前はあの谷間の街で見た男か」


 過去の死闘、その原因となった怨敵を前に思わず気持ちが昂る。


「神の真似事をしている貴様等には常々思うところがあった。この世界を創造せし父を敬わず、与えられた力で英雄気取り。虫唾が走る」


「あ?何寝言言ってるんだお前は。俺の力は俺自身の力だ。それに、英雄を神聖視するのはなんら変なことじゃねぇし、嫉妬も嫉妬、甚だしい」


 この前の仕返しと言わんばかりに煽りの文句を浴びせると、男はまるでいじけたように片膝をついてしまった。


「なんだよ。もう降参か?お父さんに泣きついて来たらどうだよ」


 霊華の煽りは止まることなく口から滑り落ちる。隣にいるナレスもドン引きするほどのマシンガン口撃である。

 突然、男の雰囲気が急変する。手のひらを地面にしっかりとつけ魔力を発する。


「っ!!」


 危うい雰囲気を感じ取った二人は、敵の目論見を阻止すべく地面を蹴って足を踏み出した。筈だった。大きく踏み出された一歩が地面を捉える直前、地面に紫色の光が敵を中心に放射状に広がった。その光が明滅したかと思えば、地面だけでなく辺りを取り囲む一切が砕けて瓦礫と化す。


「策にハマった愚鈍な醜女が」


「っ!!」


 三人は重力に囚われて自由落下する。そんな状況でも相手から目を離さず、常に変化する状況を見つめる。


「逃しません!『風魔法・ウィンドカッター』」


 ナレスは魔力剣を大きく振って鎌鼬を放った。空気を歪ませる凶刃は瓦礫をすり抜けて首元へと迫る。しかし、当たる寸前で敵が黒い霧になって掻き消えてしまい、目標を失った刃は形を保てずに霧散した。


「例え不意打ちだろうと」


 唖然とするナレスの背後からあの男の声が聞こえた。振り返りざまに刃を振るうが手応えは微塵も無い。


「私に攻撃が当たることは無い」


 かと思えば足元から声が聞こえる。


「父に最も愛された私はいずれ神に身を重ねる」


 声がすれど、気配があれど、視線を移せば何も無かったかのように消え、別の死角からゆらりと現れる。


「我が名はラファエル。天使にして神の右腕」


 男は自分の名を堂々と名乗る。それは、いつでも殺すことができるという暗示だろうか。

 弄ばれているうちに、気がつけば地面が間近に迫っていた。


「っ!!」


 咄嗟に風魔法で威力を殺して安全に着地する。


「いつの間に…」


 なんて長い距離を落下したのだろうかとおずおずと上を見上げると、ほんの二十メートルしか無い位置に今まで居た通路の断面が見えた。


(落下時間を長いと錯覚していた…!?)


 自らの感覚と距離のイメージとのズレに混乱するが、今はそれどころでは無いと首を振って顔を上げる。

 霊華は炎を纏い、臨戦体勢を崩さない。その視線の先には、斜めに交差する二本の黒い物体に拘束された少年と、砕けた巨大な結晶を感慨深そうに眺める白衣の老人がいた。


「最後の猶予だ。Dr.ノイゲル、手柄を立てろ」


 ラファエルはそれだけ言うと、闇に溶けるように消えていった。

 一方、Dr.ノイゲルは後ろで手を組み、大袈裟に足を上げて歩く。そして、これまた大袈裟に白衣を翻す。


「科学とは、人類にのみ与えられた境地である」


 空間に響く声は自信の前触れか、快活で堂々としている。長くなりそうな演説を予感した霊華とナレスは、短期決戦と言わんばかりに二人して物凄いスピードで肉薄する。


「『桜火乱舞・死桜一閃』!」


「『風魔法・風の導き(ブラストダッシュ)』」


 二方向からの鋭い攻撃、過剰なまでもの攻撃力は容易に命を刈り取る事ができる。しかし、目の前に突然現れた影にそれは阻止されてしまった。


「よくやった。我が娘!」


 影の正体は儚げな少女であり、両腕で二人の攻撃を防いでいた。ただ、女神である霊華と、B級冒険者の中でも上澄みのナレスの一閃を前には、無力である。細い葦のような腕は豆腐の如く刈り取られ、勢い余って胴体も泣き別れになってしまった。

 グシャリと湿っぽい音で肉塊が地に落ちる。目の前で愛娘が亡くなった状況であるが、気に留める姿を微塵も見せずにお手製の銃のような魔道具をぶっ放す。


「ンフフフフ…!我が発明をとくと味わえ!」


「っぶねぇ!?」


 霊華は咄嗟に身体を捻って攻撃を避け、体勢を立て直して攻撃に転じる。その瞬間、頭の中に危険の二文字が浮かぶ。顔が正面を向いた瞬間、視界いっぱいに岩石が映ったのだ。


「女神様!!」


 岩石に吹き飛ばされる霊華の身を案じて声を張り上げるナレスだが、奇襲を受けて自分の身を守らねばならなくなってしまう。迫り来る礫の数々を魔法と剣を使って受け流していく。魔法を行使する敵の正体を、礫に阻まれながらもなんとか視認する。途端にナレスの表情は驚愕の感情を孕んだものとなる。


「そんな…なぜ!?」


 敵の正体、それはDr.ノイゲルでもラファエルでも、新たな刺客でもない。なんと、()()()()()()はずのあの()()だったのだ。


「……」


 少女は口を固く閉ざしたまま()()()()()岩石を操って礫を連射し、苛烈な攻撃を見舞わせる。


「くっ!何が何だか…!」


 吹き飛ばされた女神の安否、死んだはずの少女、天使と名乗る男、狂気的なサイエンティスト、それら雑念が頭の中で思考を邪魔する。それと同時に苛烈な攻撃を捌かなければならず、なかなかストレスが溜まる。


「もう洒落臭い!全て吹き飛びなさい!『風魔法・トルネード』!」


 身体を一回転させながら剣を振るうと、ナレスを中心に風が渦を巻き、刃のような風が周囲の一切を蹂躙する。例え素早かろうとも、これでは逃げる場所がない。防いでいたとしても、身動きができないだろう。

 ナレスは今のうちにと言わんばかりに霊華の救護を急ぐ。


「女神様!大丈夫ですか!」


 瓦礫をどけてみると、だるそうに天を仰ぐ女神の姿があった。ひとまず安心そうだと息を吐き、回復魔法を行使する。


「初級も初級なのであまり当てになりませんよ。癒しの精霊よ、ささやかな命の息吹を分け与えたまへ『治癒魔法・ヒール』」


 長い詠唱を終えて淡い緑色の光が灯る。神殿で見た高度な治癒魔法と比べれば、電球を前にした蝋燭のように微かで儚い存在である。しかし、緊急時であれば心強い存在に昇華する。


「ありがとう。痛みが引いた」


 まだ傷はあるが出血は完全に止まり、ひどい打撲も痛みがすぅっと引いて好調である。


「それにしてもあの攻撃は誰がやったんだ?」


「あれは、私たちが切り裂いた筈の少女が発動した物です」


「え?」


 まさかの正体に思わず気の抜けた声が漏れる。


「疑うのも当然ですが、私はハッキリと見ました。身体はすっかり綺麗に治っていましたが、着ている服が十字に切れています」


「それなら疑いようがないか…?」


 渋々納得した時、不意に竜巻の中から巨大な炎が飛んできた。


「「っ!!」」


 霊華が咄嗟に炎を両断すると、ナレスはすぐさま竜巻を消し、視界を確保する。どうやら岩を操ってシェルターを創り、竜巻から身を守ったようである。


「よくやった!我が娘よぉ!」


 Dr.ノイゲルは娘の作ったシェルターからひょっこり出てくると、娘の頭を鷲掴みにし、乱暴に撫で始めた。


「おい…!そんなに撫でると…」


 霊華がそう言おうとした時、撫でられている少女の髪の毛がプチプチと抜かれ、頭皮から真っ赤な血が滲み出る。


「よしよし!よしよし!」


 まるで犬でも撫でるかのように手を動かす。そして、動かすたびに指が肉にめり込み生々しい音を奏でる。


「愛してるぞ我が娘ー!」


 少し落ち着いたのか、手についた血や髪の毛を少女の服に擦りつけて拭う。なんとも鬼畜な行為に二人はドン引きを通り越して怒りすら湧いてくる。


「No.0、ドータよ。敵を倒しなさい。褒美を与えるよ」


 少女をドータと呼び、敵を指差してそう伝える。最後にドータを強く突き飛ばし、自分はシェルターに隠れて安全地帯から傍観するようだ。


「……」


 突き飛ばされて転倒してしまったドータはむくりと立ち上がると、気がつけば傷ついた身体が完治し艶やかな頭髪が風になびく。


「実験番号0番、愛娘(ドータ)参ります」


 初めて口を開いたと思えば、無機質で抑揚のない声でそう呟く。手のひらを前に出し、岩を操って眼前に浮かす。静止した岩石は少しすると端から溶解し、マグマに変化した。


「『溶岩魔法・溶岩石』」


 溶岩は熱気と質量を伴い、高速で射出されて敵をめがけて突き進む。溶岩の速度はそこそこなので霊華が炎を纏った刀で切断する。


「この程度で俺を殺せるとでも…っ!」


 余裕そうな霊華だったが、切った溶岩が慣性を失わずに自分の方に飛んでくる。脊髄反射で身体を捩るが、避け切れずに高温の溶岩が右腕にどろりと絡みつく。肉は焼け焦げ、あまりの高温に発火してしまう。


「う…うぁぁぁ!!」


 骨まで焼ける地獄のような激痛に絶叫する。粘度の高い溶岩は腕を振っても完全に取れることは無く、逃れられない現実に絶望すら感じる。


「女神様!二発目が来ます!」


 追い討ちと言わんばかりに同じような溶岩が飛んでくる。よろけるようにしてなんとか避けるが、三発、四発としつこく攻撃してくる。


「許してください!女神様!『風魔法・妖精の囁き(シルフィーウィプス)』」


 動きの鈍い霊華を退避させるため、ナレスは突風を放ち霊華を突き飛ばした。そのおかげで無事に弾幕から逃れた霊華は、炭化したら右腕を庇いながら瓦礫の後ろに身を隠した。


「くっ…そが!」


 微塵も動かない腕に苛立ちを覚えながら、膝の少し上に刀を押し当てる。


「動かねえなら…要らねえ!」


 刀を押し込むと、肉が裂かれるのを感じる。


「うおぉぉぉ!!」


 咆哮と共に刃を滑らすと、骨まで綺麗に断ち切り、無事切除が完了した。鋭い刃のおかげか、痛みは想定よりも感じなかった。消毒と止血も兼ねて断面を軽く炎で焼くと、すぐさま炎で腕を型取り、即席の義手を創り出した。


「腕の一本、くれてやる!高く着くぞ小娘が…!」


 片腕の借りを返すべく、女神らしからぬ邪悪な笑みを浮かべた霊華は、豪快に炎を噴き上げるのだった。

 読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字などがありましたら教えて頂ければ幸いです。

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