八十三話 敵地へ突入
大変遅くなりました。
忙しさが一時的に和らぐので投稿頻度戻るかもしれません。
場面変化後を一部訂正しました。「噴火直後」→「噴火前」
木陰に佇む苔むした岩の裏で、アンは一人俯いていてた。友と喧嘩し、無駄なプライドが邪魔をして逃げてしまったがために、今更自責の念に苛まれる。後悔先に立たず。アンはこれまでも似たような経験をしていた。
(なんでいつもこうなるんだろう…無鉄砲でガサツで、後先考えずに行動してして…)
まだアンが幼かった頃、親の言いつけを守らずに、好奇心の導くままに外に出てしまった時も、藤也と女神の下で授業していた頃、カッとなって口論になってしまった時も、そして、ここ最近の行動も、結局は自分本位が招いた結果である事をアンは気づいていた。
(…でも今更性格は変えられない…ここまで来たなら結果を持ち帰らないとダメよね…!)
持ち前の楽観的思考がここで働いてしまったアンは、拳を握って遠くを見据えた。
「人探しをするなら高い所と相場は決まってるわ!取り敢えずあの高い山に…」
そう考えた瞬間、その山の頂上が爆発し、巨大な黒煙と共に真っ赤な溶岩を吹き出した。
「きゃぁ!何…?」
一足遅れてやってきた轟音に肩を怯ませ、ショックのあまり真っ白になった頭でなんとなく噴火している事実を認識する。
脳が意識と思考の手綱を握り戻す直前、アンの足元に小さな亀裂が走る。かと思えば、亀裂から光が漏れ出し、超高温の溶岩が吹き出した。
「!?あの山の溶岩!何キロ離れてると思ってるのよ!」
慌てて避けると同時に返事の無い大地に向かって今までの苛立ちをぶつける。魔法を用いて石柱を伸ばし、高台から周囲を見下ろすと、火山を中心に地割れが放射状に広がり、遥か地平の彼方まで被害が及んでいることが伺える。
未曾有の天変地異は唐突に大陸の人々の命を脅かすこととなる。麓の町村は超高温の火砕流によって灰燼に帰し、大陸の端端まで走る亀裂から溢れた溶岩により森林は焼け、この世は地獄と化した。
みるみるうちに血の気が引き真っ青な顔になったアンは、仲間と合流するために片道を走って引き返した。もしかしたらあの宿屋に被害が及んでいるかもしれない。そんな一心で、噴石が降り注ぐ中必死に駆け抜けるのだった。
――――――――――――――――――――――
場面は変わり、噴火前へと遡る。天使に捕縛された少年は、昼も夜もわからずに長い間呪いの言葉を呟いていた。そんな中、変化は唐突に訪れた。
部屋を揺らす程の轟音が外で響いたかと思えば、その数十秒後に地震のような地響きが全てを揺らす。
「なな…!なにご何事だぁ!」
「慌てるな。水晶を見ろ」
同じ部屋で機械をいじっていたDr.ノイゲルは慌てて辺りを見回すが、ラファエルがそれを嗜め水晶を指さす。女神を監視している水晶は、大きな衝撃があったのか画面が荒れて砂嵐のようになっている。それが次第に鎮まると、噴煙に満たされた映像が映った。
「ここ、これじゃわからないぃ、わからないじゃないか!」
Dr.ノイゲルは机を叩いて憤るが、ラファエルは腕を組んで静かに水晶を見守っている。少年は捕えられた状況で、遠くから水晶を覗き込む。
噴煙が薄くなり、朧げながら風景が露わとなる。そこには、黒焦げになった敵の首を掴んで持ち上げている女神の姿があった。そして、その背景にはこぢんまりとした石作りの小屋が映っていた。
「な…っ!」
思わず絶句するDr.ノイゲル。ラファエルも心なしか驚いているように見える。なぜならば、その小屋の正体が、他の何物でもない、彼らの本拠地であるからだ。
「貴様!報告はどうなってるんだ!」
「そそ、そんなことをいわ、言われても実験体からの報告は一つも…」
そう言いながらそれぞれを管理している魔道具を操作すると、また顔を強張らせて絶句した。
「そそ、そんな!わた私の可愛いじっ実験体達が報告する間も無くきょ、強襲されてこわ壊されている!?」
「チィッ!これならば愚かな人間に任せ無ければ良かった」
ラファエルは苛立ちを隠そうとせずに椅子を蹴り飛ばし、Dr.ノイゲルに魔法を放とうとする。Dr.ノイゲルは、この状況でまるで焦った様子も無く、ただ悔しそうに歯軋りをしてから口を開いた。
「少し私にチャンスをくれないか。最強の我が子を放つ」
「……」
ラファエルは冷徹な瞳を向けるが、相手は一切立ち下がらない。とうとう根負けしたのか、魔力を抑えて手を下ろし、踵を返して歩き去る。そして、去り際に一言ポツリと溢した。
「最後のチャンスだ。勿論、器を完成させる手筈も整えておけ」
「……」
張り付くような空気の中、Dr.ノイゲルは大きな水晶のような物を見上げる。そこには、裸で丸まって眠る少女が幽閉されていた。
「あぁ…愛しの我が子よ…」
不穏な言葉を呟き、袂の魔導板に手を触れる。直後、少女を包む水晶が輝き、光が部屋を包み込むのだった。
――――――――――――――――――――――
十数人もの刺客を返り討ちにして敵の本陣に到達した霊華とナレスは、質素な石造りの小屋に侵入した。内部は坑道のようになっており、人一人が歩けるような狭い空間だった。かと思えば、すぐに大きな空間に出て、吸い込まれるような長さの大きな階段が出迎えてくれた。
「この先に居る…」
暗闇に蠢くヘドロのような悪意に身震いをしながら慎重に歩を進める。
「っ!!」
「地震?」
少しすると、謎の小刻みな振動を感じた。二人は警戒心を高めて耳を澄ませると、どうやら振動が近づいているようである。
「奇襲だ!走れ!」
閉所空間での奇襲は致死性が高く、地面が振動していることから地中を掘り進んでいることがわかる。階段を滑り落ちるかのように駆け降りる二人だが、振動はますます強くなり、唐突に壁が砕けて霊華が消えた。
「女神様!!」
咄嗟に魔法剣で切り付けるが、一瞬遅く通り過ぎてしまい、斜めの天井に斬撃の跡を残すだけの虚しいものだった。
「そんな…」
女神を連れ去った何かが掘ったトンネルを覗き込むが、壁面が滑らかに削り取られており、相当鋭いもので掘り進んでいるのがわかる。
「一人でいけるのか…」
心強い味方を失い、すっかり意気消沈のナレスは暫く放心状態でトンネルを見ていた。すると、何となくトンネルの奥が明るい気がする。目を細めてよく見ると、その明かりはこっちに迫ってきているようだった。色はオレンジで、微かに熱気を感じる。
「まずい!」
悪い予感を感じたナレスは、咄嗟に風魔法で階段を勢いよく下り降りた。ぐんぐんと下に降り、いつの間にか階段は途切れて通路が見えてきた。しかし、ここで止まってはいけない。ナレスの予想が正しければ、背後では超高温の爆炎が雪崩のように駆け降りているだろう。しかし、行手を厳重な扉が阻む。
「ちっ!」
咄嗟に振り返りながらバックステップで背後に跳ぶと同時に、手のひらを伸ばして魔力を込める。
「大地を吹き荒ぶ威風よ。堂々と吹き抜けたるは明日の道…!」
詠唱も重ねて高威力の魔法を放つ準備をしたが、発動の直前に突如として炎が消えた。それは比喩的表現では無く、まるで蝋燭の炎が吹き消されたかのように唐突にゆらめいて消えてしまった。唖然としていたナレスだったが、なんと無く原因がわかり、理不尽な現状に怒りを露わにする。
「なんなのだあの女神は!轢かれたかと思ったら後先考えずに高威力の炎放つ。かと思えばあの規模の炎を一瞬でかき消す。魔物の方がまだ優しいまである!!」
そう憤っていると、消えた炎の代わりに霊華がふわりと舞い降りた。
「すまないね。理不尽で」
ハハハと軽く笑い流してナレスの肩を通り過ぎざまに撫でる。呆れたナレスは何も言わずに顔をおどけさせて後ろについていく。
行手を阻む分厚い扉は、この世界に似つかわしく無いキーパッドのようなものをこさえており、さながらSFのような様相をしている。
「困った…コレじゃ先に進めない…」
霊華はワザとらしくそういうと、腰に差している愛刀に手をかける。
「いくぜ。利刀・春風。『臨界』」
全身から炎が溢れたかと思えば、鯉口を切った鞘の中に吸い込まれる様に消える。次第に刀がカタカタと震えだし、煌々とした輝きを放ち出す。
「『桜火乱舞・薄墨』」
抜刀と共に放った横薙ぎの一閃。太陽と見紛うほどの極光に包まれ、一時的に視界不良となる。数秒して視力が回復すると、目の前にあったはずの扉がフレームごと融解し、液体となった金属が床に広がっていた。
「よし。コレで通れるようになったな」
「あまりに滅茶苦茶で笑えてくる…そのマスターキー、後で貸してくださいよ」
「いいね。面白い」
二人は軽口を叩きながら、怨敵との決戦前とは思えない雰囲気で進むのだった。
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