八十一話 対抗するための力
勝利の後には褒美が付きものである。遺跡の試練に勝利したナレスは、黄金の腕輪が嵌め込まれた台座に近寄った。
「これは…!」
黄金の腕輪に青白い魔法文字が浮かび上がり、微かに光を放っている。直後、腕輪から魔力が放たれ、そよ風の様に光が流れ出した。慌てて光の向かう方向に駆けつけると、周りにある装飾品と同じような黄金の像が手をこちらに掲げるようにのばしてあった。ふと、その手に触れると、カチリという音と共に手がぶらりと下に下がった。それと共に像の台座の前面が塵のようにハラハラと風になって消え、隠し部屋へ続く階段が現れた。どうやら、この像の腕は隠し部屋への扉を開くレバーの役割をしていたようである。
階段を慎重に降ると、先程まで居た空間とは対照的な暗い暗い不気味な部屋だった。真ん中には同じように台座が設置されており、今度は黄金の腕輪ではなく白金の耳飾りが一対鎮座していた。
手に取って見てみると、平行四辺形の土台に鳥の羽を抽象化したような意匠が施されている。また、斜めに一本エメラルドグリーンの魔石が細長く削られて嵌め込まれている。
「ふふ…粋な装飾だな」
フッと微笑み、丁寧に両耳に付ける。すると、閉鎖空間にも関わらずどこからともなくそよ風が吹き抜け、目の前で渦を巻いて魔力が糸を編み出した。
みるみるうちに魔力が回復し、内包する魔力の限界量がグング上昇している心地よい感覚に包まれる。また、自分の意思とは関係なく魔力が引き出され、身体の周りを歪んだ空気が渦を巻く。
「これは…魔力が身体の一部みたいに自由に動かせる!」
手足を動かすが如くタイムラグ無しに動かせる空気の塊を見てナレスは歓喜の声をあげる。例え身体を動かさずとも、空気の刃が辺りの障害を切り裂き、風がその破片を運んでくる。そよ風と共に流れてきた石の破片を手のひらに乗せると、軽く頭上に放り投げた後、高密度にまで圧縮させた空気を一気に破片にぶつけた。すると破片は超速で天井に衝突し、砂塵となって消滅した。
「この力があれば強敵にも遅れは取らない!手始めにここから地上に出てやる!」
そう言いながら右手を開いて手のひらに空気を圧縮させる。圧力が下がった辺りの空気はすぐに調和を取り戻そうと遺跡の内部から空気を集め、それが突風となってナレスの居る小部屋に流れ込んでくる。しかし、空気は片っ端から手のひらに圧縮されるため、いつまで経っても気圧は変わらないままである。そうして数分そのままでいると、手のひらの上の超高圧の空気が光を屈折させて乱反射して見えた。直後、ナレスは手のひらを天井に向けて伸ばしたと同時に超圧の空気は上方向に指向性を待たされて天井を穿った。
その頃、ナレスの真上の地上では、動植物達がいつもと変わらない日常を送っていた。その日常は、地面の揺れと共に非日常へと一変した。巨大な砂柱が岩盤を穿ったと思えば一拍遅れて地面に亀裂が走り、亀裂から更に砂が舞い上がって陥没を始めた。木々は根を断ち切られて倒れ、空を舞う鳥は突風に吹き上げられて遥か彼方に消えてしまう。それなりの時間が経過して風が吹きやんだ頃、地表は陥没した穴を中心に、まるで風に吹かれて頭を垂れる稲穂のように木々が葉を垂らしていた。砂埃は空気を霞ませて粉っぽくなっている。そんな中、ナレスは自身が創り出した穴から優雅に浮遊して現れる。これにて、遺跡の攻略が完了した。
ナレスが生み出した巨大な揺れは地盤を通して各所に伝播し、近くを走る霊華は不自然な揺れを察知した。
「なんだこの揺れは?地震とは少し違う様な…」
もしかしたら敵かもしれないので、奇襲されるくらいなら先制攻撃を仕掛けようと様子を確認するべく、震源地へと歩を進める。
「これは…たまげたな」
目に映るのは途方もないほど深く、ドラゴンすら落ちてしまいそうな大きな穴。その上空には、翡翠色の魔力をなびかせた優雅なナレスの姿があった。
(あいつは神のところに居た女か。手先って訳でも無さそうだが…油断はできねえな)
霊華は手始めに火球を創り出して上空へ向けて放つ。決してナレスには当てず、横で花火のような爆発を起こして自分の存在を察知させてやるのだ。
「っ!!」
案の定、ナレスは地上を見下ろして霊華の存在を知る。直後、女神と言う存在に怖気付いたのか、みるみるうちに魔力が萎みフラフラと降りてきた。
「め…女神様、お久しぶりです」
「ああ、久しぶり。あの器の少年はどこに?」
少年の所在を聞いた瞬間、ナレスの顔に怒りが浮かび上がり、身体にこめる力が強くなったのを気配で察知した。それである程度察した霊華は、ナレスの手をそっと取り優しく包み込む。
「なあ、俺らの敵は同じと思わないか?」
「な…何がですか」
「なに、そう警戒するな。実はな、お前らと別れた後に邪神教の奴らと一悶着あって、今喧嘩を買いに行くところなんだよ」
そう言うと霊華は人差し指と親指を立てて指先に炎を生み出し、木陰に向かって火炎弾を放った。すると、木陰から『ぎゃぁっ』と言う悲鳴があがり、怪しいローブの男が飛び出して地面にのたうち回る。
「まさかつけられていたのか!」
「御名答。お前も警戒対象だったみたいだな」
男は火のついたローブを脱ぎ捨てて自らに回復魔法をかけると、懐からナイフを取り出してすぐさま臨戦体制となる。
『俺を見つけたとはなかなか警戒心の高い女だ!だがな、俺には魔物を呼び寄せる魔笛があるんだよ』
ニヤリと笑う男はなんの変哲もない小さな笛を取り出し、口に咥えてピィッと甲高い音を鳴らした。
『これでお役御免だ。さらば』
清々しい表情の彼はナイフを逆手に持ち、なんの躊躇もなく自らの腹に突き立てた。そして、柄に仕込んでいた魔法を起動させて派手な爆発と共に散った。爆炎が辺りを包むが、二人はノールックで魔法を展開し、何事もなかったかのように振る舞う。
「あいつの遺言だと魔物の群れが来るみたいだな」
「えぇ、周辺には大きな街もあります。私達で処理しましょう」
すると、案の定地響きと共に魔物の集団が四方八方から笛の鳴った座標に集合し始めた。身体が触れ合い、ぶつかり、己が傷付こうが気にすることなく何かに取り憑かれたかのように一心不乱に走る彼ら。弱小なゴブリンや、醜いオークなどをはじめ、中にはB級冒険者が任されるようなオーガやワイバーンもちらほら混じっている。これ程の数となると、A級のエリート冒険者であれども骨が折れる戦いになるだろう。
「俺の炎は魔力を燃やす。合わせてくれよ」
「今の私の魔力は無尽蔵ですから、任せてください」
霊華とナレスは背中を向け合い、互いに片手を前に突き出して魔力をこめる。ナレスは遺跡で得た装備のお陰で魔力効率、魔力量が大幅に上がり、更に空気中から魔力を集めて自身のものに変換できるようになった。早速大気中の魔力を集めて魔法を紡ぐ。耳飾りがボンヤリと輝くと、翡翠色に変化した魔力が耳飾り本体に吸い込まれナレスの首を伝って腕へ注がれる。
先に攻撃をしたのは霊華だった。
「燃え盛れ。『紅月』」
今まで蓄えてきた敵の魔力を糧に生み出された炎が集い、人の背丈を優に超える火球が創られる。単純な熱量をもったそれは、地面を溶解させながら魔物たちに向かって突き進む。
「『大地を吹き荒ぶ威風よ。堂々と吹き抜けたるは明日の道。我が道を切り開け。『風魔法・威風堂々』」
直後、炎の塊の背中を押すように、大地を削る業風が吹き荒ぶ。紅月と混じり合った風は、炎の渦となって辺りを灰燼へと変えたのだった。
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負傷して療養に勤しむ藤也は数日前までまともに歩けなかったのだが、脅威の速度で傷が癒ており痛みはあるものの骨はもう癒着し始めている。大きく切られた肺の部分も外見はすっかり治りかけ、痛々しい傷跡ではあるがもう安定して血も出ることは無い。
人間とは思えない治癒速度に、竜人であるテティスですらも驚きの表情を浮かべていた。
「俺ら竜人族も肉体の治癒速度は早い。ポッキリ折れた骨も一月で治っちまう。だがなぁ…お前はあの状態か今日で何日だ?例え一月だとしても、粉々になった骨すらあって肺まで裂けているのにもう歩けるだなんて…」
「俺も驚いてますよ!痛みはあれど引きずって歩けるようになるなんて、化け物ですか?俺は!」
こっちが聴きてえよ。とでも言いたげな表情でため息を吐くテティス。そんな彼らの背後に、一人の少女が立っていた。いつ現れたかもわからないその少女は、歴戦の竜人すら気配を感じ取れていない程存在感が無い。
「ねぇ。あなたたち」
その一言で二人は肩を震わせて驚き、警戒心を露わにして振り返った。藤也の目に飛び込んできたのは狐の耳の可憐な少女。それは、あの月夜に見たシルエットそのままの姿形であった。
「その身体、治してあげるわぁ」
妙にのんびりした声で、想定外の言葉が放たれる。しかし、妖艶な笑みを浮かべる少女の瞳は真剣そのものだった。
大変遅くなってしまい、申し訳ございません。この一年は人生の大きな転換期であり、小説を執筆する暇が無い事が多々あります。冬頃までこのような事が続くかもしれません。何卒ご理解をお願いします。
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