八話 暴走
河川敷に広がる沢山の積み荷。
しかし、リアはうわの空で作業も続かない。
少し肌寒いが、それも気にならない程のリアを、ニルは傍で作業をしながらも心配そうな表情で見つめる。
(リアちゃん…あれからずっとうわの空で…)
ただ、ずっとうわの空でいられると作業も進まないので、度々声をかけるのだが、それでもすぐにぼーっとしてしまう。
グラッドもあれから病んでしまい、酒に逃げているせいで作業もかなり進みが遅くなってしまっている。
(よし!ここは、ビシッと言わなくちゃ!)
ふんすと気合いを入れて、リアを注意しに行くニア。
「ねぇ、リアちゃん…」
その時、突然スラムの方から何か邪悪な気配が放たれる。
ニアはその方向に振り返る。
一見何の変哲も無いが、明らかに凄まじい重圧が感じられる。
辺りの作業員もその気配を感じた様で、手を止めてその方向を向いている。
「ヤバいよね…リアちゃん…」
ニアがリアの方を向くと、そこには誰もいない。
ハッとし、周りを探そうと見回すと、その気配に向かって走るリアの姿があった。
「ちょっと!リアちゃん!?」
全速力で走るリアをニアが追いかける。
リアは普段の雰囲気や体つきからは考えられない程のスピードで、その力がどこから出ているのかわからない程の速さだ。
リアは曲がり角を曲がり、路地に入り、通りに出る。
まるでその場所がハッキリとわかっているかの様にひたすら走るので、ニアはその姿を見失ってしまう。
「ちょ…どこいったの…」
ゼェハァと息を上げながらリアの行った道を見る。
ある程度呼吸が整い、いざ一歩を踏み出そうとした時、進行方向から悲鳴が響いてきた。
「!!リアさん!」
急いで現場に駆けつける。
「…!」
通りから路地裏に入るとそこには、立ちすくむリアと禍々しいオーラを辺りに撒き散らす塊があった。
その塊の周囲には抉れた建物があり、今もなおその建物を蝕んでゆく。
あまりの衝撃に唖然としていると、黒いオーラの隙間から騒ぎを聞きつけた兵士達が見えた。
その兵士達の中に、煌びやかな鎧を身につけた騎士、ネールナルが剣を振り上げる。
剣には氷の礫を巻き込んだ小さな竜巻が纏われている。
「ウィンド•アイスカッター」
振るわれた剣から、氷の礫を巻き込んだ凍てつく斬撃が放たれる。
しかし、その魔法はオーラに触れた瞬間に破壊されてしまった。
「なッ!?」
ネールナルは魔法が破壊されて消えてしまった事に驚愕するが、すぐに取り乱した心を落ち着けて破壊の奔流に向き直る。
ネールナルが剣を振るい、魔法をひたすら放つ。
しかし、そのどれもが破壊されてチリも残さずに消えてしまった。
「仕方がない!フリード•ウィンド!」
ネールナルがより一層力強く剣を振るうと、氷を巻き込んだ旋風が放たれる。
その旋風は氷で地面を削りながら破壊の奔流に向かって進む。
まるで渦の様な破壊の奔流と、氷の旋風がぶつかる。
二つは、一見拮抗したかの様に見えた。
しかし、その直後に氷の旋風が破壊の奔流に飲み込まれ始める。
旋風が破壊の奔流と置き換わり、次第に旋風は小さくなって消えてしまった。
ソレを見た兵士はざわめく。
自分達よりも強いネールナルの魔法が呆気なく飲み込まれ、未だに大きくなる破壊の奔流は、明らかな脅威として兵士達に恐怖を覚えさせる。
「う、うわぁぁぁ!」
すると、一人の兵士が発狂したかの様に叫びながら破壊の奔流に突撃する。
「やめろ!」
ネールナルが制止するが、彼は止まらずに破壊されてしまった。
彼が何を考えていたのかは見当もつかない。
本当に気が狂ったのか、一人英雄になろうとしたのかはわからないが、唯一言えることは、彼のお陰でより破壊の奔流の恐ろしさが兵士に伝わった事だ。
兵士達は怖気付き、カタカタと鎧が鳴る。
「俺は…無理だ…」
一人の兵士がふと、呟いた。
「俺も…」
「俺もだ…」
俺も俺もと、兵士達が賛同し始める。
そして、最初に弱音を吐いた兵士が後退りして逃げ始める。
それにつられて他の兵士も逃げ、気がつけば誰も居なくなってしまった。
ネールナルは唖然として兵士達の後ろ姿を眺める。
昔、この国シュルルーシは、強者が絶対の実力主義国家だった。
強ければ許される。弱いのが悪いと言う歪んだ思想の元に立ったこの国は、確かに兵士達の実力も高かった。
しかし、ある時代の国王が改革を行なった為、この国は平和なごく普通の国となった。
しかし、そのせいで兵士の実力は下がり、争いの経験も無い弱者が増えてしまった。
そんな兵士達はもう見えなくなり、ただ一人残るネールナルだった。
ネールナルは軟弱な兵士達に憤りながらも、今目の前にあるものをどうにかしようと向き直る。
何か弱点は無いかと隅の隅まで眺めていると、流れと流れの隙間から二人の少女、ニアとリアが見えた。
二人は破壊の奔流の前で立ち尽くしていたが、突然、リアが奔流に向かって叫んだ。
「ディース!貴方居るのでしょう!」
ソレを聞いたニアとネールナルは呆気に取られる。
何故今関係の無い少年の名を叫ぶのか、彼がこんなこと出来ないだろうと。
だが、リアはただひたすらに呼びかけ続ける。
「何故こんな事をしているの!?グラッドは?彼に何かあったの?」
すると、徐々に広がっていた破壊の奔流の成長が止まった。
「!膨張が止まった!?」
ネールナルはその事に驚愕する。
本当に少年は居るのか、と言う考えが頭に浮かぶ。
ネールナルとニアは傍観が最善だと考え、万が一の時に行動に移せる様に身構えて見守る。
破壊の奔流は何か葛藤をする様に鼓動の様な動きをしていた。
「ディース、貴方が居ないとミュアは泣いてしまうわ。貴方まで壊れないで」
子供を諭す様に優しく、しかしハッキリと少年に語りかけるリア。
「貴方は、私が守る。だから貴方は何も不安に思わないでいいの。貴方は悪くない」
その瞬間、破壊の奔流が風船の様に弾けた。
中から現れた少年は僅かに笑みを浮かべながらリアの元に歩み寄る。
「ディース…」
「リアさん、ごめんなさい。グラッドは…」
リアは首を横に振る。
そして、少年を抱きしめる。
「いいのよ、あの人がやりたい様にやったならそれでいいの。貴方が無事ならあの人も報われる」
優しい言葉に、少年は静かに嗚咽する。
リアは少年の背中をさすり、慈愛に満ちた表情を見せる。
そんな二人にネールナルが近づく。
「あー…済まない、空気が読めていない事は十分承知だ。だが、それなりの被害を出している」
二人は一先ずネールナルの方を向き、話に耳を傾ける。
「罪になる可能性もある。グラッドさんも居なくなっている。話だけでも聞かせてくれ」
グラッドは少年に手を差し出す。
少年はそれを暫く眺めていたが、静かに両手を差し出す。
「俺は何人か人を殺めてしまった。どんな理由があれど罪は罪。お願いだ」
「いや、裁判は正確に行わなければならない」
そう突っぱねて城へと踵を返す。
少年はその後について行く。
リアは少年の少し後ろを歩く。
残されたニアは少しの間呆然としたのち、ハッと我に帰って後を追いかけた。
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