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全テをハ壊スル者  作者: 南十字
四章 邪神の力の解放
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七十六話 狐のイタズラ

 霊華が教国を出発する三日前、塞ぎ込んでいたナレスは凄惨な姿のヤマールを出発してひたすらに北上していた。

 初めての一人旅。旅とは言うものの、決して心地の良い旅では無い。唯一とも言える心を許した友達(なかま)を奪われ、深い深いトラウマを植え付けられたのだ。それでも尚、あの憎き仇を討つために、勝機となる力を得るために歩き続ける。


(地図によると…ここら辺か?)


 手に持った日焼けした古い地図をまじまじと凝視するナレス。この地図は、まだポートバレーに居た頃、ブランシュの営む本屋で彼女から貰った一冊の本に挟まっていた物だ。


(それにしても彼女は実に不思議な人だった…二百歳と言っていたのも嘘だったろうし)


 そんな考え事をしながら周辺を探していると、不自然に蔦の生えた岩を見つけた。どうやら接地面に空洞ができているらしく、蔦の揺らぎでそのことがわかった。


「ここに…()()がある!!」


 地図を握る手に力が入るのを感じながら蔦を手で退けて内部へと進んだ。

 そして、そんな彼女を木陰から見ていた人物が居た。その者は、手に持つ水晶に魔力を注いで外部との更新を図る。


「本部へ連絡します。警戒中のナレス・デンルーナが例の空洞へ潜り込みました」


 その連絡を聞くのは、邪神教の信者幹部。水晶の明滅が落ち着くと、すぐさまラファエルへと報告に向かう。


「報告いたします。ナレス・デンルーナの尾行をしている者から、彼女が空洞へ侵入したとの報告が入りました」


 それを聞くラファエルは王座で足を組み、高圧的な瞳で幹部を見下ろしていた。ほんの数秒の間の後、ゆっくりと口を開いて命令を下す。


「そのまま尾行を続けろ。対象がアレを手にする直前に奇襲し、隙があればそのまま殺せ。無ければ死ね」


 そのあまりにも雑で意味のわからない命令に報告に来た幹部が困惑の表情を浮かべているが、ラファエルは無表情で沈黙を貫いて変更も説明も無いことを表す。


「最後に、私はこれから器と面会する。ほんの数十分、ここを空けることをよく理解しておけ」


 それだけ言い残して立ち上がり、部屋を後にした。

 向かう先は少年の囚われている部屋。少年は相変わらず四肢を拘束されており、その足元に置かれた机ではDr,ノイゲルが水晶玉を凝視していた。


Dr(ドクター)。貴様の試作品の戦況はどうだ」


「ぉおやぁ、こ、ここれは天使様。わ私の試作試作品は苦戦してるようで、ようです」


 Dr,ノイゲルはひょうきんな話し方をしながら水晶をラファエルの眼前に突きつける。水晶の中では試作品の用いる不可視の風魔法をいとも容易く捌き、燃やし、反撃を重ねてジワジワと相手を削る霊華の姿が映っていた。


「そんなものか?俺を殺すために造られたくせに仕事も果たせないのか!哀れ哀れ」


「き…っ!貴様ァァァ!!」


 霊華の煽りによって試作品の攻撃はより単調に直接的になっている。初めの頃は風魔法を活かして圧死を図ったり窒息を狙ったりしていたのだが、今は突風や鎌鼬、単純な格闘技しか繰り出してこない。二人は激しい攻防を繰り広げていたが、突然互いに距離をとった。


「…ダメね。私ったら。これじゃいつまで経っても倒せない…」


 女は自分に落胆して肩を落とす。頬をつたう血液をゴシゴシと擦り落とし、その手を舐める。その後、懐から両手で隠せる程の長さの棒状の魔道具を取り出した。


「これは私の風魔法を具現化し、不可視の武器を作り上げる魔道具。その形は不定形であり、斬撃か打撃かすらわからない。残りの数分間、十分ギリギリまで全力を尽くすわ」


「そりゃぁ良い。こちとら、さっきの生ぬるい攻防に飽き飽きしていたところだ」


 霊華は変わらず煽りで返すが、流石に乗ってはくれず張り詰めた空気は未だ澄んでいる。

 そんな空気が僅かにブレた。風魔法の攻撃だ。


「フゥッ!」


 霊華は吐息に炎を乗せて攻撃を燃やすと、間髪入れずに走り出す。それは相手も同じで、魔道具を風魔法で長さを伸ばし、手と脇に挟みながら肉薄してきた。

 そのまま片手を曲げて棒を弾き上げる。不可視の攻撃は変わらず厄介で、身体の動きから全体像と軌道を予想して対処せねばならない。更にそれに加えて遠隔で放たれる空気弾や鎌鼬といった魔法攻撃。


「だが、さっきとやってることは変わらないな!」


 横薙ぎに払われた不可視の棒を屈んで避け、その隙を狙う鎌鼬を炎で燃やし尽くす。そうしてできた絶好の隙に左手の拳を握り込み、炎を纏った拳が鳩尾に吸い込まれる。


「無駄よ!」


 それを阻止する為、風魔法の応用で空気圧を極限まで高め、霊華を地面に縛りつけた。まるで深海に居るかのような四方八方からの圧に、霊華の鼓膜は破れ、瞳から血涙が流れ落ちる。


「が…グゥぁ…」


 数トンと言う重さに身体が耐えられず、膝をついて首を垂れてしまう。それを絶好のチャンスと言わんばかりに女は風魔法を行使し、首を掻っ切ろうとした。しかし、それが叶うことは無かった。突如として森の中から炎の狐が飛び出してきて、女の首元に噛みついたからだ。


「な…!」


 首から吹き出す血液は、その傷が致命傷であることを表すかのように大きく空を舞う。すぐさま手で振り払うが、このまさかのアクシデントで霊華の拘束が解けいた。


「そん…な…」


 振り返る最中に見えた霊華の表情は、散る桜を惜しむかのような悲しそうな表情だった。


「桜火乱舞・還り咲き」


 立ち上がるのと同時に放たれる炎を纏った切り上げ。左脇腹から右肩にかけて刃が滑るように流れ、女は逆袈裟に断たれてしまった。景色が堕ち、地面に激突したところで意識が絶えて消えた。


「奇襲に加えて背後からの切り上げ…すまなかった」


 霊華は一礼した後に血振るいをし、袖口で刃を拭って納刀した。


「さて、と。かなり時間を食っちまったな。目的の場所に着くのは明日になりそうだ」


 予定が狂ったため不機嫌な感じでいると、戦闘の途中で割り込んできた炎の狐が近寄ってきた。


『…』


 無言で霊華を見つめる狐。霊華が手を伸ばすと、嬉しそうに頬擦りをした。


「だいぶ前に生み出して魂片(こんぺん)を与えた炎が近くに居て助かったよ」


 この狐は昔、と言っても藤也がこの世界に来訪する数日前、創造神とやらの血液が入った小瓶を回収させるために二匹創った内の一匹だ。だが、小瓶の回収はすぐに邪魔が入ってしまったので早々に切り上げさせ、色々な場所を調査させていた。


「もう一匹はだいぶ前に天使に殺されたから魂が勿体無えな」


 そう言いながら霊華は人差し指を狐の前に突き出し、指先に小さな炎を灯す。すると、狐はその炎に一体化して消え去った。残った指先の炎は初めよりも生き生きと燃えている気がした。


「よし、敵陣地突入前に魂の補給ができたし、行くか!」


 霊華は身体に炎を纏って全速力で駆け出した。



「ぅうむ。おし、惜しかった」


 一部始終を見ていたDr,ノイゲルはさも悔しそうに額を抑えて唸り声をあげた。しかし、すぐにスイッチを切り替えて水晶を退けて図案を取り出し、ペンで何かを書き殴り始めた。共に観覧していたラファエルは、用は済んだと言わんばかりに立ち上がり、囚われている少年を少し見上げてから踵を返して立ち去った。


「舐めやがって…」


 身動きの取れない少年はラファエルの底知れない瞳に苛立ちを覚えながら、ただひたすらに脱出の計画を頭に巡らせていた。


「絶対に逃げてやる…お前らの思った通りにはならない。何か企みがあるのなら、この世を片っ端から破壊してやる…」


 手に力を込めて破壊の能力を使うが、拘束具は破壊されたそばからまるで流動体かのように手に絡みついて離れない。まだ、ここから出られそうには無さそうだ。

 読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字などがありましたら教えて頂ければ幸いです。

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