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全テをハ壊スル者  作者: 南十字
四章 邪神の力の解放
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七十二話 主役登場と残氷の覚悟

 粉々に砕け、降り注ぐ氷塊を息を飲んで見つめるブランシュ。その表情は未だに緊張が見えるが、それでも悲願を達成できたという安堵と喜びが僅かに現れている。


「やっと復讐の一歩を踏み出せる」


 そう呟いた瞬間、ブランシュの上半身が消し飛んだ。


「は?」


 誰が言ったかなんてどうでも良い程に唐突な展開に一同はポカンとしている。そして視線が移り、攻撃の放たれた方向には、砕け去った筈のミカエルが浮遊しながら手を前に伸ばしていた。尤も、見た目は以前の神々しい姿とは打って変わって、皮膚の至る所が千切れてボロボロになっている。


『何度目の攻防かわからない…それ程までに僕を追い詰めた羽虫達は実に気に食わない。天使である僕が遊んであげていふのにムキになりやがって』


 ガサガサになった声でそう言いながら姿を一瞬で消し、いつの間にかにネールナルの隣に立っていた。


『お前の氷のせいで全身の皮膚が凍りついて剥がれたから』


 左手でネールナルの頭を鷲掴みにすると、力の限りを振るってビルの壁面に投げつける。ネールナルはビルの壁面を砕きながら肉塊となり、大きなシミを作った。

 それを目の当たりにした龍王とスクレットは今までで一番純粋で親密に迫る命の危機を感じ、恥も外聞も捨てて必死に逃げ出した。そんな圧倒的な力と殺意が今のミカエルからは感じられた。


『タダで逃すとでも?』


 ミカエルは空を飛んで逃げる龍王を指差して上に指を曲げると、龍王の足元からビルが生えてきて空中の龍王を撃ち落とした。また、地中に潜ったスクレットに対して魔力感知で位置を特定し、一点に集中させて剣を遠隔でブッ刺した。


『まだむしゃくしゃする。この国も信者も、人工物も自然も気に食わないね』


 平然とそう口にすると、手始めに街を潰そうと振り返った。街の景色が見えてくる筈のミカエルの目に飛び込んで来たのは、なんと求め探していた神の器である少年の姿。しかも、自分に向かって、いや、目と鼻の先まで迫って自分を破壊しようと手のひらを向ける姿だった。


『っ!?』


 すぐに避けようと後退する天使。だが、破壊の力は執拗に追いかけてくる。空間を破壊して瞬間的に距離を詰めた少年は、天使の頭に手をかけようとした。その瞬間、少年の視界は一瞬ブラックアウトし、気がつけば上空へと打ち上げられていた。


(死角から喰らった!!)


 すぐに攻撃を喰らったことを理解して防御の体勢を取る。すると案の定、真正面から巨大なビルが吹き飛んで来た。


(なんだこの柱は!?)


 少年は空間を破壊してビルの上の空間に移動し、困惑の表情を浮かべる。

 この世界の住人は当然ビルなど見たことがない。そのため、少年はその巨大な建造物を柱と表現し、あまりの大きさに理解が追いつかないのだ。


『器よ。そちらから出向いて来るのはわかっていた』


 ミカエルは一瞬にして少年の身体に針金を巻き付けると、針金越しに腹部を殴打する。


「カハッ!」


 想像の数倍内臓に響く強打に、少年は白目を剥いて胃液を口から吐き出した後、吹き飛んでビルの屋上を砕いて下の階で倒れる。屋上に開いた風穴から少年がミカエルを睨みつけるのが見えた。


「テメェ…は、殺す」


『……』


 ミカエルは何も発さずに少年を見下ろし、視線を他の脅威に移す。


(氷の騎士は絶命、ベリアルは魔力が尽きて再生不能、アンデットと龍王は…恥も無く逃げた)


 そして、遠くから感じる微かな魔力に目をやる。


(あれは器と同行している女)


 その魔力は微かながらも、急いでこちらに向かって来るのが見えた。少年はミカエルの視線の先にいるナレスに気がついたのか、慌てて針金を破壊してビルの屋上へ飛び上がり、更に屋上からミカエルの背後に瞬間移動する。


「そいつは関係ないだろ」


 怒気を孕んだ声でミカエルを怒鳴りつけ、両手で覆い被さる様に手を伸ばす。だが、間に入ってきたビルの破片に阻まれ、破壊の力は届かなかった。そうしているうちにナレスはミカエルの眼前に迫っており、魔力を込めた魔力剣を脇に構えて肉薄する。


「『風魔法・ウィンドカッター』!」


 全身を使って大振りに剣を振り上げると、剣の軌跡の様な高圧の風の刃が放たれた。風の刃はミカエルに迫るが、ミカエルはつまらなそうな表情でナレスを睨む。唐突に手を伸ばすと、ナレスの背後から鋭いビルの破片が迫り、まるでナマクラの包丁で斬りつけるように強引にナレスの脇腹を貫いた。無理矢理貫いた事でナレスに力が加わり、吹き飛ばされて落下する。


「っ!ナレス!」


 少年は反射的に行動していた。破壊の力で空間を破壊し、ビルを空間ごと抉りながらナレスを追いかける。例え強靭な肉体を持つ冒険者であっても、この高さから落ちれば死は免れられない。それに、脇腹に穴が空いていれば即死で無くとも危険な状況に変わらない。


「ナレス!!」


 やっとの思いでナレスに追いつくと、ナレスを抱き抱えながら、今自らに加えられている()()を破壊してストンと地面に着地した。

 ナレスを地面に下ろすが、脇腹は抉れており、臓物がまろび出ている。それだけで無く、貫通の影響により切れている臓器もあった。


(…破壊の力でナレスが岩で貫かれた過去を消し去るしか無い…)


 少年はナレスの傷口に触れると、ナレスが岩で貫かれた過去を破壊し、傷口が無かったことに過去を変えた。それによって現在も修正され、ナレスの腹部はまるで何事も無かったかのように完治した。


「ナレス、大丈夫か?」


 少年がナレスの頬を叩きながら反応を観察する。ナレスはゆっくりと目を開け、微かに頷いた。そして、自分の力で立とうとした瞬間、表情が凍りついた。少年の背後にミカエルが立っていたのだ。


「っ!!」


 ナレスは遠隔で魔法陣を創り出し、竜巻を放った。


「『風魔法・トルネード』!」


 そして少年もナレスの行動で自分が置かれている状況を理解し、大剣を振り向きざまに薙ぎ払った。

 ただ、その二つはミカエルが跳躍して避けたことで、対象を捉えること無く虚しく過ぎ去り、ミカエルは少年達の頭上を宙返りで通り過ぎて正面へ着地した。視線をあげて少年と目を合わせる。そしてゆっくり口を開く。


『器よ。お前の大切なその女を殺されるか、素直に連れ去られるかどちらか選べ』


 ミカエルは冷たい声色で少年に選択を迫った。少年はわざとらしく悩み、わざとらしい笑みを浮かべる。


「クソガキが。誰が誰を殺せると?所詮器と俺を舐めるのも大概にしろよ」


 その言葉を聞いた途端、ミカエルは少年の足元からビルを生成し、自分諸共ビルの屋上と言う舞台へ持ち上げた。


『わかるか?僕は今、君とあの女を引き離したんだ』


 殺意の籠ったミカエルの視線は、少年から笑みを奪う。すぐにミカエルの行動を理解した少年は、ビルから飛び降りる為に駆け出そうとした。しかし、左足がカクンと落ち、無様に転倒してしまう。


『僕は本来、神の守り手であり、浄化と守護を役目とする天使だ。そんな役割だから、当然剣術の心得はある。獲物を前にした兵士(けもの)に背を向けたら…どうなるかわかるだろう」


 ミカエルは話をしながら自身の身体を治癒し、ズタボロの身体はすっかり綺麗に元に戻る。ガサガサの声も見た目相応のものになった。

 少年はドクドクと痛む足の断面の少し上を必死に圧迫しつつ、牽制の意味も込めてミカエルに最高の笑みを送る。


「俺は破壊の力を持っているんだぞ…こんなの過去を破壊すれば…っ!?」


 破壊しようと魔力を込める。しかし、足が治ることは無い。


「なんで…!?足が治らない!」


 慌てふためく少年とは真逆で、それを見下ろすミカエルは、心の中で笑い転げていた。


(このカス、魔力切れすらわからないのか。神の魔力があれど、完成していないその身で過去に何度も干渉できる量は無い)


 ミカエルは笑いを堪えながら足を鳴らして屋上の落下防止の手摺りに腰掛け、ビルの真下に居るナレスを見下ろした。


「そうやって慌てるのは良いけど、この子死ぬよ」


 ミカエルは人差し指を曲げる。すると少年の足元のコンクリートが蠢き、少年を転がして屋上の端に転がす。


「…ナレスには手を出すな」


「おー怖い。じゃあ君は何をすべきかわかるよね」


 ミカエルは気怠げに首を傾けて少年を睨め付ける。少年は観念した様で、身体を引き摺りながら手でミカエルに近寄った。ミカエルは何処からか天秤を取り出すと、手にはめた指輪を片方の皿に乗せ、もう片方に少年の血液を擦り付けた。直後、少年の目の前の空間が裂けて先の見えないワームホールが生まれた。


「この先に僕らの拠点がある。ほら、通りな」


 少年は悔しげに爪を立てて歯を食いしばる。こんなに追い詰められてまで残るプライドに呆れながらミカエルはそっぽを向いた。

 その瞬間、ミカエルの背後に影が現れる。


「天使が図にのるな」


 その影の正体はネールナルであり、欠損した身体が完全に治りきっていない痛々しいグロテスクな姿で剣を振り下ろした。

 だが、ミカエルは両断などされなかった。剣の切先すら届かない。ネールナルは剣を頭上に振り上げた状態で固まっており、その土手っ腹には大きな穴が空いていた。


「何度も不意打ちは効かないよ。氷王フリーファル。君もベリアルと同じで魔力を糧に身体を再生してる様だけど、もう魔力もカツカツで再生できないね」


 ミカエルはネールナルを落とそうと身体を押そうとする。手が触れる直前、ミカエルのバランスが崩れて膝立ちになった。


「何…が…?」


 ミカエルが振り向くと、少年が血まみれの手のひらをこちらに向けて笑っていた。


「魔力が少なくても、この程度の範囲を壊せる程度は残ってたぜ…氷王だか知らないが、ネールナルは俺の恩人だ。やってくれるよな」


「そんな…!」


 少年の行動に隙ができたミカエル。そんな彼の頭上から氷の剣が振り下ろされた。


「『氷風魔法・残命奮凍(ざんめいふんとう)』」


 殆ど脊髄反射で打ち下ろされた剣はネールナルの枯渇ギリギリの魔力と命が込められており、その対価として絶対零度に近しい温度の剣が生み出される。

 今度こそ確実にミカエルの生命を切り裂いたのだ。そして、ネールナルの命もまた、ここに尽き果てビルの谷間へと落ちていった。

 読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字などがありましたら教えて頂ければ幸いです。

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