六十八話 復活の時
大変遅くなって申し訳ございません。
正直に言いますと、サボっていました。今後はこの様な事がないように気を引き締めて活動します。
ネールナルが混戦を極める中、少年を背負ったナレスは街の中を全力疾走していた。
「はぁ、はぁ、そろそろ起きたらどうですか!?少年!」
必死に背中の少年にそう言うが、少年は一向に起きる気配は無い。
『止まりながれ!この悪魔が!』
『そのガキを俺らに寄越せ!』
耳にも心にも、痛いほど響く怒鳴り声。
ナレスが街の中で走る理由は背後から沢山の激昂した者達が迫ってきているからである。
それは、アンデットの軍団を視認して街の人々に伝えようと街に入った時だった。
『何を急いでいる?ん?その少年は…!!』
『みんな!居たぞ!街を破壊した悪魔の子だ!!』
衛兵と目が合った途端にそう叫ばれ、あっという間に人が集まったのだった。
「待ってください!私達はすぐ出ていきます!でも…アンデットの軍勢がこの街に迫ってるのです!」
ナレスは逃げながらも伝えるべきことを伝えるが、住民達はまるで聞く耳を持とうとしない。
『うるせえ!嘘つきが!』
『そのアンデットの軍勢もお前らが呼んだんだろ!!』
それどころか少年を非難する火種となり、烈火の如し怒りに薪をくべる事となってしまう。
(どうすればわかってくれるの…このままじゃみんなやられてしまう…!!)
ナレスが悲痛な思いを胸に抱いていると、前方から爆音が鳴り響いた。
「アンデットが!?いや、アンデットは私達の後ろから来た筈…!じゃあ誰が?」
その時、目の前の家が爆発し砕け散った。天を目掛けて昇る爆炎、それが唐突に真っ二つに割れた。
「この世を創造した神はこの世に飽きて世を放置した。そして、一つの結論を出した。終わらせてしまおうと」
やけに響く声が炎の向こうから聞こえる。その直後に真っ二つに割れた炎の狭間に人影が現れた。
「我々は神を手伝い、そして幸福な死を頂戴する為にこの身を捧げる。さぁ、器をこちらに渡して貰おうか」
中性的で、しかし剣山の様に端々が尖った何人も傷つける様な荒い声。女性なら高身長だが、男性だと低身長に見える様な中途半端な背丈で、左肩に十字の盾がついている、袖が破れた邪神教の修道服身に纏っている。左腕は膝から先が義手となっており、ぎこちない動きをしていた。
「何が目的か知らないが、どうせ少年の中に居る邪神とやらに少年を乗っ取らせるのだろ?そんなことはさせないし、させたくない。悪いが帰ってくれ」
「そうか。なら力づくで奪うまでだ」
そう言うと、崩れた家の中から大量の信者達が雪崩れるように攻めてきた。手には武器を持っており、目は血走っている。
信者は目の前に居る、ナレスを含めた全ての人に向かって武器を振り上げた。
「っ!!『風魔法・妖精の囁き』」
咄嗟に前方に風魔法を放つ。すると、目の前に居た十数人が吹き飛び、数メートルの空間ができた。
「『風魔法・妖精の囁き』!」
すかさず地面に向かって突風を放ち、十メートル程上に逃げる。下を向くと、先程まで居た位置に信者共が集まっており、判断が遅ければ死んでいたかもしれないことが伺える。すぐにその場から離れようと前方に向かって同じ魔法を放とうとした時、耳元で中性的な声で囁かれた。
「わかりやすく逃げたな」
ナレスは反射的に剣を掴んで背後を振り払おうとする。しかし、攻撃の出始めに肘を掴まれ体勢が崩れ、立て直そうとする暇も無く首を掴まれてしまった。
「グゥッ!」
呻き声を上げながらも掴む腕を必死に殴るがまるで効いておらず、苦しさのあまり睨むことしかできなくなった。
「虚しいな。少年を渡していれば命までは奪らなかった」
呆れたような冷ややかな言葉をナレスに浴びせる。
「テメェ…は…我が身…可愛さで…仲間を売るようなカスに…冒険者が務まると…思ってんのか!」
ナレスは苦しさを紛らすために必死に笑みを浮かべ、虚勢を張るように荒々しい言葉を放った。そして、気を見計らって魔力を練り、息をフッと吐いた。その息は魔力で強化され、顔程の大きさのボールがぶつかる程度の威力を発揮した。それが当たるのが胴体であれば全く効果は無いが、弱点だらけの顔面に、しかも気を抜いている時に当たるのであれば効果は抜群である。
案の定顔面を襲う衝撃で手の力が弱まり、首を掴んでいる腕の力はスッと抜けた。後は力の入っていない腕を払いのけ、風魔法を放って攻撃と移動を同時に行なった。
「ん〜、空気がうまいですね!少年、絶対に守りますよ」
そう意気込み、地に足を付けて逃げようとした瞬間、右足から力が抜けた。正確に言えば、右足が胴体と別れることとなった。
「うっ!」
身体を支えられなくなり、少年ごと放り投げだされてしまう。少年を手放してしまったナレスは、右足から血が溢れるのもそのままに少年の元に這い寄る。だが、少年を遮るように人の足が降りてきた。
「足掻くのも大概にしろ。もういい。お前は完璧に葬ってやる」
見上げると、眉間に皺を寄せて怒りを露わにする義手の信者が居た。
「はは…絶対に嫌よ。少年は渡さない」
「ほざけ。片足の無いお前に何ができる?」
「片足が無くても、魔力は練れる」
ナレスはすぐに魔力を放出して辺りの塵もろとも弾き飛ばそうとした。しかし、二度もそうさせてはくれるはずが無い。
魔力放出前にナレスの肩に片手剣が突き立てられた。そのまま片手剣をグリグリと捻り、片手剣の柄頭を片足で踏んで押さえた。
「無駄な足掻きはやめろと言わせるな。貴様、名前は」
「阿呆に教える名など…無い」
「そうか。死ね」
義手の左手を手刀の形にし、手の側面に仕込まれた鋭い刃をナレスの頸に振り下ろす。吹き出し、踊る鮮血に視界が埋め尽くされる。溢れる温かいそれは、徐々に冷える身体と対比していた。
「…器は貰っていく」
そう言って立ち上がり、少年の元に向かおうと踵を返した。背後には少年が居るため、視界に少年が入ってくる筈だ。当たり前の光景を頭に思い浮かべながらその光景を眼でなぞる。しかし、そこには少年は居なかった。いや、居なくなっていた。
(っ!居ない!今の一瞬の違和感はなんだ!?)
ふと感じる違和感に胸をざわつかせながらも、少年の行方を探して勢いよく振り返る。するとそこには、ナレスを抱き起こし、切り裂かれた右足を右手に持つ少年が居たのだった。少年がその足と足の断面を合わせてそっと触れると、一瞬のうちに足はくっついていた。辺りに飛び散った血液も、頸動脈を切り裂いた筈の首すらもまるで何事も無かったかのように元通りになっていた。
「な…何を…」
義手の信者は困惑しながら数歩後退り、冷や汗を流している。
「俺は…神に乗っ取られて身体を操られているのを、心の奥底で見ていた。流石能力の源だ。使い方だけは見事だった」
少年はそう言うと、その場から一瞬のうちに姿を消した。
「っ!」
驚きの表情を浮かべ、少年を探そうと身体を動かそうとする。その瞬間、そっと手のひらを触られる感触がした。それはまるで弄るかのように指の間まで触ってくる。
「破壊の力ってのは魔力を使っていたんだな。魔力の制御を上手くやれば身体から離れていても破壊できる。今までは触った物を投げて時間差で行っていたものも時間差無くできる。俺の中じゃ革命だった」
少年がそう言い切る前に振り返って手を薙ぎ払うが、そこには誰も居ない。
「それに」
また後ろから声が聞こえた。
「あの神は事象まで破壊してしまった。だから俺も真似した。お前がナレスの足をぶった斬り、首を切り裂いたと言う過去の事象を破壊した」
少年はナレスをそっと抱き上げ、道の端にある飲食店のテラスの椅子にゆっくり座らせた。そして、空間を破壊して柵を越え、舗装された道を踏み締めて歩いてくる。
「来るな…っ!」
「自分の大切な物に危害を与えられても尚、加害者に慈悲を与える奴が居るのか?だとしたら、それこそ天使だ。お前ら側に付いているあんな邪悪な天使じゃなくてな」
少年は、怒りの感情を押し隠して真顔でそう言うが、言葉には怒気が籠っているのがハッキリとわかる。
背中に担いだ大剣を抜き、両手で持って身体の横で構える。
「ぶった斬れろ」
そう呟くと、地面スレスレに大剣を這わせ、確実に真っ二つにできる距離で大きく振り上げた。
すると、突然辺りに電気が帯び、目の前の標的が紫の電気で弾けて消えた。
「怖気ついた野郎がまだ足掻くか?」
「ふぅ。こちらも、信者としての意地がある」
左手の義手をガチャガチャと弄り、右拳を引いて構えを取った。
「紫電極流、平等の略奪軍隊長アメイズ・フロウズだ。参る」
「何でお前らは毎度名乗るんだ?まあ良い。ディースだ。来いよ」
その瞬間、アメジストのような紫色の雷が爆ぜ、辺りは閃光に包まれた。
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