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全テをハ壊スル者  作者: 南十字
四章 邪神の力の解放
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六十七話 破滅のラッパ

少々遅くなりました。

 スクレットとネールナルの戦闘が今にも激化しそうな時、ラファエルは宙を泳ぐ魚の目を通してその状況を見ていた。


「まさか王が一人誕生するとは…想定外だったが軍を送り込むには絶好の機会だろう。ここで場を混乱させれば、創造神様に無礼を働いたあの人間も始末できるかもしれない」


 ラファエルは手に握った魚を指で突き刺し、少し内臓を探った後に胆嚢を引き摺り出して口に含んだ。少し咀嚼して飲み込むと、魚の死体を捨てて急に立ち上がった。少し歩くと立ち止まり、いつからか側で跪いていたローブの男をジロリと見下ろす。


「これから軍を送り込む。ミカエルに全てを頼んである。わかったな」


「はっ!」


 ローブの男は返事だけして一瞬でどこかに消えてしまった。


「ふふ…混戦は必至、醜い争いは正直に興がのる。今後の計画を練りながら気楽に見ていよう」


 ラファエルは珍しく邪悪な笑みを浮かべて水晶玉を覗き込む。

 水晶玉にはスクレットとネールナルの二人が写っていた。


「ふふふ…実に気分が良いです。王となるのは()()()の前が良かったのですが…それでも良い。きっとあの人は来てくれる!それまでの暇つぶしに、貴方とワルツでも踊っていましょうか!」


「ワルツ?貴方みたいに死臭の酷い方と踊ったら臭いが移るでしょう。最低限のエチケットはしてもらいたいですね」


 二人とも丁寧な口調で、だが相手を挑発する様な言葉をぶつけ合う。


「死臭がする?近づいてみないとわからないでしょう!?」


「ここからでもわかるほど臭い匂いがプンプンしてますよ!!」


 二人はそう言いながらほぼ同時に地面を蹴り互いに肉薄する。


「『アンデット解放、死人の群れ(デス・リバーノ)』」


「『氷魔法・狂躁雪崩(スノー・スタンピード)』」


 片方は骸骨の群れが折り重なって洪水の様に溢れ出し、もう片方は荒れ狂う雪の塊が雪崩の様に平地を滑る。両者はぶつかると波の様に小高い山を作り互いの進路を塞ぐ。

 ネールナルはその山を駆け上がり、頂上から跳び出してスクレットを強襲する。


「『風氷魔法・ボーラーネージュ』」


 雪と風を纏った剣を勢いよく振り下ろし、追撃として雪片の含まれる鎌鼬を放射状に放つ攻撃だが、スクレットは軽い身のこなしで難なく避ける。そして、お返しと言わんばかりに骸骨を蹴って全身の骨をネールナルに向けて滅茶苦茶に吹き飛ばした。

 もちろんその程度でやられるわけが無いネールナルは、飛んでくる骨を剣で薙ぎ払って氷点下の凍える風で撃ち落とす。そして、薙いだ勢いを殺さずに一回転して凍える斬撃をスクレットに向けて飛ばした。


「斬撃程度で殺せると?」


 スクレットは手を前に出すと、骸骨と腐肉でできた名の通りの肉壁を地中から生やす。斬撃は肉塊に衝突する。


「ふ…っ!?」


 肉壁は斬撃を防いだかに思われたが、肉壁は次第に凍り始めボロボロに崩れてしまった。肉壁が隠していた視界が開けた瞬間、剣を体側に構えたネールナルが飛び込んでくるのが目に入った。


「視界を塞ぐことは戦いでは禁忌だ」


 宙を舞うスクレットの頭を横目にネールナルがそう指摘しながら剣を納める。ネールナルはスクレットの首を綺麗に切り裂いたのだ。するとふと、スクレットと目が合った。ギラギラとした狂気の孕んだ目。その目は死に直面し、今から死にゆく者の目とは思えなかった。

 ネールナルは何かを感じ、すぐさま前方に氷壁を展開した。ネールナルの直感は当たっていたようで、その直後に氷壁に夥しい数の骨の棘が突き刺さった。


「っ!?死んで無い!!」


 ネールナルは驚愕の表情を浮かべながら、ひとまずその場からバックステップで離れる。

 スクレットは頭だけになっているのにも関わらず、ケタケタと笑い声を上げて涙目になっている。


「あー…面白いですね。私はこんな見た目になってもアンデットですよ?首如きじゃ死ぬことはありませんよ」


 嘲笑するような口調で説明しながら身体を再生させてゆく。まずは背骨が生え、肋骨、腰、腕の順で骨ができる。そこから内臓や血管、筋肉と付き、すっかり元の姿に戻ってしまった。


「ふふ…服もおまけで再生させました。紳士の嗜みですからね」


「死体が紳士を語るなよ。再生か…そうだな。お前らの弱点は魔石。もしくは光、聖属性の魔法かそれで攻撃すれば再生することは無いだろう」


「ピンポンピンポン。よくできました」


 スクレットは拍手をしながらうわべだけで褒める。そして、自らの頭に手を突っ込み、魔石を取り出してネールナルに向けて放り投げた。


「っ!?」


 まさかの行動に身体の反応が遅れる。目前に迫る魔石からが再生し、スクレットは骨の状態でネールナルに襲いかかった。


「どうです?想像の斜めをゆく行動。思わず反応が遅れたんじゃ無いですか?」


 骨で創り出した歪で巨大な右腕でネールナルを吹き飛ばす。ネールナルは間一髪で氷を展開して防ぎ、吹き飛ばされた勢いのまま氷を使って力の向きを変えた。

 いざ反撃しようとした瞬間、スクレットはすでに追撃をしにきており、空から巨大な骸骨が大口を開けて降ってきた。


「『風氷魔法・フリード・ウィンド』!」


 氷の礫を巻き込んだ竜巻を生み出し、巨大な骸骨と競り合う。そのうちにスクレットに向かって肉薄し、身体を氷漬けにしてしまった。


「これで動けない筈だ!大人しく死ね!」


 そう言いながら渾身の突きを放つ。しかし、攻撃が当たる寸前、地面から生えてきた骨の腕に足を引っ張られて体勢が崩れ、切先は頭の横を掠めて皮一枚切り裂いただけだった。


「『死者蘇生(アンデットリボーン)』死者達よ。この愚者を仲間に誘い込め」


 スクレットがそう命令すると、次から次へとアンデットが地中から這い上がって来てネールナルの身体を掴んで引っ張る。


「……」


 無言でアンデットに揉まれるネールナル。すると、唐突に骸骨の頭を握り、そのまま力を入れて砕いてしまう。


「こんな魂の入っていない軽い奴らに誘い込まれるほど尻軽じゃ無い。口説き方を変えて来い」


「高望み野郎ですね」


 ネールナルはそう軽口を叩くと、身体の周りに魔力を集めて自身の周囲の空気を急激に冷やした。


「『氷魔法・秘技・氷裏威ッ戴(ひょうりいったい)』」


 次第に辺りの物質に霜が降り始め、ついには芯まで氷が侵食する。それはアンデットも例外ではなく、ゾンビの肉体は急冷によって粉々に砕け、スケルトンの骨は力を入れた途端に砕け散った。


「厄介ですね…でも、多勢には無勢でしょう?」


「試してみるか?」


 ネールナルが挑発した瞬間、スクレットの背後から黒いモヤが発生し、中から大量のアンデット達が雪崩の様に押し寄せた。


「『死の行進(デス・パレード)』」


「お前の土俵に乗ってやる。『氷魔法・氷の兵士(アイスマン)』」


 ネールナルの背後に霧が広がり、中から氷でできた勇ましい兵士達が突撃してきた。

 そして、二つの軍隊がぶつかる寸前、空に一体の天使が出現し、真鍮製のラッパの音色が鳴り響いた。

 睨み合っていたはずの二人はハッとし、音のした上空を見上げた。

 そこに居たのは、ラッパを片手に純白の翼を羽ばたかせて宙に滞空する中性的な顔立ちの天使だった。そして、ラッパが響いた直後、天使の真下の時空に裂け目が広がり、中から武装した邪神教の信者達が溢れてきた。


『教敵を全て滅せよ!!』


 戦場はたちまち混乱に陥った。スクレットとネールナルは混戦の中で天使の姿をしっかり捉え、同時に同じ考えが頭に浮かんだ。


((ここは一旦天使を倒さないとマズイ!))


 なぜなら、天使が定期的にラッパを吹くと、倒れた信者達がゾンビの様に立ち上がり、まるで無傷かの様に万全の状態で剣を振り始めるのだ。これではいつまで経ってもけりが付かず、スクレットとネールナルの魔力だけがどんどんと消耗してしまう。


「ふむ。このラッパは良いね。ガブリエルから借りておいて良かった」


 天使はニコニコしながらラッパを撫で、また一吹きした。立ち上がり、氷の兵士やアンデットを薙ぎ倒してゆく。


「復活してきりがないのなら、その大元を叩くまでだ」


「氷の騎士もそうするでしょう。私もそうしますから」


 二人は相手の様子を伺い、ほぼ同時に攻撃を放った。片方はスケルトン達の骨を使って柱の様な山の様なものを勢いよく伸ばす。もう片方は氷山の如き氷塊を勢いよく伸ばした。二つの攻撃は天使の居る座標でぶつかり合う。はずだった。天使が翼を羽ばたかせると攻撃は砕け散り、容易に回避をされてしまった。


「防ぐことは想定内。出番ですよ!龍王の亡骸、アンデットドラゴンキング」


 スクレットが手を伸ばすと、ゾンビと化したドラゴンが地面を抉りながら飛んできた。

 アンデットドラゴンは一部骨が露出した口腔内に炎を溜めると、その数秒後に超火力の業火を吐き出した。人など簡単に灰と化せる程の火力のそれは、勢いよく天使に向かって飛んでいった。だが、その攻撃は別方向から飛んできた火球によって相殺された。


「っ!?なんです!?」


 スクレットが火球の飛んできた方向を見ると、体表中に古傷が刻まれているドラゴンが飛んでいた。そのドラゴンは火球を吐きまくりアンデットドラゴンを牽制する。そして、そのままの勢いでアンデットドラゴンの翼を掴んで空中から地面に押し倒そうとした。しかし、腐ってもドラゴンである。アンデットドラゴンはそれを振り払い、火球を至近距離で当てて反撃した。相手のドラゴンには傷一つ付かなかったが、それでも距離を取ることに成功した。


『これはこれは、故・龍王。そして開花おめでとう黄泉の王。貴様が王たる器か、現・龍王である我が直々に見定めてやる』


 ドラゴンは地も震える様なドスの効いた恐ろしい言葉をスクレットに向けた。龍に睨まれたスクレットは反抗的な笑みを浮かべて中指を立てる。


「王の先輩だろうと引きずり落としてやりますよ。黄泉の王…皇帝として」


 戦場は混戦を極め、地獄や混沌、カオスと言う言葉がピッタリ合う様な様相と化してきた。

 読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字などがありましたら教えて頂ければ幸いです。

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