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全テをハ壊スル者  作者: 南十字
四章 邪神の力の解放
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六十二話 死の境

 約一か月、お待たせしました。構想を練り、のんびりと書いていたらこんなにかかってしまいました。先月は絵を描くことにハマってしまい、小説のことも放っておいて絵ばかり描いてしまいました。すみません。ですが、これからは最低週一投稿を復活させます!


 そこは女神が見守る教会の中、慌ただしく駆け回る聖職者達の姿を見るに、普段と異なる事が起きていることがわかる。


『早く水と清潔な布を持ってきて!』


『ガーゼと包帯!魔力回復薬も!』


『こっちの患者の血が止まらない!!』


 普段は修道服に身を包んで静かに祈っているシスターも、今日ばかりは汗をかいて大声をあげている。この街の教会はいつ何が起きても良いように医療用の器具が多数用意されており、その何かが起きた日が今日だったのだ。街では邪神教のテロ行為が行われ、その犯人を捕えに向かった衛兵や騎士達。その約三分の一が怪我を負いここに運ばれた。殆どが軽傷だったが数人が重傷を負っており、それの処置の為慌ただしくなっていたのだ。

 患者の処置の為に必死に走り回って幾らか時間が経ち、命の危機は過ぎた頃、石造りの教会でも聞こえるほどの爆発音が複数回響き渡った。


『っ!?何だ!?』


『キャーッ!』


『頭と患者を守れ!』


 爆発音は教会内を少し騒然とさせた。しかし、爆発音はただそれだけで、その後は数回の音が鳴ったのを経てやがて小さくなっていった。


『何だったんだ…?』


 一人の聖職者が外の様子を見に教会を出た。そして、慌てた表情ですぐに戻ってきた。


『大変だっ!女神様が敵と戦っておられる!お仲間の方がかなりの重傷!すぐに治療の準備と救護の支度をしろ!』


 また、教会内に騒然が戻ってきた。


『救護班準備完了!直ちに現場に向かう!』


 十人ほどの救護班が何本かの担架を持って教会を出て行く。しばらく経った後に戻ってきた救護班の、担架に載せられた患者達の姿を見て人々は息を呑んだ。

 患者は二人、片方は胸に大きな黒い痣があり、肩から胸にかけて深い傷がある。もう一方は、一見外傷は少ないが深い眠りにあるかのように目を閉じている。


『患者到着しました!少年の方はかなり重傷!回復魔法で傷はかなり塞がったがまだ足りない!血も足りない!少女の方は呼吸が深く安定しているが脈が弱く不規則!』


 状態の報告を聞くや否や、皆慌ただしくその処置のための場を整え、礼拝堂にある椅子を即席のベッドに変えたものに患者を寝かせた。

 処置が進む中、担架を運ぶ班に着いて来たアンと冒険者一行は教会内を見て絶句した。


「こんなに怪我人が…」


 するとそこに手持ち無沙汰になったらしい教会関係者がやって来た。


「こんなのはかなり軽度な方ですよ。死者も出ていないですし」


「これが軽度…?」


 ガットが少し驚いた表情でそう聞き返す。


「ええ、本当に酷い時はこんなものじゃありませんでしたよ。私がここに配属された時に戦争があったのですが、ベッドが足りずに患者さんを床に寝かせたり、死者が多過ぎて火葬が間に合わないこともありました」


「そんなにか…俺は今まで戦争のほぼ無い地域に居たから、魔物や盗賊にやられた野郎しか知らなかったんだ。怪我をしてもせいぜい五、六人だからな、こんなに多くの人がやられてるのは初めて見たんだ」


「そうなんですか…まあ、最近は戦争も無かったので、久しぶりで皆慌ててます」


 ハハ…と苦笑する。するとその直後、治療をしている職員に呼ばれたらしく、軽く頭を下げてその場を去った。

 その後ろ姿を見送ったガットは、渋い顔で呟く。


「ある意味…いい経験かもな」


 そして、治療にひと段落がつくまで彼らは端の方で静かに見守り続けた。



――――――――――――――――――――――――――



(寒い…身体から熱が消える…それは消えかけた灯火の様だ。心細い。あれから俺はどうなったんだ?たしか神官長とやり合って勝ったんだ…恩を仇で返してしまったな。そしてその後に…上手く思い出せない。まるで靄でもかかったかの様に記憶が曖昧で、でも嫌な事だったのは覚えてる)


 ふと、周りを見回してみるが、それすらも曖昧。しかし、身体の至るところにある痛みはとても鮮明だった。特に、不快感の塊が肩と鳩尾に集中している。


(これは神官長ともう一人にやられた傷…こんな大怪我を負うなんて日本じゃ考えもしなかったな。異世界に来たからと言って楽ができる訳でもないし、寧ろ苦労が増えたけど、退屈は無くなったな…)


 藤也はそこで気がつく。自分が涙を流していることに。そして、ここがどこなのかに。


(そうか…俺は今際の際に居るんだな…まだ生きて居たかったな…師匠に稽古つけてもらいたかったな…まだ…やりたいこと沢山あったのにな…)


 途中から声が震え、手で顔を覆う。涙が頬を伝う。本当に流れているかの様な温かさを感じる。


(涙ってこんなにも温かかったっけ…俺…死んでるのにまるで生きているみたいだ…ああ、何となく身体が温かくなってきた…)



――――――――――――――――――――――――――



 処置が始まり数時間、変わらず藤也は眠っている。霊華の方は呼吸が安定し、落ち着いた様だがどこか消えてしまいそうな雰囲気がある。


「お願い…目を覚ましてよ…」


 アンは祈る様に手を握ってそう呟く。すっかり薄暗くなった教会内には、蝋燭の光と回復魔法の緑色の光が混ざり合って揺らめいている。蝋燭の蝋が溶けて垂れた時、変化は訪れた。

 静まり返る教会。それと同じ様に藤也の瞼が静かに開いた。


『っ!患者が目を覚ましました!』


 その知らせは、祈る者たちの耳にも届く。そして途端に教会内は喜びの声で騒然とし始めた。


「藤也!わかる?私だよアンだよ!」


 なるべく邪魔をしない様にして藤也に駆け寄り、藤也の手を握ってそう問いかける。初め、藤也の瞳には生気が感じられなかったが、次第に生気が戻り、口を震わせながらパクパクと言葉を話そうとする。


「大丈夫、落ち着いて。もう少し回復してからでもいいから」


 アンが藤也の身を案じてそう言うと、藤也は僅かに口角を上げ、ヒュゥっとか細い音を立てながら息を吸い込んだ。今度こそと、ゆっくり言葉を発する。


「お…れは…死の…際を見た…心地が…良かった…。でも…生きた…かった…。どうしても…アンと…師匠を置いて…逝けなかった…」


「うん…っ!うん!良く戻って来たね。偉い…偉いよ」


 アンは顔が滅茶苦茶になるのも構わずに涙を流し頷く。たが、次の瞬間アンの表情が固まる。その理由は、藤也の鳩尾に深く染みついたドス黒い痣が蠢いたからである。


「っ!」


 そして、瞬き程の僅かな時間で中心から放射状に痣が広がった。全身を痣で覆われた藤也の身体は、操り人形かの様に不気味に動き、全身が軋むのも気にせずに無理矢理起き上がる。


「おい!何してんだ!?」


 カーターとガットがすぐに押さえつけようとするが、尋常ならざるその力で二人は突き飛ばされて壁に激突してしまう。藤也の様子は異常そのものであり、しかし、自我が残っているのか動きがぎこちない。


「藤也!戻って来て!」


 アンの呼びかける声が教会に木霊する。藤也は一瞬身体をピクリと反応させると、アンの方を静かに向いて手を前に突き出す。握られた指と、ピンっと立った親指。それは見事なまでのサムズアップだった。


「藤也…」


 アンが胸を撫で下ろしたのも束の間、藤也の身体が足元から溶けて崩れ去ってしまった。


「っ!藤也ぁ!」


 アンは弾かれた様に駆け寄り逃すまいと抱きつこうとするが、その両腕は虚空を切るだけだった。

 虚しく残る両の手。足元には溶け去った筈の藤也が一滴も無く、染みの無い綺麗な白い床があるだけだった。その白さすら虚しさを感じさせる。ただ、胸にポッカリと穴が空き、冷たい空気がそこを通るかの様だった。



――――――――――――――――――――――――――



 それは深い深い森の奥。霧が立ち込めるその森に藤也は倒れていた。真っ黒だった身体はもう元に戻っており、痣のあった鳩尾も綺麗な肌に戻っている。


「……」


 意識は無く、ピクリとも動かない。

 そんな藤也に危機が迫っていた。鳥の群れが一斉に飛び立ち逃げて行く。木々が揺れて軋む音を立てる。小動物は息を潜めて気配を消す。

 そうして現れたのは、人の数倍も背丈がある(オーガ)だった。血管の浮き出た筋肉の塊の様な四肢、唸り逆立つその角には、歴戦の傷が刻まれる。

 そんなオーガが口から涎を垂らし、血走った目で藤也を捉える。純粋な食欲。それを満たすべく、丸太のような剛腕が今、藤也に向かって伸びる。

 読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字などがありましたら教えて頂ければ幸いです。

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