六十一話 立ち上がる戦士
ご愛読ありがとうございます。最近あまり構想が浮かばず、一話仕上げるのにそれなりの時間がかかってしまっています。話の内容もあまり煮詰まっていない状態で投稿するのもどうかと思っております。そのため、構想を練るために次回の話は投稿が遅れるかもしれません。何卒ご理解いただきます。
邪神は己の前に立ち阻まる二人に対して上機嫌な笑みを向けた。
『クフフッ!我が眼前に立つというのか!その意味、とくと思い知らせてやろう』
両手を開き、腰を反る邪神。背後からは闇よりも黒い禍々しい魔力が放たれる。その禍々しい魔力はその身をくねらせながら、進行方向にある物を全て破壊して進む。
「来るぞ!兄弟!」
「おうよ!兄弟!」
ジャックが前に出て大楯と大剣を地面に立てて構える。ポートはその後ろで戦斧を担いで立膝でジャックを支えていた。
「準備万端!」
「どんと来いや!」
威勢の良い二人に邪神は不気味な笑みを浮かべたまま。ナレスはそれを見て嫌な予感がしていた。
(邪神の使う技…弱いはずが無い。少年が使う破壊の力を授けた邪神だから、あの魔法にも破壊の力がある…!)
「二人とも今すぐ避けなさい!!」
ナレスはそう叫ぶと、手のひらを前に突き出して魔力を込める。風魔法で生み出された空気の流れは渦を巻き、ボンヤリとシルエットの浮かぶ突風の球体となる。
「『風魔法・エアーバースト』!!」
魔法の名を唱え、勢いよく弾き出す。突風の如くスピードで駆け抜ける魔法。ジャックとポートはナレスの意図に気がついたのか、すぐさまその場から退き、左右二手に分かれ邪神に向かって駆け出した。放たれた空気の塊は破壊の魔力によっていとも容易く無力化されてしまう。
(しまった!攻撃の合図だと思われた!そもそも視認性の悪い風魔法じゃ、破壊の力がわかりにくい!)
ナレスは反省し、すぐに改善すべく行動する。横目で見えていた石畳の破片を拾うと、風の力を使って高速で弾き出した。破片は邪神に向けて放たれるが、破壊の力によって粉微塵となる。
「っ!!」
「そう言うことか!」
二人はやっと、邪神が放つ魔力の恐ろしさに気がつき、ギョッとした顔になる。しかし、足は止まらず、それどころか加速すらしていた。
「二人とも危険です!気がついたでしょう!?」
ナレスが忠告するも、二人は笑いかける。
「例え攻撃が必殺でも」
「当たらなければ」
「「どうということなど無い!」」
そう言うと、ジャックは建物の壁を、ポートは地面を蹴って空中から邪神に襲い掛かる。
『無駄だとわからないのか。愚かな生物よ』
それを落とそうと破壊の魔力を二人に向けて放つ。すると、前方に向けていた分が減り、ナレスから邪神まで一直線に道が開いた。
「ぶっ飛ばせ」
「今が隙だ」
二人はナレスに目線を送ると、ジャックが大楯を邪神に向けて投げつけた。勿論破壊される訳だが、それには僅かな時間がかかる。二人はそれを理解していたのか、大楯で魔法を防いだのだ。
「邪神よ。容赦はできないぞ!」
その僅かな時間にナレスが魔法を放ってくれることを信じて二人は剣を、斧を振り下ろす。
「『風魔法・エアーバースト』!!」
手から放たれる空気の塊は、複雑な渦を巻きながら邪神との距離をみるみるうちに縮めてゆく。間には障害物も何も無く、邪神の鳩尾に吸い込まれるように喰らわせた。次の瞬間、邪神の鳩尾がひしゃげ、物凄い勢いで後方に吹き飛ばされた。民家の壁に衝突する邪神。
「よし!」
「後は任せな!」
着地した二人は、左右からバットでも振るかのように大剣と戦斧で追撃をした。二つの刃は前方と左右の物を切り裂き、大きな刃の軌跡が建物に刻まれた。ワンテンポ遅れて土煙が立ち込める。ジャックポット兄弟は、視界不良の中での反撃を恐れてすぐさま距離を取り、ナレスを守るようにする。
やがて土煙は収まり、邪神の様子が明らかとなる。瓦礫にもたれている邪神はガクンと身体を前に倒し、そしてゆっくりと顔を上げる。身体にはクロスした深い傷が刻まれ、至る所から血が吹き出している。べっとりと頭から血が垂れているのにも関わらず、相変わらず邪悪な笑みを浮かべている。血のせいか、より邪悪さが極まったかのようにも見える。
ゾンビのように立ち上がると、足を引き摺ってナレス達の元へと向かおうとする。魔力が切れたのかわからないが、目は虚で、一向に破壊の力を使う素振りは無い。
ナレス達はそんな邪神の姿を息を呑んで見ていた。そして、緊張の面持ちは次第に驚愕の表情と変化した。
「な…なぜ?」
「アンタが生きて…」
「頭だって吹き飛ばされて…」
表情を変えさせたのは、邪神では無かった。異変に気がついた邪神は足を止め、ゆっくりと振り返る。そして、邪神もなお、驚愕からか真顔となる。何故なら、そこには死んだはずのネールナルが立っていたからだ。
「邪神よ…殺しは楽しかったか?」
ネールナルのその言葉に、邪神は即戦闘体制となる。しかし、今までの戦闘のダメージから、足がもつれて大きくふらついた。そこを逃さないネールナル。氷で創り出した杭を手に、邪神の心臓目掛けて突き刺した。
「凍えて眠るがいい」
邪神は声にならない叫びをあげる。突き刺さった氷はその身を侵食し、仰け反ったまま邪神は凍りつく。頭を残して。
ゆっくりと邪神に歩み寄るネールナル。手には氷の杭を握り、周囲には鋭い氷の礫を浮かばせる。
「少年を返せ。そして、その身から立ち去れ」
ネールナルの抑揚の無い言葉に、邪神はガラガラとしゃがれる声で反応する。
『誰がお前の命令を聞く。我は神ぞ』
「人の子にやられる神がどこに居る」
『ほざけ。一度殺されていただろう。それに、私はまだ完全では無い。言わば戯れ。足掻く少年の所為でもあるな』
「…言い訳は終わったか?醜い化け物」
ネールナルの煽りにとうとう怒り心頭となった邪神は、身を包む氷を全て破壊し、ネールナルに飛びかかった。
『ウガァァァッ!』
ネールナルは落ち着き払った洗練された動きで体勢を低くすると、手のひらを邪神に叩き込んだ。
「氷魔法・雪片華封雪」
込められた魔力は邪神の身を貫き、背中に氷の花を咲かす。その花はやがて溶け、最後には小さな霜の花が残った。
「少年の身を返してくれないのなら、永遠にそこで眠っていろ」
ネールナルは倒れる邪神を肩に担ぎ、確かな足取りで歩き出した。足の向く先にはナレスとジャックポット兄弟。皆驚愕を隠さず、奇跡でも見たかのように口をポカンと開けている。
「どうしたのですか…ではありませんね。すみません。心配をかけました」
「そ、そうですよ。心配しましたし…なぜ、生きているのです…なぜ、何食わぬ顔で戻ってきたのです…?もしかして…」
「ええ、そうです。死ぬのはこれが初めてでは無い。私には、呪いがかけられているのです。死ぬことのできない呪いが」
ネールナルはそう呟くと、これまでに無いほどの笑顔を咲かせる。
「そんなことはどうでもいいのです!ほら、少年は取り戻しました。かなり損害は激しいですが、すぐにでもこの街を発てば良いでしょう。ええ、同行しますとも!よろしくお願いしますよ!」
ネールナルはそう捲し立てて手を差し出す。ナレスは躊躇いながらも手を握り返すと、ネールナルがそれを握って激しく手を上下に振る。
「では、ここを発つ準備をしましょう!あ、そうでした!冒険者様の腕を少年が破壊してしまったのですよね!お詫びには少ないですが…」
ネールナルはポートの無くなった腕を案じ、金貨をこれでもかと握ってポートの手に置く。
「本当にこれで許してください」
ネールナルはそう言い残すと、ナレスを振り返ってから歩き始めた。ナレスも含め、三人は何が起きたか整理がつかない顔でポカンとネールナルの背中を見るだけだった。
「どうしちまったんだ…」
「あの人は、あのような態度をとる人物では無い筈なのですが…」
最後に残ったモヤモヤが三人を悩ませるのだった。
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