六話 国王の元に
小屋の中で騎士とグラッドが睨み合う。
グラッドは重い口を開き、先程あった事を話し始める。
「…ソレで、俺は奴を殺した」
それを聞いた騎士は、難しい顔でうんうんと頷く。
そして少し思案した後、懐からメモ帳を取り出してパラパラとめくる。
書いてある内容を読んでからグラッドに向き直る。
「この国の法には、ある程度の犯罪を、一定の位の騎士ならばその場で罪の大小を測っても良いとある。そして、私にはその位がある」
その言葉を聞き、グラッドは緊張した面持ちで騎士の判決を待つ。
「今回は向こうが子供達を犯し、暴行し、この国の平和を乱した。貴方が子供達を守ろうとした行動で殺してしまった。少しやり過ぎな気もするが、貴方は純粋無垢な子供達を守った。判決は…軽い罰金だけだ」
その判決を聞いた瞬間、身体の力が一気に抜け、グラッドは地面に座り込む。
「あー…心臓に悪い」
騎士はそんなグラッドを見てハハッと笑う。
「あと、この小屋も少し見せてもらうぞ」
「わかった」
グラッドは少年とミュアを抱え、小屋から外に出る。
小屋の外には倒れる父親とそれを運ぶ兵士、そして野次馬が集まっていた。
グラッドの元に兵士が駆け寄り、タオルを渡した。
グラッドはそれを受け取りミュアに付着した体液を拭い、ありがとう、と感謝してタオルを兵士に返す。
そして、兵士にミュアと少年を預け、応急処置をしてもらう。
グラッドが二人を心配そうに話していると、騎士が小屋から慌てて出てきた。
辺りを見回し、グラッドを見つけた騎士は、グラッドの元に駆け寄ってくる。
その表情には、焦りが見える。
異様な様子に、グラッドは身構えた。
「城までご同行願います!」
「え!?」
グラッドは思いがけない突然の言葉に困惑する。
「詳しくはここでは言えません!貴方と、子供達もです!」
「だが!あの子達は怪我して…」
「全部治療しますので!」
もの凄い剣幕に押され、渋々了承する。
グラッドは騎士達と共に城を目指して歩いた。
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暖かく、明るい日差しが眠りから覚醒させる。
まだ夢と現が混同した意識の中で、ふと自らを覆う感触に気がつく。
柔らかくてふわふわ。ぬくぬくな感触によって我にかえる。
勢いよく身体を起こした少年は、自分を覆う掛け布団を眺め、手触りを確かめる。
確かに先程と同じ感触が手に伝わってくる。
スラムの子供には不釣り合いの上等な布団とベッド。
少年は未だに夢の中では無いかと頬を軽く叩く。
しかし、痛みはしっかりとある。
「夢じゃない…?」
少年は驚き、戸惑いながら辺りを見回す。
埃も汚れも一つない綺麗な部屋。
日光が部屋いっぱいに行き渡り、明るい雰囲気に包まれている。
「どこ…?此処」
少年がまるで狐につままれたように惚けていると、部屋の扉がガチャリと開く。
「おはようございます」
挨拶をし、少年の元まで近寄ってきたのは、メイド服を身に纏った綺麗な顔立ちの女性だった。
「突然で申し訳ないのですが、幾つか質問をさせていただきます」
メイドはメモ帳を取り出し、少年に質問をする。
「ご自身のお名前はわかりますか?」
「ディースです」
メイドはメモ帳にソレをメモし、更に続ける。
「貴方は今いくつですか?」
「わかりません…多分十四?」
少年は首を傾げながら言う。
自分の年齢がわからないのは仕方が無い事だ。
勿論、この国にも一年という意識はあり、季節の行事もあるのだが、スラムにいた少年はその様な行事に触れたことも見たことも無いのだ。
その所為で一年と言うものがあやふやになり、自らの年齢もわからなくなってしまったのだ。
メイドはその事も加味してメモし、更に幾つかの質問をしたのち、体調を調べてから部屋を出て行った。
「…?」
少年は理解が追いついていないが、一先ずベッドから降りて部屋にある大きな窓から外を見る。
いつも見る壁に囲まれた暗い、見上げる景色が、今は何にも囲まれずに明るい。そして、見下ろしている。
とんがり屋根や煉瓦の家、小さな小屋までもが全て見える。
そして、住宅街の奥、街壁の外には、野原が。その奥の地平線の辺りには森が広がっていた。
透き通る空と濃い緑。初めて見る景色に、少年は強い興奮と感動を覚えた。
(この街を出たい!世界を旅したい!)
少年が初めて思った将来の夢。今までも夢や希望は考えた事があったが、自らの為の夢はこれが初めてだった。
少年が外の世界の妄想に耽ていると、扉を叩く音で現実に戻された。
扉が開き、男の人が入ってくる。
煌びやかな鎧に身を纏い、高貴な雰囲気を纏っている。
「初めまして。私の名は、ネールナル•レオ•ギビフス。王直属騎士だ。よろしく」
騎士は笑顔で手を差し出してくる。
高貴な雰囲気にたじろぎながらも、少年はそれに応える。
「それじゃ、取り敢えず付いてきて」
騎士は歩き出す。
少年はその後に続き、歩きながら質問をする。
「あの…ここってどこなんですか?」
騎士は一瞬だけ間の抜けた顔になった。
少年はそれに少し疑問を持ったが、ソレはすぐに晴れることとなる。
「言ってなかったね。ここは王城だよ。シュルルーシ国の真ん中にあるあの城」
少年は驚く。
いつも見ていたあの城の中に自分は居るのか。
何と恐れ多いと。
「ハハハ、そんなに緊張とか気配りとかしなくていいよ。まだ子供だしね。少なくとも、王様の前でなければ自然体で十分だよ」
「そんなこと言われても…」
少年はまだ緊張していたが、ネールナルのお陰で篭っていた力が少しだけ抜けた。
長い廊下を歩く事数分。
少年は他の部屋の扉よりも豪華な扉の前に着いた。
「此処には国王様が居られます。なので、くれぐれも失礼のない様にね」
ネールナルが真面目な声で少年に説明するので、少年の緊張は一気に最大まで高まる。
ネールナルは扉の左右に佇む衛兵に何かを話す。
すると、衛兵の片方が扉をノックし、大声で中にいる国王に少年とネールナルが来た事を伝える。
「入れ」
扉の向こうから篭った返事が聞こえる。
その声によって、衛兵二人が扉を開く。
開け放たれた扉の向こうには大きな長机と、その正面に座る、威厳のある雰囲気の男性。
長机の左右には沢山の大臣らしき人達が座っており、それに挟まれた真ん中、国王の真正面に三つの空席があった。
ネールナルは無言で歩き出し、国王から見て左の席に座る。
少年は恐る恐ると言った感じで正面の空席に座る。
少年は、座っている人の顔をまじまじと眺める。
どの人も凄い威圧感を放っており、身心共に疲れている様に見える。
静かな時が流れる。
少年がソワソワし始めた時、少年の後ろにある扉が開かれた。
少年がそちらを向くと、グラッドと、グラッドにが抱えられたミュアが入って来た。
グラッドは険しい顔をしており、ミュアはどこかをボーッと眺めている。
グラッドは少年の横に座り、ミュアを椅子に座らせてやる。
椅子に座ったミュアだが、心ここに在らずという様な感じで、まるで抜け殻の様にボーッとしている。
「ミュ…ミュア?」
少年が小声で名前を呼ぶが返答はない。
少年が今までに無い反応に焦っていると、グラッドが話しかけてきた。
「ミュアはな…いや、後で話そう」
グラッドの中途半端な態度にモヤモヤした少年だが、仕方なく俯いて待つ。
すると、国王に側近が耳打ちをする。
そして、国王は立ち上がって口を開いた。
「よく集まってくれた。今回の会議は、勇者の軌石が見つかった事についてだ」
『!!』
その言葉を聞いた大臣達が驚きの表情を浮かべる。
国王はソレに構わず続ける。
「先日、そこにいる少年と少女の住む小屋から見つかった。その通りだな?」
国王は少年達とネールナルに確認する。
「はい、その通りです」
ネールナルが頷くと、国王は話に戻る。
「それでだが、少年よ。お主に聞きたい。何故あそこにあったのだ?」
話を振られた少年は、突然の事にオロオロする。
そんな少年を見たネールナルは、少年を宥める。
「大丈夫、落ち着いて。国王様は、あの小屋にあった緑色の石について聞いているんだよ」
少年はその優しい言葉で落ち着きを取り戻し、ゆっくりと話し始める。
「あの石は…スラムで拾って…綺麗だったのでミュアにあげたんです…」
その言葉を聞いた国王は頷くと、低い声で話す。
「それは、勇者の軌石だと知らなかったのか?」
少年はその声に恐怖し、泣きそうになりながら答える。
「知らなかったです…」
国王の表情は穏やかなものに変わる。
「そうかそうか。いや、すまない。念のためだ」
少年はハーッと息を吐き、全身の力が抜けた感覚を覚える。
「もし知っていたら罪に問う場合もあるが、大丈夫だろう。こんな小さい子達がやるわけ無い。では、三人共ご苦労だった。退室して良いぞ」
国王は少年達三人に退室を促す。
少年は立ち上がり、グラッドはミュアを抱え、真っ直ぐ扉へ向かって行った。
扉の前で放心する二人、ミュアはグラッドに抱えられたまま無表情で放心している。
それに気がついた少年は、グラッドにその事を聞く。
「あの、ミュアは大丈夫なんですか?」
グラッドは険しい表情を浮かべ何か葛藤の様なものが垣間見える。
グラッドは少し考えた後、息を吸い込んで覚悟を決める。
「あのな、ディース。ミュアはな、心が壊れちまったんだ」
ソレを聞いた少年は、少しの時間心の中で整理した後に理解し、全身に力を入れ、下唇を噛み、涙を流す。
「ミュアは!悪く無いのに!」
少年は大声で怒りの言葉を放った。
そして、自責の念を唱える。
「俺が悪いんだ…俺が居てやらなかったから!俺が俺がぁ!」
少年は膝を突き、絶叫する。
グラッドはすぐに少年を抱きしめ、共に涙を流した。
「すまない!すまない!」
ミュアは心が割れてしまった。
そして、少年の心のヒビは、広がり始めていた。
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