五十九話 乗っ取り
ナレスは、ネールナルの言葉に疑問を持った。
「ちょっと待ってください。もしかして、祖国に居た時にも内に潜む邪神が表に出てきた事があるんですか?」
「ああ、あるとも。それも、先程みたいな可愛いものじゃ無い暴走し、幾人か死人も出たよ」
「……」
少年は頷いてその話をに肯定する。ナレスは、思っていたよりも深刻な現実を思い知る。
「それって!少年がいつか乗っ取られるんじゃ無いですか?」
「「っ!!」」
少年とネールナルは思ってもいなかった意見に、驚愕の表情を浮かべる。
「少年は、よくはわかりませんが、謎の液体を集めてます。それを口にすると、まるで豪華なディナーを食べたかの様に恍惚とした表情をうかべるのです。あまりにも不審すぎます。また、少年はその液体の場所を大まかに察知する事ができます。これは、少年の内に潜む邪神が操っている証拠では?」
「確かにそうだが、俺を操ってどうするんだ?その邪神って奴は、何が目的だ?」
「それはわかりませんが、最終的には少年の身体を奪うのではないのでしょうか?」
ナレスの言葉の後に、沈黙が流れる。少し、気分が優れないのか、少年は肩を落として路地を後にしようとする。
「少年!そう落ち込むな…」
ネールナルが声をかけると、少年は立ち止まった。一呼吸置いてから少年はそのまま叫ぶ。
「落ち込むなだって!?こんな…数ヶ月旅をしているのに、邪神の血液を飲んでから相当経っているのにまるで気が付かない。少し考えればわかった事だ。飲むだけで力が増し、次の場所がわかるようになるなんて、おかしかったんだ!旅でテンションが上がりすぎたか?過去にあったできごとで脳が腐ったか?神官の拷問で雑菌でも入ったか……?俺は少し休むよ。ごめん。ネールナルさん」
少年が立ち去り、残された二人は気まずい空気に包まれていた。ギクシャクとしながら路地から出る。もちろん、警戒は怠らない。邪神教の追っ手が見逃してくれたとは限らないからだ。少年が命令していたが、それでも、高すぎる忠誠心で暴走する刺客が居るかもしれない。ネールナルがそう気を張っていると、ナレスが俯きながら話しかけてきた。
「少年とは…ナパージャで出会ったんです。少年の戦闘に私が割り込み、協力して敵を倒したんです。それから、私は少年に頼んで旅に同行させてもらっているんです」
「そうなんですか。少年は旅ではどのような振る舞いをしているんですか?」
ネールナルの質問に、ナレスは少し記憶を辿ってから答える。
「少年は、一見警戒心の高い孤狼の様ですが、心を許せばかなり軟化します。私に関しては、まるで妹とでも思われてるのか、たまに頭を乱暴に撫でられるです。少年は弱者に対して優しい。まだ、弱者と言える者と関わってはいないのですが、少年の子供に向ける瞳には、優しさが詰まってます」
「そうか。じゃあ、国に居た頃とあまり変わらないのか。少年には、一時期荒れていた時期があったのだが、それでも向かってくる者しか相手をしなかったのだ。面倒臭い絡み方をした奴らと争い、敵を増やしていた」
二人が話をしながら街を歩き少年を探していると、少し歩いたところで少年を見つけた。ただ、何やらトラブルがあったらしく、冒険者と見られる大男二人に絡まれていた。
「少年っ!どうかしたんですか?」
ナレスはトラブルを上手く解決しようと駆け寄ろうとするが、不意に肩を掴まれて足を止める。
「っ?どうしたんです?肩なんて掴んで…」
ナレスがそう言いながら振り返り、肩を掴むネールナルの手をどける。ネールナルは少し険しい表情でナレスの向こう側、少年を睨む。
「ナレスさん。様子がおかしい」
「え?トラブルだからそれは当然で…」
「違う。少年のだ。一見手を出さないよう俯いているように見えるがっ!気配がおかしい!!」
ネールナルは語気を強めながらそう説明し、弾かれるように駆け出した。
「やめろ!少年!手を出しちゃいけない!」
ネールナルはそう叫ぶが、少年は聞こえていないのかはたまた無視をしているのか、反応は無かった。しかし、次の瞬間、少年の肩を掴もうとした大男の腕が弾けた。
「っ!!」
「しまった!」
ネールナルは少年を羽交締めにするが、時すでに遅し。大男は肘から先の無い、血の溢れる腕を見るや否や、大きな声で絶叫する。
「うわぁぁぁぁぁっ!!いでぇ!痛えよぉ!!」
絶叫しながらも経験からか自分の腕を必死に掴んで血を止めようとする。もう一人の大男はと言うと、相方が止血しようとするのを確認すると、すぐさま仇を討つべく少年に向き直る。
「テメェ。何しやがる。今、お前は人の腕を吹き飛ばしたんだぞ」
ただ、冷静になろうと息を荒くして少年を非難する。対する少年は相変わらず俯いている。
「少年!何があったんだ!説明してくれ!何をやって、どっちが先なんだ!?」
ネールナルは叫ぶ。しかし、少年は反応しない。
「そいつはおかしいぜ。もし、あんたがそいつのお仲間なら、今すぐ縁を切ることを勧める」
大男はそう言うと、背中の大楯と大剣を手に取る。
「離れな。兄ちゃん。こいつは危険だ」
「やめてくれ!謝るから、金ならある。それか、私の命でどうか」
「無理だ」
ネールナルは必死に許しを請うが、その言葉は無情にも遮られてしまった。
「やらかしたそいつが反省しているようには見えねえ。もし気狂いだとしたら、野放しにした時点で人に危害が及ぶ。命までは取らずとも、縄にはついてもらう」
大男は大楯と大剣をさも普通の盾と片手剣のように軽々と構えると、盾を突き出して前進してきた。
「少年!逃げてくれ少年!」
ネールナルは少年を揺さぶる。少年は動かない。
「少年!正気に戻ってくれ!」
ナレスも駆けつけて揺さぶるが、どうにもならない。大楯が、壁のように迫る。ネールナルは目と鼻の先まで接近した大楯を、少年の首根っこを掴んで共に回避した。筈だった。回避した後に横を見ると、そこに少年はおらず、確かに掴んでいた感触だけが残っているだけだった。
「っ!?」
焦って顔を上げると、今まさに大男の背後から襲い掛かろうとしている少年が居た。
「止めてくれ!ナレスさん!」
「止まりなさい!少年!」
ナレスは少年を制止するべく、手から風魔法で突風を放つ。それをもろに食らった少年は、まるで車に轢かれたかのように勢いよく吹き飛んだ。
「すまねえ嬢ちゃん。…あんたも仲間か?」
大男は攻撃を防いでもらった礼をしつつ、少年とナレスの関係を問う。
「そうだ。何か不都合でもあるか?」
「無い。が、あんたら、アイツの何が良いんだ?無愛想で何考えているかわかりゃしねえ」
「違うんです。少年は本来、ぶっきらぼうながらも面倒見の良い人なんです。今の彼は…何かがおかしい」
「それで相方の腕を吹き飛ばした言い訳にはならねえぞ」
大男は非情にも冷静な判断でナレスを突き放す。吹き飛んだ少年は綺麗に着地すると、何かを呟きながらふらついている。
「少年!もしかして乗っ取られそうなのか!?耐えるんだ!少年!」
少年はまるで錆びついたブリキの玩具のようにギギギッと不気味に首を傾け、頭痛を抑えるかのように頭を掴む。
『わ…俺は…神なんだ…呑まれは…する…ない…」
「っ!少年!自我を取り戻せ!」
少年は内に潜む邪神から身体の制御を奪おうと必死に足掻くが、力が拮抗しているのか言葉の中に度々神の意思が入ってきている。
「お前の…目論見通りには…させ…る…違う…!させな…い!」
少年は叫びながら腕を広げて何かをを弾くような仕草を見せる。
「今回は勝てたぞ…」
少年は主導権を取り戻したらしく、息を荒らげながらさりげなくガッツポーズをする。
そんな少年を安堵した表情で見ていたナレスとネールナルだったが、少年の背後に迫る危機に気がつき、二人でそれの事を伝えようと叫ぶ。
「少年!後ろ!」
「さっきの男が!」
その瞬間、少年に影が落ちる。影の正体は、両手で少年に掴みかかろうとする片腕を破壊した大男だった。
「よくも俺の腕を!ちくしょぉぉぉぉっっ!!」
欠損した腕も使い、少年を捕らえようと両手を振り上げる。少年は先程の邪神とのこともあり、息が上がり反応が遅れてしまった。
(しまっ…)
『誰に手を出している』
突然、少年の口が勝手に動き、禍々しい言葉を吐いた。
(こいつ!取り返されたふりを…!)
邪神は少年の身体を乗っ取ると、口を三日月形に吊り上げながら右手を突き出した。
「めろ…やめろぉぉぉ!!」
少年の悲痛な叫びが木霊した。
読んで頂きありがとうございます。
誤字脱字などがありましたら教えて頂ければ幸いです。
評価や感想などもお待ちしてます。




