五十八話 懐かしい人物と
少々遅くなりました。本当は早く投稿したかったのですが、あまり案が浮かばなかったのと、立て続けに用事が入った事により遅れてしまいました。次回からはなるべく早く完成させられるように努めます。
霊華一行が死闘を繰り広げる最中、少年とナレスは深い森を抜けてマール共和国に辿り着いた。ヤマールと呼ばれるこの街はマール共和国でも特に人の多い場所で、街と自然とが上手く調和を取り合って創り出される美しい街並みは、大陸一とも言われる程である。
「この街には特に用は無え。中継地点だ」
「休むのも大事ですからね」
二人は一緒に街を見て回る。至る所に小さな林があり、木々の間を縫う様に遊歩道が通っているのでそれを通る。木々の隙間から大きな建物が見えるその光景は、異質とも捉えられる。何とも言えない美しさを体感しながら散策していると、ふと、遠くに居る人物に目が止まった。酷くやつれた姿だが、それは常に周囲を警戒しているからだとすぐわかる。隠しきれない体格と、まるで猛獣の様な鋭い目つきは敵を寄せ付けず、何人たりとも見逃さないと言う意思が滲み出ているそれは、長閑な街中では異彩を放っていた。
「もしかして…っ!」
すると、少年は驚いた表情になり、すぐさま木の後ろに隠れた。
「何をしてるんです?」
ナレスはその行為を懐疑的に思いながらも一緒に隠れる。少年が覗く先に居る男性は、グッタリと首を垂れて項垂れている。
(あれは恐らくネールナルだ。だがなぜあの人がこの街に…?)
そう、その人物はあのネールナルだったのだ。以前と全く違った見た目だが、少年は仲良くしてくれていたので、顔を見ただけでわかった。基本、シュルルーシ国の騎士をしていた彼が他の街に行くなどと言うことは無い。例え国王命令の出張だとしても、これ程までにやつれるという事は無いだろう。
(話を聞いてみるか…?)
少年は拳を握りしめて覚悟を決め、木の後ろから飛び出す。
「あ、待ってよ!」
その後ろを遅れてナレスもついて行く。少年が一直線に向かって行くと、それに気がついたネールナルが鋭い目つきで少年を睨めつける。しかし、少年の顔を見た瞬間に表情が変わり、驚いた様な、昔を懐かしむ様なものになった。
「久しぶりです。ネールナルさん」
そう声をかけると、ネールナルは少年を少年だと確信し、表情をより一層軟化させる。
「久しぶりですね。少年、元気そうでよかったです」
「そんなことは無いですよ。苦労ばかりです。ところで、ネールナルはこんな所で何を?」
「話せば長くなるのですが…」
ネールナルはこれまでの出来事を話し始めた。それは決してほのぼのしたものでは無かった。
「君が国を出てから少しして、シュルルーシ国の民は皆、ある洗脳をされたのです。それは、勇者についての洗脳。勇者は素晴らしいものと刻み込まれた私達は、勇者に対して強い畏敬の念を覚えました。そして、勇者が召喚された瞬間、その畏敬の念は強い憎悪に変わりました。なぜかはわからないですが、洗脳が上書きされました。さらに、勇者は女神教の信者だと言う情報も刻み込まれることとなりました。ただ、私だけは洗脳が甘かったのか、他人との考え方の差異に気がつき、無事解くことができたのです」
「成る程…要するに、集団洗脳があったが、それから脱することができたと。で、その後に貴方も追われる身となったと言うことですね?」
「理解が早くて助かります。慣れない一人での旅で酷く疲れてしまってね」
少年とネールナルだけで会話し、納得していると、上手く理解できなかったナレスが割って入って来た。
「ちょっと待って下さい。どう言う事ですか?えっと、少年とネールナル殿は知り合いで、シュルルーシ国の集団洗脳から脱したと。なのになんで追われて逃亡してきたんです?」
ナレスの疑問に対し、少年は苦笑いをして丁寧に説明しだした。
「あのな、洗脳ってことは首謀者が国を操りたいってことだろ?」
「はい…」
「なら、洗脳が解けてしまったイレギュラーであるネールナルは邪魔だと。たった一人ごとき殺してしまった方が楽だ。全ての民がネールナルの命を狙い、追われる身となった彼は必死にここまで逃げて来たと言うわけだ」
「あ、そう言うことでしたか。理解力の無い私に丁寧にありがとうございます」
やっと理解ができたナレスはポンっと手を叩き、頭を軽くぺこりと下げる。そうやって和気藹々としていると、ネールナルが唐突に立ち上がり、辺りをキョロキョロと見回し始めた。その理由がわかった少年は、ナレスに耳打ちして理由を教える。
「近くに追っ手があるみたいです。公園と言う平和な場にいつまでも居るのは近隣住民にとっても不気味ですから、街中に行きましょう」
ネールナルはそう言うと、足速にその場を去る。少年達もそれを追いかけ、街中の袋小路に辿り着いた。路地の奥地、空がより遠く感じる閉所的なその場所は、なにをするにもうってつけそうであった。
「少年、巻き込んですまない。ここなら民達にもバレず、不安を与えることは無いだろう」
「貴方はいつだって他人本位だ。昔の借り、返します」
「少年が手伝うと言うのなら、B級冒険者ナレス・デンルーナとして手を貸します」
三人が背中合わせに立つと、周囲で抑えていた殺気があからさまになるのを感じる。バレていることが明確にわかり、抑えていても意味が無いことを悟ったのだろう。数は約8名、一人の人間を殺すのには少し多いとも感じられるが、それだけネールナルが手強いと言うことだ。
「来るなら来いよ。遊んでやる」
少年がそう挑発すると、一人が先頭切って肉薄をして来た。少年は右手を大剣の柄に当てたまま、刺客が攻撃しようとナイフを振りかぶった腕を蹴り上げる。そして、腕が持ち上がった所に大剣を振り下ろし、真っ二つに切り裂いた。
「弱い。次」
少年がそう言って大剣の切先を刺客達に向ける。しかし、思っていた反応は返ってこなかった。なんと、刺客達は少年の前に跪き、頭を下げていたのだ。
『ご無礼をお許しください。邪神様。我々邪神教教徒は、貴方を精一杯崇め奉らせて頂きます』
刺客達が一斉にそう唱える姿に三人は唖然とする。しかも、伝える相手はまるで面識も無い少年であり、異様な光景であった。
「どう言うことです?少年。彼等とは面識は…」
「無い。と言い切れます。これは異常です!」
「邪神教…女神教の対抗勢力であり、大陸の二大宗教ですよ…そんな大きな団体がなぜ少年を…?」
三人全員の頭が混乱し、目の前に居る刺客も放っておいて心を落ち着ける為に適当に思い浮かんだ言葉を呟く。
『神よ!』
しかし、刺客の声で現実に引き戻された。刺客は少年の意識が自分に向いたことがわかると、ゆっくりと口を開いた。
『神よ。そこに居る裏切り者の処遇はいかがしましょうか』
それを聞いた瞬間、少年の表情が一気に険しくなった。鬼の様な形相で震える少年は勢い良く手を振り上げ、そして先頭の刺客目掛けて振り下ろした。腕が抵抗なく刺客の頭を破壊して振り抜ける。辺りに飛び散る脳髄や血液も他所に、少年は憤怒の言葉を吐く。
「見てわからないか?この方は俺の友人だ。何人もこの方を傷つけてはならない。貴様等には、一人の裏切り者を追うよりも、他にすべき事がある筈だ。この大陸にある、俺に有用なものの一つや二つ探して来い」
『はっ!!』
彼等はそう返事をし、散り散りに消えていった。少年は散って行ったのを静かに見つめ、じっとしていた。刺客の異様な行動と少年の放った言葉に、脳内の情報が混乱しているネールナルとナレスの二人だが、暫くしてやっと現実に戻り、未だ動かない少年の肩を叩く。
「少年、大丈夫か?」
「これからどうなるんだ?」
二人でそう言って肩をグイッと寄せると、少年はバランスを崩してよろける。
「「少年?」」
そして、数秒後にハッとして左右を見た後、後ろを向いてネールナルとナレスを見た。その眼には、困惑と不安の感情が浮かんでいた。
「もしかして、少年、あの言葉は全部無意識だったのか?」
ネールナルがそう聞くと、少年は頭を抱えて記憶を辿り始めた。
「いや…わかってるんだ。意識はあった。だけど、自分が自分じゃ無いみたいに…まるで夢の中の自分を見るかの様に朧げだったんだ…」
少年の言葉に、ネールナルはあることを確信した。そして、その導き出した答えを少年に伝える。
「少年、もしかして、君の中にはまだ邪神が潜み、そして君を操って居るのか?」
その言葉で少年は、驚愕と納得の入り交じった表情になった。
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