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全テをハ壊スル者  作者: 南十字
三章 平和を探して
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五十七話 未来を覗く理の眼

 激しい打撃音が辺りに鳴り響く。嵐の様に苛烈で強烈な拳を、まるで川が流れるかの様にひらりひらりと刀で受け流す。武であり、舞であるような刀の軌道に翻弄されている男の表情は、存外、悪くは無かった。初めて見る物に心躍らせる子供の様なその表情に、霊華はニヤリと笑う。


「ハッ!隠しきれてねえぞ小僧!神だなんだって言ってたのはなんだったんだぁ!?」


 激しい戦闘をしているからか、荒っぽい口調で男を煽る。その間も攻撃の手は止まず、かれこれ数十分は攻防を続けている様に思える。細かい切り傷だらけの男とは対照的に、霊華の身体は一切の傷が無い。


(凄い…!お兄ちゃんが全ての攻撃を受け流して、更に攻撃も加えてる!まるで、まるで未来でも見えてないとできない芸当だわ!)


 周りの野次馬も、その攻防を固唾を飲んで見守る。同じ様に見ていたカーター一行は、自分達では足手纏いになることを薄々、いや、改めて実感していた。


「おいおい…協力するとか言っちまったが、これじゃ手も出せねえ。怪我人を見守ってることしかできねえな」


 ガットは呆れた様にそう言うと、腕を組んでまた傍観を決め込む。

 ただ、互いに決定打を相手に与えることができずに苦戦している様子だ。すると、男は何を思ったのか、突然バックステップで霊華から距離を取ろうとする。しかし、霊華はそれを許そうとせず、大きく一歩を踏み出しながら刀を袈裟に振るった。


「やった!嬢ちゃんがデケェ傷を与えた!」


 ガットは興奮気味に歓声をあげる。

 流石に効いたのか、ボタボタと大量の血を滴らせながらふらつく。


「なぜ…なぜ距離を取ることがわかった?筋肉の動きを見ていると言えばそれまでだが、見る限りそうでは無い。お前には何が見えてる…?」


 男の疑問に、霊華は攻撃の手を止めて自慢げに答えた。


「俺の左眼は未来を見ることができる。お前の数秒後の未来の動き、魂の位置を見ることができる」


 男は、その答えを静かに聞くと、自分の顎を指で触れながら疑問をポツリと漏らした。


「それならば、なぜさっさと殺さない…?」


 すると、霊華の表情が見るからに固くなった。霊華は答えるべきか少し悩んだ後、観念して言葉を吐き出す。


「それは、俺の力が弱体化してるからだ。俺は数百年の時を生き続けた。巨大な力が魂を擦り減らすとは知らずに使い続けた。その結果、俺は力を使うごとに弱体化し、ついさっき死から復活した際に殆ど使い果たしてしまった。今残るのはこの未来視とただの残火のみ。ま、お前ごときならこれで十分だ」


 霊華はそう言い切ると、刀に炎を纏わせて駆け出した。ただ、その炎には今までの勢いは無く、ただ暖炉の火をそこに移しただけの様な頼りなさがあった。


「桜火乱舞・波ノ華!」


 霊華が繰り出したその技は、刀を真横に一閃するもの。纏った炎を波の様に爆ぜさせ、相手の肉体を抉りながら燃やす。男は避けようとしたが、未来を見る霊華の刃から逃れる事はできず、胸に刻まれた刀傷の上から更に肉を抉られてしまう。


「痛みなど通用しない!ハアァァァッ!!」


 男は急に雄叫びを上げ、拳に魔力を込める。そして、力一杯霊華に向けてパンチを放つ。到底届かない距離だったが、魔力を纏っていた所為で魔力波が猛烈な勢いで放たれる。


「忘れたか?俺は未来を見れる。桜火乱舞・蓮華」


 しかし、霊華は未来視でそれを察しており、刀で衝撃を四方八方に逃して威力を大きく減衰させた。


「お前の魔力、借りるぜ」


 更に、刀で逸らした魔力を利用し、攻撃に転じる。刀に纏った魔力は炎の糧となり、炎の大きさが以前のものと同じ程度まで大きくなった。


「あ〜…美味い。お前の魔力は美味いと炎が歓喜してやがる」


 炎が勢いづいたせいか、霊華のテンションが今までで一番高潮している様に見える。天を仰ぐその頬は紅く染まり、妖しくも艶やかな気配が放たれる。

 何かを察したのか、男は焦った表情で距離を取り様子を見る。


「ハハハハハハハッ!!」


 霊華は高らかに笑うと、鎬を一撫でして刀の炎を全て左手に集める。そして、強く握り込んで力を高める。


「逃げられると思うなよ!!月燐(げつりん)華ノ子招キ」


 そう言い放ちながら手を振るうと、炎が周囲を囲い炎の一本桜が見事に開花した。散りゆく花弁はその形を変えて炎の狐に転じる。


「コレはッ!?」


 唐突に男が悲鳴の様な声を上げる。当然だ、自分の身体のあちこちから炎が上がっているからだ。燃え盛る最中、自分の手のひらに桜の花びらが触れる。その途端、花びらは小さく爆ぜ、手を燃やす。


「花びらに触れたらアウトッ!クソオォォォォォ!!」


 男は咆哮を放って濃密な魔力を解放する。


「消えろぉぉぉッ!!」


 しかし、炎は消えるどころか、純粋な酸素を与えられたかの様に煌々と輝き、その大きさを増す。


「なぜ…っ!もしや魔力!魔力を喰らって燃えている!」


 先程の霊華の話を思い出して魔力を抑える。すると、手がつけられないほど燃え盛っていた炎が、まるで灰の中の種火の様に小さくなった。


「だが…これでは身体強化ができない」


「その通り。この技は相手の動きを阻害する。そして、自らの力にバフを掛ける!!見ろ!俺の後ろにある桜の木を!太陽の様な火球を!これがある限り、全盛の頃の様に炎を使える!」


 霊華は照準を合わせるかの様に切先を男に向ける。


「名乗れ。お前の名を」


「名は無い」


「名乗れ。お前の名を」


「……」


 何を言っているのかわからないと言う様な表情で沈黙する男。霊華はやれやれと言いたげに肩を窄め、もう一度名を聞いた。


「お前の名を、名乗るべきものを名乗れ。それは人に付けられるものでは無い。己で誇り、名乗るものをだ。」


「名乗るべき…もの…そんなものは…無いと言っているだろ!」


 男は急に地面を蹴って肉薄する。身体強化ができなくとも、その速さは常人のものを遥かに凌駕する。

 霊華の頭に向けて放たれた上段回し蹴り。しかし、霊華は屈むようにして避け、前方に寄った重心を利用して男を左肩で突き飛ばす。そして、体勢が崩れた男に対して、炎で創り出した狐を向かわせる。狐達は鋭い歯で喰らいつくも、男が暴れた事により振り払われてしまった。


「こんなものッ!」


 振り払った狐の頭部を掴み、握りつぶす。男の表情からは、憤怒の感情が読み取れる。


「こんな強大な力があるのならば!すぐに俺を殺せ!」


「…それはできない。いや、したくない」


「なぜ…?」


「強者の名を聞かずに殺すのは惜しいからだ」


 その言葉を聞いた途端、男がハッとした表情となる。そして、憤怒の感情が顔から剥がれ、戦いを楽しむ様な表情に戻る。


「そうだな…名乗ろう。名はルシエル…ルシエルだ!」


「よく名乗ってくれた。俺の名は霊華、そして焔木延治だ」


「感謝するぞエンジ。そしてさようなら」


「ああ、惜しいよ」


 延治、もとい霊華は寂しそうにそう言い、手のひらを上にして手を突き出す。


「集い、還れ、生命よ。母なる海を創りし業火よ。今その力を我に貸し与え給へ。無慈悲な世に片時の安らぎと解放を。桜花と共に」


 詠唱が始まると、手のひらに周囲の炎が集まり出す。それは己で創り出した狐や桜も例外では無く、全ての炎が渦を巻いて一点に集う。


桜花(おうか)()()()・春爛漫」


 濃密に渦を巻く火炎は、放たれるや否なや、解放されたと言わんばかりに膨れ上がり、地面を削りながら突き進む。火炎が通った跡には、まるで桜前線でも通ったかの様に花々が咲き乱れ春景色を創り出した。


「最後に全力をありがとう。身体強化レベルMAX!衝撃魔法・コンプレッションインパクト!!」


 ひしと握った拳に魔力を、生命力を込め、大きく振りかぶってぶん殴った。渦を巻く火炎と、生命力すら込めた拳がぶつかった瞬間、激しい衝撃波が周囲に広がった。

 読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字などがありましたら教えて頂ければ幸いです。

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