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全テをハ壊スル者  作者: 南十字
三章 平和を探して
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五十二話 再戦、ヤマタノオロチ!

 藤也とアンが兎を探しているのと同時刻に、霊華は森の上空を飛んでいた。重く首を垂れる曇天の下、炎の勢いを推進力に、ハヤブサなんて目じゃ無い程の速度で飛行する。街を出発してから五、六時間経った頃、地平の向こうに木々とは違う何かが見えた。細長いそれは八本ほどあり、空に向かって伸びている。


(見えた…!ヤマタノオロチ!)


 その正体は、いつかの霊華達に襲いかかった巨大なヤマタノオロチだった。ヤマタノオロチは、上空に向かって煙の様なものを吐き出している。それも、短時間では無く、見える前からずっと吐き出している様だった。


(何やってるんだ?)


 謎の行動を疑問に思い、ヤマタノオロチ周辺を観察する。ヤマタノオロチの上空だけやけに雲が低く、光を遮っているのか影ができている。


「雲を作ってるのか?」


 そう考え、口に出した瞬間、上空から謎の気配を感じた。すぐさま身体を反転し、高温の炎を思い切り放出した。途端に、目の前に白煙が発生する。


「なんだっ!?」


 白煙を吸い込まない様に脱すると、またもや気配を感じる。今度は速度を上げて避ける。そして、正体を確認するべく後ろを振り返る。


「なんだって!?」


 そのまさかの正体に、驚愕の声を漏らす。端的に言えば、その正体は雨粒だった。しかし、雨粒と言うには余りにも速かった。雨粒が物凄い速さで地面に落下する。雨粒は木の葉どころか、木々を貫いて地面に落ちる。ハッとし、周辺を見回すと、大量の雨粒が空から降っていたのだ。目で見えない程の速度と、視界が白む程の量が落下しているため、地面をよく見れば銃跡のような穴が無数に空いていた。


「何故気づかなかったんだ…!」


 自分の鈍感さに呆れながら、身に纏う炎の密度と温度を上げる。コレならば、雨が落ちる前に蒸発させることができる。


「アイツの仕業ってわけか」


 霊華はヤマタノオロチを睨みつける。ヤマタノオロチが上空を向いていたのは、水蒸気を出して雨雲を作っていたからだった。水蒸気はあり得ない速度で飽和し、かつヤマタノオロチが操作した結果、木々を貫くほどの速度になっていたのだ。

 だが、対処ができれば何も問題は無い。霊華は速度を上げてヤマタノオロチに接近する。距離にしてあと数百メートル。その距離が、僅か五秒で縮まった。霊華は刀を抜き、頭の左で刀を構える。

 ヤマタノオロチも流石に霊華に気がつき、一本の首をこちらに向け、大量の水を吐き出してきた。


「うおぉぉぉぉぉぉっ!!」


 霊華は雄叫びを上げながら水に突っ込む。水を蒸発させ、空いた空間を突き進む。そして、タイミングを測って刀を振り抜いた。すぐに確認するべく、慣性を殺しながら振り向く。


「よし」


 霊華は小さく呟く。狙い通り、首を断たれて身体と泣き別れた頭が落下していた。

 霊華がヤマタノオロチに突っ込み、首を斬った。しかし、首を斬られたにも関わらず、頭部の無い首はウネウネと動いていた。

 霊華は、間髪入れずに次の攻撃を仕掛ける。電光石火の如き速度で肉薄し、一本の首を切り刻んだ。肉片と化した首は、大量の血液をぶち撒けて降り注ぐ。

 それを見届けた霊華は、着地して息を整える。流石のヤマタノオロチも怒ったのか、残った七本の首をもたげて、六つの頭で霊華を睨みつける。そして、身体全体をくねらせて霊華を轢き殺そうと迫ってきた。


「チィッ!」


 霊華は舌打ちをして間一髪で上空に逃げる。危なかったと安心した瞬間、背中に大きな衝撃が走った。


「な、何だ!?」


 何がぶつかったか確認すると、どうやら巨大な水塊が空から降ってきた様だ。水塊と共に落下しており、強い風圧で目が開かない。何とか片目を開けると、視界いっぱいにヤマタノオロチの顎門が飛び込んできた。


「うぉぉぉぉっ!」


 すかさず大量の炎を出して水塊を蒸発させる。高温の炎に焼かれたヤマタノオロチは地面に身体を擦り、のたうち回った。しかし、炎は消えずにやがて痙攣して止まった。

 それを見た他の首達は、一斉に霊華に襲いかかった。霊華は勢い良く小刻みに炎を噴射し、小さな動きで全ての攻撃を避ける。そして、上空に飛び上がり、ゆっくりと落下していく。それを好機と見たヤマタノオロチは、残りの首全てで霊華に喰らいつく。


「短絡的だな」


 霊華はそう呟くと、身体をくるりと反転させて頭を空に、足を地に向ける。力を入れて身体を窄め、一気に解放した。炎が霊華を中心に広がり、爆発の様な衝撃波が辺りを焦がした。数十メートル先にある木々が自然発火し、数百メートル先の果実が焼けて崩れ落ちる。その中心に一番近いヤマタノオロチにも勿論影響はあり、その首が一瞬にして焼けて爛れ、炭化して崩れ落ちた。


「はぁ、はぁ、まだ動くんだろ?」


 息を上げながら見下ろす霊華は、まだ警戒心を研ぎ澄ませていた。その言葉が伝わったのか、ヤマタノオロチの燃えカスから水が溢れ、ヤマタノオロチの形に成った。そして、全身を震わせて水を弾き飛ばした。水の下からは、元のヤマタノオロチが現れた。


「やっぱり一筋縄ではいかないか」


 一見余裕そうな霊華だが、内心かなり焦っていた。


(首を全て破壊しても死なない。それどころかあっという間に再生する。焼け残った身体の方もだいぶ焼け焦げて小さくなっていた…)


 そこまで考えたところで、ある結論に至った。


(奴は、不死身、もしくは核の様な何かがあり、そこを破壊しない限り死ぬことは無いってところか?)


 そうやって熟考していると、復活したヤマタノオロチが勢い良く水を放ってきた。


「おっと!危ねぇ!」


 我に帰ってそれを避け、ヤマタノオロチに火球を放つ。小さな火球はヤマタノオロチの頭部に当たるが、全く効いていない様だった。


「そりゃそうだよなっ!!」


 霊華はヤマタノオロチからの反撃を避けて肉薄し、力の限り刀で薙ぎ払う。


「桜火乱舞・桜渦」


 放たれる斬撃は霊華を中心に円状に広がり、ヤマタノオロチの首が断たれる。だが、先程と同じ様に再生し、間髪入れずに霊華に襲いかかろうとする。しかし、思っていた位置に霊華はおらず、首同士で攻撃をし合ってしまう。

 霊華はその様をヤマタノオロチの上空で眺めていた。桜渦で首を斬った後、すぐに高度を上げて居た。そして、片手を上げて炎を集める。炎はどんどんと巨大化し、その放たれる熱は太陽と間違えるほどである。やがて第二の真っ赤な太陽ができあがると、その手をキュッと握る。途端に炎球は圧縮され、一点の発光体に変化する。それは、太陽でも月でも無く、空に瞬く星の様であった。


夕星(ゆうずつ)


 その星をゆっくりと零すように放す。星はチラチラと瞬きながら落下し、自分の周囲を尽く溶かす。それはヤマタノオロチも例外では無かった。星を防ごうと噛みつくと、次第に焼け爛れ、仕舞いには自然発火をしてしまう。皮膚を溶かして外に出た星を、今度は大量の水が襲う。七本の首から放たれる水は、まるでダムから流れる水のようであった。その途方もない量の水であっても、星は何事も無く落下する。

 そして、星は隕石の様に地表に舞い降りた。その瞬間、視界が白に包まれたかと思えば、地を揺らす轟音と、岩石すら溶かす熱風が周囲数キロメートルを襲った。分厚い雨雲は消し飛び、地面には深さ数十メートルのクレーターが刻まれる。


「流石にコレでやられてくれるよな…?」


 上空で見守っていた霊華は、冷や汗を流しながらそう言った。爆心地からは真っ黒な煙が昇り、ヤマタノオロチの姿を覆い隠す。


「コレじゃ見えねえなぁ。桜火乱舞・桜風」


 地面に向けて刀を円を描く様に薙ぎ払い、渦を巻く炎の風を放つ。桜風は地面を吹き抜け、煙を追いやった。


「やっと見えたが…どっちだ?」


 そこには黒い炭の塊があり、再生しようと水で身体を作るが、上手く作れないのかスライムの様に蠢いている。


「ヤマタノオロチって蛇か何かだよな。この姿を見ると、醜い化け物としか思えないな」


 地表に降り立ち、ゆっくりとヤマタノオロチであった物質に近づく。その水塊を眺めていると、急に震え、水が棘状に変形して周囲に襲いかかった。


「うわっ!」


 霊華はそれを避け、すかさず炎を放つ。炎は水を蒸発させ、炭が露出する。そして、炭の塊を強引に捕まえた。

 塊の大きさは直径が五十センチメートル程度で、ヤマタノオロチの面影は一切無かった。刀を取り出し、丁寧に切れ込みを入れると、中から青い輝きが放たれた。


「こ、コレは!」


 炭の塊の中から、深海の様な深い青色の宝石の様なものが出てきた。


「コレがヤマタノオロチの魔石!」


 霊華が魔石と呼ぶそれは、蛍の光の様に穏やかな点滅を繰り返し、生きているかの様に胎動していた。それを取り出すと、水を使っていた炭が崩れ落ちてしまった。


「勝った…勝ったぞ!」


 魔石を抱えた霊華は、跳びはねて喜びを表現したのだった。

 読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字などがありましたら教えて頂ければ幸いです。

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