五十一話 初めての依頼
昼食を終え、ギルドにやって来た三人。先日の出来事もあってか、入ってからずっと視線を感じる。アンと藤也の二人はその視線を感じて嫌な気分になっていたが、霊華は全く気にせずに受付まで歩く。受付に居る職員が霊華の威圧感に気押されながらも対応をする。
「こんにちは。ご用件をお伺いします」
「この二人に依頼を受けさせたくて来ました。つい先日登録したばかりなので、それに見合ったものを頼みます」
霊華の丁寧な口調が意外に思ったのか、きょとんとして反応が遅れる。
「あ、わかりました。では…こちらの依頼掲示板から依頼を確認できます」
その職員はカウンターから出て早足で掲示板の前まで行く。そして、そこに貼ってあった依頼の紙を手に取り霊華に渡す。
「そちらはFランクの依頼で、薬草採取となってます。街付近の草原に生えている薬草を二十本以上取ってくるだけの簡単なものなので、危険も無くやりやすいと思います」
職員の説明を聞いた霊華は、少し難しい顔をして思案する。少しの間を空けた後、首を横に振って依頼の紙を職員に返す。
「コレじゃあ簡単すぎますね。もう少し難しい…危険度の高いものがいいのですが…」
例えば、と言いながら霊華は一つの依頼の紙を手に取る。
「これとかですかね。ランクは…Fランクですね。コレにします」
「わ、わかりました。野兎五匹の狩猟で間違いありませんね?では、ギルドカードの提示をお願いします」
藤也とアンはギルドカードを職員に渡す。職員はギルドカードを受け取ると、そこに拳大の長方形の宝石をハンコのように押し付け、カードを返す。二人は返されたカードを不思議そうにマジマジと眺めている。
「依頼の期限は一週間。取って来たものはあちらの依頼達成報告カウンターにお願いします。素材の査定買取もそちらで行っていますので、もしあればそちらに持って行ってください」
「「わかりました!」」
二人は返事をし、振り返って霊華の指示を待つ。霊華はそんな二人に目配せをした後、ギルド職員に視線を向けた。
「あの、ギルド長って今いらっしゃいますか?少し話したいことがあるのですが…」
そう伝えると、ギルド職員は困った顔をして唸った後、申し訳なさそうに答える。
「ギルド長は多忙なお方なので、すぐに話はできません。用件を私が伝えておきますので、その後判断してもらいます」
すると、霊華は少し考えてから用件を話す。
「わかりました。では、用件を言いますね。『私のギルドカード登録についてお話がしたいです。その時に、私が本物であることを証明するものを携えて来ますので、一目でも見てくださると幸いです』これでお願いします」
ギルド職員は、一字一句漏らさずにメモ帳に走り書きをし、霊華に確認させてからメモ帳を仕舞う。
「では、伝えておきますので、明日にまたお越しください」
「ありがとうございます」
霊華は律儀に礼をすると、踵を返してその場を後にする。
「よし、取り敢えず一息吐くか」
そう言って、腰を下ろせそうな手近な空席を探す。丁度良い席が見つかりそこに座った。
「師匠、なんだか疲れてますね」
「精神的にきてるみたいだな…ま、この後リフレッシュしに行くし、その間に依頼を達成させとけ」
霊華が机に突っ伏してぐでっと溶けながら言ったその言葉にアンが反応する。
「え?お兄ちゃん、一緒に来ないの?」
「俺は行かないぞ。少しでも早く自立してもらいたいからな。依頼は基本二人だけで進めて俺は別で動く。わかったな」
「「え…」」
二人は不安そうに目を泳がせる。だが、霊華の真っ直ぐな視線で現実を理解すると、藤也は頬を叩いて気合いを入れる。
「よし!やるぞ!」
すると、アンもそれを真似てか、頬を叩いて立ち上がる。
「Fランクくらいパパッとこなさないとね!行こう藤也!」
二人は席を立ち上がると、緊張した面持ちで歩き出した。少し歩くとふと立ち止まり、後ろを向く。
「師匠!」
「お兄ちゃん!」
「「行ってきます!!」」
二人の気合いの込もった声がギルド内に響き渡った。
それから二人は街を出て、高原へと繰り出した。街の近くは山の中でも起伏が穏やかで、街と森の間に草原がある。そこでは時折、兎や狐などの小動物が見られる。それを狙ってここに来たのだ。
「野兎ってどこら辺に居るのかな…」
「森の近くに居るんじゃない?天敵が来てもすぐに逃げ込めそうだし」
「そうだね。じゃあ、森との境界にそって探そうか」
すると二人は、早速兎を探し始めた。しかし、いくら探しても兎が見当たらない。このまま闇雲に探していれば、やがて日が沈んでしまうだろう。
「どうしよ〜…」
アンが意気消沈して頭を抱えていると、地面に転がっているあるものに気がついた。
「っ!ねえ!ねえ見てこれ!」
アンの興奮気味な様子に期待も上がる。藤也が駆けつけて、アンが指差す先を見てみると、黒っぽい丸い物体が沢山転がっていた。
「これってもしかして…」
「そう!兎のフンよ!」
アンはそう言って矢庭に兎のフンを拾い上げる。それを見た藤也はうわっと言う声をあげて顔を引き攣らせる。しかし、アンはそんなこと気に留めずに兎のフンを観察する。
「表面が湿っていて仄かに温かい…一時間も経ってない新しいヤツだ!」
アンはフンを投げ捨てると、数歩歩いてから地面に手をついた。
「アン…?」
急に立ち上がったと思えばピタリと動きを止めたため、不安に思う。ただ、固唾を飲んでアンを静観する。
さわさわと木々がざわめき、その音は次第に喧しい程に大きくなる。アンを中心に砂埃が舞い上がり、旋風が巻き起こる。
「何!?何事!?」
異常な事態に困惑する藤也。舞い上がった砂や小石が肌にぶつかり、煩わしさを超えて全身が痛みだした頃、アンは静かに唱える。
「収束し、発散せよ。小さき物、集いて散って、この世の全てを明かしたまえ。砂魔法・探求する砂嵐」
すると、渦を巻いていた砂が空高く舞い上がり、弾けるようにして散って行った。そして、元の静寂が訪れる。ただ、全てが元通りになっている訳ではなかった。空を見上げると、極々僅かに黄みがかって見える。どうやら極小の砂が空気中を漂っているようだ。
「今何の魔法を使ったの?」
藤也がそう聞くと、アンは汗を拭いながら答える。
「ふぅ、今のは砂を飛ばして広範囲を探る魔法だよ。砂の漂っている場所なら大体の地形がわかる。私のはお世辞にも精度は高いと言えないけどね」
苦笑いしながらそう言うが、何もわからずに探すよりは楽だろう。藤也がそう思っていると、早速何かを見つけたようだ。
「ここから北東の森に小さな動物が居る」
アンが森の中に入ってズンズン進んで行くので、藤也もそれについて行く。森の中は殆どが草木で覆われており、藪の中をかき分けて進まないといけない。アン曰く距離はそう離れていないようだが、数十メートル進むだけでもかなり体力が必要だ。幸いな事に、起伏はあまり無いので転落の恐れは少ない。
「静かに…そろそろ気付かれる距離だから、音を出さないでね…」
アンの注意に、藤也は頷いて反応する。そこからはしゃがんで、薮の下を通るような格好になる。数分後、薮が途切れて外の様子が見えた。開けた小さな場所で、一匹の茶色い兎が草を喰んでいる。一見警戒心が無い様に見えるが、その大きな耳はしきりに動いて辺りの様子を伺っている。
どう仕留めようかと藤也が考えていると、アンが小さな石の矢尻を作り出して宙に浮かべる。そして、人差し指と親指を立てて銃の様にし、石の矢尻を人差し指の指先に静止させて狙いを定めた。指先が震えて狙いが定まらない様だったが、集中力が高まり、震えが止まった。その数コンマ後、指先から放たれた石の矢尻は、まるで上空から獲物に襲い掛かる猛禽類の様な速さで兎の頭部を撃ち抜いた。
兎はキュイっという断末魔を最後に痙攣し、動かなくなった。
「…っ!やった!」
アンはガッツポーズをして喜びを表現し、すぐに兎の死体を回収した。兎の目の後ろに石が当たったらしく、それが脳を穿って致命傷になった様だ。
「よし、この兎は血抜きしてギルドに持って行こう」
アンはそう言って兎を持ち上げ、街と反対方向へ進んでいった。
「ちょっと!どこに行くの!?」
藤也は慌てて後を追いかける。薮を掻き分けてやっと追いついたと思ったら、急にアンが立ち止まった。
「?」
アンの行動を不思議に思いながらアンの視線の先を追うと、小さな泉があった。
「ここなら血抜きができるでしょ!」
アンはドヤ顔でそう言うと、徐に兎を泉に入れた。
「成る程、でもどうやってわかったの?」
「ほら、私が使った魔法って地形がわかるって言ったでしょ?」
「ああ!」
藤也は納得して手を叩く。アンの頭の良さに感心している間にも、血抜きは進んでいる。ついでに体表の汚れを落とし、泉から上げる。滴る水を砂魔法で吸い取れば、あっという間に血抜きが完了した。
「コレでいいでしょ」
「そうだね。今日は初めてだったし、一週間もあるから先に納品しちゃおう」
二人はそう言って、帰路に着いたのだった。
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