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全テをハ壊スル者  作者: 南十字
三章 平和を探して
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四十七話 因縁との対敵

 目の前の聖職者らしき人物が言った言葉に耳を疑った。驚き、硬直していると、聖職者らしき男がハッとして頭を下げる。


「すみません!いきなり失礼でした!私は女神教の信徒、パグラスと申します」


「はぁ、これは丁寧にどうも…」


 未だ整理がつかない頭で、パグラスの背格好を見る。身長は百六十センチ後半と少し小柄で、白と黒、金色の聖職者らしい服を着ている。サイズが大きいのかダボダボとした着こなしとなっており、頻繁に袖を持ち上げて袖から手を出している。


「あの、遠くから見てビビッと来たんです!貴方があの女神様だと思い、お声かけさせていただきました」


 パグラスは大きな声でそう言う為、横を通る人が皆こちらをチラリと見て物珍しそうに過ぎていく。


「伝承に伝えられる女神様は、さぞお美しいお方と聞いています。小川に映る蒼空のような髪色に、どんな願いでも聞き入れてくれるようなピンッと立った耳。そして、絹のような毛並みの尻尾…そんなお方を夢見ていたんです!」


 パグラスは、夢見心地でそう語る。霊華は困ったように頭を掻く。


「…どうしたもんかな。君、女神教の信徒だと言ったね。もし、私が本当に女神だとして、君は何を願うんだい?」


 そう聞くと、パグラスは慌てて取り繕うように答える。


「そんな、滅相もありません!女神様に願いをこうなど、失礼にも程があります。ただ、そこに居てくれるだけでいいのです。おお、女神様…」


 パグラスは急に跪き、両手を合わせて祈り始めた。


「お、おい!やめろ!俺は女神じゃない」


 すぐに止めさせようとするが、なかなか止めてくれない。気がつけば興味を持った野次馬達が霊華達の周囲を囲んでいた。

 霊華が野次馬達を見上げていると、ふと、何か邪悪な気配を感じた。一瞬見えた屋根の上に、二人の人影が見えた。そして、野次馬に遮られて次に見えた時には、もう誰も居なかった。



――――――――――――――――――――――――――



「ハァ、ハァ、ハァ」


 風車が回る塔の中で、少年とナレスが荒く息を吐いている。上を見上げれば、壁伝いに螺旋階段が伸びており、その真ん中にある木製の軸がグルグルと回転している。

 少年は回る歯車を眺めながら呼吸を整える。


(あのままあそこに居たら…俺は…)


 人混みの中心に居た女と目が合い、急に背筋が凍りついた。蛇に睨まれた蛙のように、一瞬全身の筋肉が強張り、動けなくなってしまった。どんな強敵と会った時にも感じられなかった、初めての感覚。

 少年は顔を片手で覆い、息を吐いた。息を吐くことで、恐怖感も身体から抜けた気がした。

 未だ震える手を膝に突き、勢いよく立ち上がる。


「よし。ナレス、早くここを発つぞ」


 そう伝えると、ナレスはなんとも言えない顔で少年を見つめ、頷いた。その様子を怪訝に思った少年はしゃがみ込み、座り込んでいるナレスと視線の高さを合わせる。


「何か不満があれば言って良いんだぞ」


 優しい口調で聞くが、ナレスは何かを言おうと口を開いてから下唇を噛み、首を振って否定した。


「何も無いです。すみません」


 ナレスの態度と一致しない言葉を少し不満に思いながら、少年は立ち上がって外へと繋がる扉を開けた。後ろからナレスがついてくるのを確認し、歩き始める。今いる場所は街の中心から離れた、標高が高くなった丘だ。周りには高原が広がり、大きな風車と小さな家がチラホラ見える程度で、中心地程の賑わいは無い。


「ここら辺に宿屋は無いだろうから、街の中心地まで降りるぞ」


「えっ!?でも、危ない人がいるんじゃ…」


「大丈夫だ。極力人の居ない場所にある宿に泊まる。万が一、見つかったとしても、相手は恐らく善人だ。やりようはある」


 歩いて三十分程、道が舗装されたものになり、チラホラと宿屋が並ぶ。その中に、酷く寂れた建物を見つけた。店先にある、蔦に覆われた小さな看板には、宿屋の文字が書かれていた。だが、その字は掠れて消えかかっており、入るのも憚られる様な雰囲気が漂っていた。

 不安そうなナレスを横目に、堂々と店の扉を開く。中は昼間だというのに暗く、湿気ったカビ臭い空気が鼻を突く。

 入り口のすぐ横にある受付は、下部にごく小さい隙間を設けたガラスで仕切られており、その奥に人の気配は感じられない。どうしたものかと辺りを見回すと、小さなベルがポツンと置かれていた。それをチンッと鳴らすと、受付の奥から人が動く気配がした。


「いらっしゃいませ」


 老婆の、嗄れた声が響く。


「宿に泊まりたい。明日発つ予定だから、一日分頼む」


 少年は人が居たことに驚きながらも、部屋を取りたい旨を伝えた。


「それでしたら、大銅貨一枚です」


 老婆はそう言ってトレーを下の隙間から出してきた。価格が安い事にほくそ笑みながら大銅貨を置き、部屋の鍵を受け取る。

 階段を登り、目的の部屋を探す。そして、扉に鍵を挿して開けた。部屋の中はやはりカビ臭かったが、その反面、思ったよりも清潔にされていた。


「よし。宿は取れた。時間も遅いし、夕飯にしてすぐ寝るぞ」


「はい」


 少年はそうナレスに伝え、宿を出る。東の空が藍色に染まり、西の地平線では烈火の如き紅が輝いていた。

 沈む太陽を背に、街を歩く。飲食店は宿から遠く、ギルドの近くに密集している。人は少ないが、雰囲気の良い店を見つけたので、そこで夕食を取ることとした。

 店内に騒がしさは無く、談笑する声と食器が鳴る音だけが響いている。

 席に着くと、店員がメニューを持ってきた。


「ほら、メニューだ」


 少年はさっさと注文を決め、ナレスにメニューを手渡した。ナレスはメニューと睨めっこをしてうんうん唸った後、思い切って注文を決めた。


「すいませーん」


 ナレスはメニューを片手に手を挙げて店員を呼んだ。


「えっと、コレとコレをお願いします」


「俺はコレを頼む」


 メニューを指差して店員に注文を伝える。店員が去る時にメニューを回収したので、ナレスが名残惜しそうにその後ろ姿を見ていた。


「そんなに食べたいのなら両方頼めばいいじゃねえか」


「それじゃあ食べきれないです」


 ナレスはそう言って頬を膨らませた。


「そうか」


 少年はそう言うと、興味が無くなったかの様に椅子の背もたれに寄りかかる。逆さまに映る店内。ボーっとしながら眺めていると、急に視界が遮られた。


「っ!?なんだ!」


 慌てて立ち上がると、椅子の後ろに一人の少女が立っていた。


「やぁ。また会ったな」


 その少女は、冷たい笑顔で少年を睨みつける。その異様な様に、ナレスは呆然として立ち竦む。


「誰だぁ?テメェは」


 少年は警戒心を高めながら少女を睨みつける。この少女は、あの人混みの中心に居た人物で、遠くから一眼見ただけで少年の危機感が警鐘を鳴らす程の人物だ。

 すると、少女は意外そうな顔をし、少年にずいっと近づく。


「魂間の記憶の共有はできないのか…?それか、片一方だけが分かるのか…」


 急に訳の分からないことを言い始めたので、少年は後ずさって少女と距離をとる。


「なんだよ…テメェは。気色が悪い」


 少年がそう貶すと、少女はハハハと笑った。


「そうか。気色が悪いか!これはすまない。俺の名前は霊華だ。良く知っているだろう?」


 少女が霊華と名乗った瞬間、少年の目つきが変わった。


「お前。あの、あのレイカか?」


 そう聞くと、霊華は顎に手を当てて少し考えた後、笑みを浮かべて炎を纏った。


「君がなんの話をしているかはわからないが、恐らく()()レイカで合っている」


 そう言い終えるか定かのタイミングで、少年は霊華に襲いかかった。開いた右手を張り手の様に勢いよく伸ばす。だが、手応えは無かった。目の前に居た少女は、揺らめいたと思ったら炎になって消え去った。


「この…っ!野郎!」


 行き場の無い怒りを募らせていると、ナレスが少年の肩を叩く。


「なんだよ!すっこんでろ!」


 少年は八つ当たり気味にナレスに怒鳴るが、ナレスはそれをものともせず少年の瞳を見つめる。


「少年、今日は向こうも引いてくれた。何の因縁があるかは私にはわかりかねる。だが、焦っているのは見ていてわかった。今日はゆっくり休まねば、身体を崩してしまう」


 ナレスが毅然とした態度でそう言うと、少年は納得して椅子に座る。

 すると、丁度良く注文した品が届いた。店員は気まずそうにしながら皿を並べ、礼をして去っていった。

 店に、静かな時間が戻ってきた。食器の鳴る音が夜空へと吸い込まれる。

 読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字などがありましたら教えて頂ければ幸いです。

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