四十六話 トラブル
皆が困惑する中、霊華だけは平然としていた。いや、平然で居ようと自分を落ち着かせていた。初登録用のカードが反応しなかった時点で覚悟していたが、やはり、と言った感じか。
霊華はカードをスッと仕舞うと、自分を見る皆に視線を向ける。皆、唖然としているが、霊華は深呼吸をしてから話し始めた。
「騒がせてすみません。色々疑問が残るかもしれません。ですが、あまり広めたく無い話ですので、散策はしないで頂きたいです」
「で、ですが…」
ギルド職員がおどおどとしながら話に割って入ろうとした。だが、霊華はより声を大きくして話す。
「勿論、ギルドには責任があるでしょうから、話はしましょう。ここじゃ無い、どこかで」
霊華がそう言い終えると、ギルド職員はコクリと頷いて裏の方へ向かった。
気がつけば、霊華達の周りに野次馬が集まっていた。我に帰ったカーターは、野次馬の前に立ち、大声を張り上げて追い払う。
「お前ら!見せ物じゃねえぞ!ほら、散った散った」
カーターの一声で殆どの冒険者達が、文句を垂らしながら散っていった。
散っていった冒険者達は、遠くからこちらをチラチラ見ているが、カーターが睨みを効かしているので、絡んでくることは無い。実力が知れ渡っているのが見て取れる。
そんな事をしていると、ギルド職員が慌ただしく戻ってきた。
「ハァ、ハァ、あの、上の執務室に来てくださいだそうです」
息を切らしながらそう言ったギルド職員は、息を整えた後、霊華を連れて執務室へ向かった。
「お兄ちゃん…大丈夫かな」
「大丈夫だよ。師匠ならきっと」
アンと藤也の二人は、不安な気持ちを胸に抱きながら、カーター達の元で霊華の帰りを待つ。
ギルドの裏には二階へ向かう階段があり、その上がった先に大きな執務室がある。
ギルド職員が重厚な木の壁をノックする。すると、中からため息混じりの声が聞こえた。
「どうぞ」
その声を聞いたギルド職員は、扉を開けて霊華に中は入るよう促す。
「失礼します」
霊華のシャナリとした鈴のような声が執務室に響く。その声を聞いた途端、ギルド長の顔がハッと上がった。ギルド長は、くたびれた印象の中年男性で、目の下のクマからはその忙しさが伺える。
「どうぞお座りください」
ギルド長は、執務室中央あたりにあるソファへ座りながらそう言った。霊華は机を挟んだその反対側に座る。
「すみません。執務室と客間を兼ねているんです」
ギルド長は謙遜気味にそう言った。
「いえ、私はあまり気にしないので、そう謙遜しないでください」
霊華がそう言うと、ギルド長が愛想笑いで返した。そして、膝に肘を突いて、前のめりになる。
「いきなり本題に入りますが、貴方は何者なんです?B級冒険者であれば、かなり名が知れている筈です」
ギルド長の質問に、霊華はウンウンと頷いた後、ゆっくりと話し始めた。
「今から言うことを、戯言だと思わずに聞いてください。私は、八百年前に冒険者登録をしました」
霊華の話を聞くギルド長の表情が、一瞬で厳しいものとなった。
「君はエルフ族かい?」
ギルド長がそう言うと、霊華は首を振る。
「エルフでもハイエルフでもありませんよ。ただの八百歳と少しの少女です」
霊華はイタズラっぽくニヤリと笑った。それを見たギルド長は、馬鹿にしていると思ったのか、ますます厳しい表情となる。
「ふざけるのも大概にしろ。私は忙しいんだ」
初めは丁寧だったギルド長の口調も、段々と荒っぽくなる。
「いえ、至って真面目ですよ。私は…」
霊華がそう言いかけて、急に話をやめた。ため息を吐いて立ち上がると、扉の方へ歩いていく。扉の前に立つと、勢いよく扉を開け放った。
「何を……っ!?」
そこには、話を盗み聞きしようとしたギルド職員が複数人、真っ青な顔で霊華を見上げていた。
「あ…す、すみません…」
ギルド職員のうちの一人がそう言うが、霊華は真顔で凝視する。ヘラヘラとしていた彼女らだが、みるみるうちにその青い顔が更に青くなった。霊華から凄まじい殺気が放たれる。その殺気はギルド内に居る冒険者が震え上がるだけでは収まらず、ギルドの外にも溢れ、外に居る人がビクりと驚くほどだった。
「ひ…っ!」
勿論、直接殺気を浴びた彼女らも無事では無く、泡を吹いて気絶する程だった。
霊華は再度ため息を吐くと、扉を閉めてからソファに座った。
「……」
霊華と対面にいるギルド長は、殺気に当てられて酷く震えている。
「大丈夫ですか?」
霊華がそう声をかけると、ギルド長の肩が跳ね上がる。
「すみません。はしたなかったですよね」
霊華は愛想よく笑いかける。
ギルド長は、霊華が少しでも動くたびに肩を弾ませて小さな悲鳴を上げる。
「…では、話を続けますね。正直に言うと、私はあの伝承に出てくる女神です」
すると、急にギルド長の表情が変わった。
「君が…女神だと…?あの二大宗教の一つの…?笑わせないでください!」
恐怖心が無くなったのか、はたまたそれを怒りが上回ったのか、ギルド長は声を荒らげながら立ち上がる。
「言いましたよね?至って真面目だと」
ギルド長は、真っ赤な顔して歯を噛み締める。
「確かに、君は伝承と同じ薄青色の髪の毛と、獣人の耳と尻尾を持っている!だが、それだけでは不十分だ!それに、ギルドカードの名前が別人のものだと言うのはどう説明する!」
そう捲し立てると、息を切らしながらドカッとソファに座り込んだ。
「帰ってくれ…」
「帰りません」
「帰れと言ってるんだ!これ以上私をおちょくるのか!」
ギルド長はそう捲し立てた後、立ち上がって窓辺へ向かう。窓に寄りかかり、未だ荒い息を整えながら外の景色を眺め出した。
霊華は、意気消沈しながら部屋を後にする。下の階へ戻ると、不安そうな顔をして藤也とアンが待っていた。二人だけでなく、カーター達も落ち着かない様子で待っていた。二人は、霊華を見つけると、ホッとした表情になり、すぐに泣きそうな表情になった。
「すまん。待たせたか?」
霊華が苦笑いをしながら片手を上げる。藤也は真剣な表情で霊華に近寄る。
「師匠!あの殺気はなんですか!」
震える声で藤也が詰め寄る。霊華はやれやれと言いたそうな表情をする。
「あれは、覗き見をする馬鹿が居たから、力を誇示するのも兼ねて警告しただけだ」
意外な答えに、藤也は唖然とする。霊華は苦笑いを浮かべる。
「でも、追い返されちまった。俺がふざけていると思ったんだな」
霊華が大袈裟に肩を落とすと、アンが怒った顔をしている。
「信じられない!なんでお兄ちゃんが追い返されないといけないの!?こんなに強いのになんで!?」
地団駄を踏み、憤慨するアンの頭を霊華が撫でて宥める。
「そう怒るな。お前も、知らない奴が世迷い事を言い出したら、信用出来ないだろう?」
「でも…」
「だから、無理矢理にでもわからせるんだ。そうだな…あのヤマタノオロチの首でも持ってくるか」
「そうだね…え?」
サラリと言った衝撃の一言に、藤也とアンは間抜けな顔をして霊華を見る。当の霊華は、滅茶苦茶に楽しそうな笑顔を溢している。
「ま、待って、本当に言ってるの?」
アンが霊華に確認をすると、清々しい程ハッキリと言い放つ。
「本当に決まってるだろ?」
それを聞いた途端、二人の表情は酷く歪み、霊華に縋りついて必死に泣きついた。
「やめてください!あんな化け物とやったら死んでしまいます!」
「本当にやめてぇぇぇ!」
二人の絶叫がギルド中に響き渡った。
それから一時間程、二人が落ち着きを取り戻してきた。あの騒ぎで注目されてしまい、冒険者からの視線が痛い。
「師匠…今日はもう帰りません…?」
「そうだな。お前らの登録もできたし、さっさと帰ろうか」
宿屋に帰ろうと、席を立つ。席の間を縫って外に出る。
「なんか、久々に光を見た気分」
そう言いながら伸びをしていると、なにやら、近づいてくる一つの人影が脇目に見えた。そちらを見ると、聖職者らしき男だった。
「あの…!もしかして、女神様ですか?」
その瞬間、世界から音が消えた気がした。
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