四十話 アンデットの村
少し遅くなってしまいました。すみません
水に濡れ、冷えた身体を温めるべく、何か燃やせるものは無いかと探し回る。ここら辺は湿地帯らしく、木などは基本的に無い。更に、冬だというのにも関わらず、生えている植物は青々としているのだから参ってしまう。
面倒くさくなり、空から探そうと空間を破壊して空中に移動する。落下しながら周りを見回していると、遠くにある森の隙間から建物らしきものが見えた。
「遠いが…行ってみる価値はあるな」
怪我をしないように着地し、ナレスと合流する。ナレスはかなり体力が消耗しており、怠そうに座り込んでいた。
「あ…すみません。身体が重くて」
「気にするな。それより、遠くの方に村らしきものが見えた。もし廃村だとしても、行ってみる価値はあるだろう」
「わかりました。……少し休憩してからで良いですか?」
ナレスが申し訳無さそうに言うので、少年はコクリと頷き、隣に座り込んで暫し身体を休めた。
あれからどれくらい経っただろうか。日は傾き始め、光の色が気持ち黄みがかって見える。二人は、十分に休まったため、村らしき場所へと向かい始めていた。距離はそれなりにあるらしく、思っていたよりも時間がかかりそうだ。
十五分くらいで目的地のすぐそこまで近づいた。近くで見てみるとやはり廃村だった。人の気配は無く、建物は崩れかかり、植物が侵食を始めていた。森の影になってより暗い雰囲気を醸し出している村は、その規模からそれなりに大きな村だったことがわかる。もしかしたら、村では無く町だったかもしれない。
「森の中にこんなに大きな村が…」
「なぜこんな立地なんだ?特段何かありそうな気配は無いが…」
そうやって二人で村を回っていると、どこからか視線を感じる。少年が振り返ってみるが、そこには何もいない。
「何もいないな…」
「そうですね。動物どころか虫すらも…」
そこで少年はハッとする。そして、ナレスの手を引いてこの場から走って去ろうと踵を返した。
「っ!?」
村の出口まで急ごうとした。しかし、廃屋の向こうからカラカラとゆう音を立てて骸骨がフラフラと現れたため、二人の足は止まってしまった。
「なんだコイツ…」
「なんでこんな所にスケルトンが…」
二人は、突然の出来事に困惑しながらも、目の前のスケルトンを警戒しながら、他に襲ってくるものが居ないか周囲も警戒する。すると、案の定廃村の至る所からアンデットが腐臭を放ちながらやってきた。
「おかしい…アンデットと言うのは死体に魔力が宿った魔物。滅多に発生する事は無い筈なのになんでこんなに…」
気がつけば、数百体はあるだろう数に囲まれて身動きができなくなってしまった。今にも揉みくちゃにされそうだが、何故か屍共は少し距離をとって二人を傍観している。
「そっちから来ないならこっちから!」
ナレスが風魔法で村諸共吹き飛ばそうと魔力を込めた瞬間、村の奥から声が響いてきた。
「ようこそ我が村へ!特産品の骸骨はいかがかな!?さあさあ村民よ!彼らを出迎えろ!担げ、讃えろ!全体整列!!」
アンデット共は、ハキハキとしたその声を聞いた途端、街の両端に整列し、直立不動で敬礼をビシリと決めた。
そして、道の向こうから何かの集団が隊列を作って行進してくるのが見える。スーツ姿のスケルトンを先頭に、ゾンビが歪んだボロい金管楽器を吹き鳴らし、デュラハンが闊歩する。死して尚、生前の威厳を感じさせるゾンビと化したドラゴンがラストを飾る。
数多のアンデットが成すパレードは、二人の目の前で止まった。先頭のスーツ姿のスケルトンが脱帽し、礼儀正しくお辞儀をしてカラカラと骨を鳴らす。
「初めましてご機嫌よう。私はこの村の村長、スクレット・スケレトゥスと申します。見ての通り、スケルトンでございます。以後、お見知り置きを」
そう言いながらゆっくりと顔を上げる。不気味な双眸には、怪しい青い魔力の炎が燻っていた。
「おや?緊張なさっているようですねぇ?さあ、ジェリー、この方達の緊張をほぐしてあげなさい」
スクレットがそう言うと、その後ろからピンクのドレスを着て、これまた派手な化粧をつけたスケルトンがひょいと出てきた。先程まで後ろに居ないように見えたが、気のせいだろうか。ジェリーと呼ばれたスケルトンは、二人の前までくると、お辞儀をしてからヒラリヒラリとドレスをたなびかせて優雅な舞を舞った。舞うたびに骨同士がぶつかってカラカラと耳障りな音が鳴る。舞が終わると、またお辞儀をしてからスクレットの後ろに戻っていった。戻った瞬間、まるで何かに吸い込まれて消えたように見えたが、これも気のせいだろうか。
「お気に召しましたでしょうか?」
スクレットは骨だけになった手を合わせて揉むような仕草をしながら少年に擦り寄る。少年は顔を引き攣らせながら後退りし、後ろに立っていたゾンビにぶつかった。
「おおっと!これは申し訳ない!その者にはよく言い聞かせますので!」
スクレットはそう言うと、慌てたような仕草で後ろに居たゾンビを殴り飛ばした。その骨だけの体からは到底想像できないような膂力で殴り飛ばされたゾンビは、頭を消し飛ばしながら吹き飛び、大木を薙ぎ倒して肉塊になって消えた。
「なんて力なの…!?」
ナレスは呆気に取られながら、それこそ、凄惨な遺体を見たような恐怖と不快感に満ちた表情になった。
そんなナレスに、スクレットは骨だけの無表情な顔を近づけて顎を鳴らす。意図はわからないが、スクレットはすぐに引き、後ろを向いて両手を広げる。
「この村はアンデットが暮らす村。明日も昨日も忘れて、今に縋りついて醜く死にましょう」
スクレットがそう言うと、整列していたアンデット達が一斉に二人に襲いかかった。それは、いつしかの景色にとても似たものだった。その時と重ねながら、少年は息をフッと吐いて大剣に手をかける。
「俺はあの時よりも強くなっているか?」
ナレスを庇いながら大剣を振り回し、アンデットを薙ぎ倒す。その間、ナレスは魔法を詠唱し、最大火力を放つ。
「大地を吹き荒ぶ威風よ。堂々と吹き抜けたるは明日の道。我が道を切り開け!『風魔法・威風堂々』!」
ナレスは魔法を放つ直前、少年を抱き寄せて跳び上がり、魔法の勢いを利用して凄まじい速さで村から出ていく。魔法の勢いが弱まり、転がるようにして地面に着地し、すぐに体勢を立て直す。村の方を見て追手を確認すると、ドラゴンに乗ったスクレットが迫っていた。
「逃がさない。死の行進」
スクレットが骨だけの指で逃げる二人を指差すと、影が広がり、その中から山のようなアンデットの群れが現れる。アンデットの群れは荒波のように押し寄せ、二人は死に物狂いで逃げる。
「クソっ!このままじゃ追いつかれる!もう一回アレできるか!?」
「ギリギリ一回できる!詠唱の間耐えて!」
「頼んだ!」
ナレスは走りながら詠唱を開始する。淡々と紡がれる言葉に、魔力が反応し、緑色の光が仄かに輝く。
「まだか!?」
「もう少し…!」
少年は急に、横を走るナレスを抱き抱え、アンデットの波に追いつかれる寸前で空間を破壊して少し先に移動した。
「行きます!『風魔法・威風堂々』!」
ナレスが暴風を巻き起こし、後ろのアンデットの波に大きな風穴がぽっかりと空いた。二人は森の出口に向かって一直線に吹き飛んだ。森を出て速度が減衰し、地面を転がりながら止まった。
「イタタ…」
痛む身体を摩り、汚れを払う。森の方を見てみると、追ってくる気配は無かった。
「助かった…」
少年は珍しく疲れた様子でハァと息を吐く。
「どうやら日光が苦手なようですね」
「かもな。だから森の中に住んでたのか」
少年はグッと背伸びをし、肩を回して身体の調子を確かめる。特に不調は無かったのか、ナレスに背を向けて歩き出した。
「あ。ちょっと待ってください。どこ行くんです?」
「無駄な道草食っちまった。まともな村を目指すぞ。地図によればこの先にそこそこな村がある」
「次は何が出てくるんですかね」
「もう懲り懲りだ」
ナレスは少年に駆け寄り、背中をポンと叩いてから一緒に歩く。北風が二人頬を撫でる。先にはどんな波乱が待っているのか、二人はまだ知る由もない。
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