三十八話 挑戦者
巨大な男は、品定めをするように一人一人よく観察をする。ご機嫌に笑みを浮かべ、自分の事を親指で刺して自信満々に宣言する。
「俺様の名はラリアード•バズ•リキッド!強い奴を出せ!やろうぜぇ!殺し合いをよぉ!」
その勢いに気押され気味な冒険者達は、一瞬何を言っているのか理解できずにフリーズしてしまった。そして、数拍置いて理解すると、一斉にリーダーであるカーターを見る。
「俺かよ…」
とほほ…と言った感じで渋々前に出る。背中に担いだ大きな盾と剣を抜き、ラリアードの前に立とうとする。だが、眼前に佇むラリアードは、白けたような表情でガーターを見下ろす。
「くだらない。弱すぎる。お前じゃない。出しゃばるな」
ラリアードの言葉の連射に、カーターはたじたじとなる。
「俺が思うに、そこの獣人の剣士!お前だ」
ラリアードが指差す先には、皆から一歩引いた場所で棒立ちになっている霊華が居た。
「一見、無害そうに佇んでいるが、視線が俺様だけでなく全体を捉えている。その達観した態度、気に入ったぜぇ」
霊華はゆっくりと歩き出し、身体が重くなるような殺気を放つ。
「正解だ。小僧、お前は何故戦う?俺たちはこの後も旅が続く。そんな中、お前と戦って何の意味があるというのだ?」
強烈な殺気に冷や汗を流しながら、ラリアードは強がった笑みを浮かべる。
「俺様は強者を求めて戦う。それは、俺様の力を確認したいからだ!俺様は強い!その自信を持ちたいのだ!」
「…その図体に見合わず、繊細な奴なのだな。だが、俺はお前とは戦わない」
霊華がそう言い捨てると、ラリアードはスンっと真顔になって視線を霊華から外す。そして、その直後、ラリアードが冒険者一行に襲いかかった。
霊華はすぐさま冒険者達を庇い、振り下ろされたラリアードの剛腕を刀で受け止める。
「ハハハ!お前はそうすると思った!落ち着いた雰囲気を保っていたが、内心は焦っていたのだろう!?いた俺様が雑魚共を襲うか!俺様を抑えられるのはお前だけだからなぁ!」
「それで勝った気になったか?」
「いいや、ここからだ」
霊華は刀の切先を少し下ろしてラリアードの腕を逸らす。そして、間髪入れずに真横に一閃する。ラリアードは攻撃を避けながら距離を取る。その後、刀と接していた腕に傷がないか確認し、腕をブンブンと振って自分を鼓舞する。
(硬い…切るつもりで腕を逸らしたのだが…)
霊華は刀を眺めてから炎を纏わす。
「ギアをあげさせてもらう」
「楽しくなってきたァ!」
霊華は全身にも炎を纏い、動きを速くする。ラリアードが拳を振り下ろしたのをサイドステップで避け、腹を切りつける。
「ぐぅっ!」
傷が刻まれ、呻き声を上げる。追撃をされると困るので、霊華に距離を取らそうと振り払う様に腕を振り回す。
霊華はその攻撃を跳んで避け、肩の辺りに手を添えてバク転をするような形でラリアードの頭上を通過する。その際、火球を幾つかラリアードにぶつけて怯ませた。
ラリアードは顔の周りに纏わりつく煙を払おうと首を振るような動作をした。その隙を見ていた霊華は、着地した瞬間に肉薄する。
「桜火乱舞•乱れ咲き」
ラリアードに連撃を見舞わせる。炎が斬撃の残像を描き、その攻撃の苛烈さがハッキリとわかった。傷口が燻り、散る桜のように火花が落ちる。
「効いたぜ…今の攻撃ィ!」
ラリアードは傷が痛むのも気にせず身体を軽やかに動かす。ぴょんと軽く跳んだかと思えば、両手を地面に打ち付ける。その途端、地面が隆起し、霊華の足元から岩が突き上げてくる。
「甘い」
「甘いのはどっちかなァ!」
空中に逃げた霊華に岩をぶん投げる。身動きの取れない空中で、攻撃を喰らうかと思われたが、炎の勢いを利用して反転して避け、そのまま勢いをつけてラリアードに斬りかかる。
「甘いのはやはりお前だったな」
「やるじゃねえか」
ラリアードは霊華の攻撃を避け、殴りかかる。霊華も半身になって躱し、カウンターを仕掛ける。ギリギリに見える苛烈な攻防に、観客と化した冒険者達と藤也とアンはあんぐりと口を開けたまま静かに見ていた。
「埒があかねぇ!これで決めるゼェ!」
ラリアードは大きく距離を取り、両手を上に掲げる。すると、頭上に岩が集まりその体積をどんどんと大きくしてゆく。
勿論、そのままやらせる訳にはいかないので、霊華はその攻撃を阻止するべく攻撃を仕掛ける。
「桜火乱舞•桜風」
刀を虚空に向かって円を描くように切りつけると、渦を巻いた炎がラリアードに襲い掛かる。しかし、地面から土壁が隆起し、炎の行手を阻んだ。
「厄介な…」
そうしていると、どうやら十分に体積が大きくなったらしく、ラリアードが岩を持って大きく跳躍した。
太陽が岩に隠され、大きな影が生まれる。岩は小さな家程の大きさがあり、重力によって加速しながら霊華を目掛けて落下する。
「堕ちろ!ロックメテオ!!」
ラリアードが凄まじい膂力で振りかぶり、岩を投げつける。
「舐めるなよ!紅月!」
霊華は凄まじい速さで炎を溜め、巨大な火球をぶつける。火球が岩に触れると、物凄い音を立てながら岩が赤熱化し、たちまち溶け落ちていく。溶けた岩は溶岩となり、雨のように降り注ぐ。
「うわぁぁぁっ!」
「きゃぁぁっ!」
当然、溶岩は冒険者達にも降り注ぎ、悲鳴が耳をつんざく。目を瞑り、いつか来る痛みに耐えようとするが、その痛みがいつまで経っても来ない。恐る恐る目を開けると、頭上にはもう溶岩は無く、代わりに霊華に向かって溶岩が集まっていた。
「桜火乱舞•桜渦。」
霊華の周りに溶岩や炎が渦を巻きながら集まる。霊華は刀を右手で持ち、力を抜いて楽な格好でラリアードに向かって歩み寄る。
先程の岩と火球のぶつかりで溶岩を浴びたらしく、ラリアードは、身体にこびりついて皮膚を焼いている溶岩を凄まじい形相で剥がしている。
「ぐぅぅぅっ!」
呻き声はどこか震えており、今にも涙が出るのを堪えているようだった。
そんなラリアードに霊華は無情にも刀を振るうべく射程距離内まで近づく。
「ラリアード、お前には技が無い。地獄で研鑽しろ」
そう言い捨て、力を入れて刀を振り下ろそうとした。しかし、ラリアードは最後に残った力を振り絞って霊華を仕留めようとする。
「ウオォォォォ!!」
丸太のような腕でパンチを霊華に向けて我武者羅に放つ。
「桜火乱舞•泡沫桜ノ舞」
霊華はその腕を回転しながら刀で受け流し、その勢いを利用してラリアードの胴を両断した。
上半身と下半身が切り裂かれ、溶岩によってすぐにくっ付く。切り裂かれ、焼かれた身体の感覚が無くなってゆく。
ラリアードは死をハッキリと意識しながら地に倒れ伏した。
「か…勝ったのか?」
「勝った!」
「凄いわ!」
冒険者一行は霊華の勝利を喜んだ。ただ、当の霊華は複雑そうな気持ちでラリアードの遺体を見下ろした。それを察したカーターは喜ぶ者を抑え、霊華のもとに近寄る。
「どうしたんだい?冴えない顔をして」
「そりゃ、冴えない顔になりますよ。人を殺したんですから」
「悪い。そうだな」
「昔は俺もコイツみたいに交戦的だったんですよ。そのせいで死んだし…因果応報だとは思うんですけど、それでもどこか虚しくて。俺と境遇が一緒だったからですかね」
「さあな。ただ、それでもいいと思うぞ。いや、それが正しいのかもしれない。考え方は皆違う。俺たちはお前さんの勝利に喜んだし、お前さんは虚しくなった。それで良いんじゃないか」
「すみません。久しぶりの戦闘で少し感傷的になってしまって」
「いや、良い。それより飯にしよう」
「そうですね」
二人は不安そうに眺めている仲間のもとに戻り、ラリアードの死体を埋め、手を合わせた後、作っていた昼食を温め直して鍋を囲んだ。
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