三十七話 強襲
翌日、藤也達は陽がやっと地平線に触れたくらいの時間から旅支度をしていた。と言っても、やることは腹拵えと身なりを整える程度で、さほど時間はかからなかった。
「お、早いな」
冒険者達のリーダーであるカーターが朝から食糧調達に出かけていたらしく、森の中から現れた。右手に〆た兎を持ち、笑顔で掲げている。
「調理しましょうか?」
霊華は駆け寄り、兎を受け取る。〆られて血抜きされているので、あとは調理するだけだ。
霊華が調理をしている間、藤也は支度も終わり、やることが無くなり暇になっていた。カーターはそれを察したのか、藤也とアンに話しかける。
「あんた達、何処からきたんだ?」
「えっと、霧の森です」
「霧の森ってあの何も無い森か!?魔物もウヨウヨ居るのによく暮らすなぁ!」
「ええ、よくデカイ蛇の魔物が出るんですよ」
「お兄ちゃん…霊華さんが対処してくれるんです」
「そうかそうか!そんなにあの嬢ちゃんは強いのか!」
「それはもう。すごいですよ」
カーターと談笑していると、残りの寝ていた冒険者達が起きてきた。
「おう。相変わらず早いなリーダー」
「おはようガット。そこの川で寝癖直してこい。ひでぇぞ」
「へいへい」
ガットは頭を掻き、欠伸をしながら寝癖を直しに行った。
「ふぁぁ…朝ってのはいかんせん調子が出ねえなぁ…あ?」
寝癖を直そうと髪を濡らしていると、川の対岸に何かの動く影が見えた。大きさは人よりも大きく、まるで岩が動いているようだった。
よく目を凝らして見てみると、大きな猪が川の水を飲んでいた。猪はこちらに気がつくと、一目散に逃げていった。
「へへ…しめしめ、アレを狩ればうめぇ飯が食えるぞ…!」
ガットは腰のナイフに手をやりながら魔法を使って対岸まで飛び上がる。風魔法を使ったのか、ガットが居た場所の草が渦を巻いたような形に倒れている。
対岸に着地すると、気配を消して猪を探す。ガットはまるで猪の場所がわかっているかのような動きで真っ直ぐ猪に近づき、ナイフに風魔法を纏わせて首を斬りつける。猪は不意打ちで斬られたことに驚き、すぐさま逃げようと走るが、太い血管を斬られたことが致命的だったのか、出血によってふらつき、木にぶつかって倒れた。
「一丁上がり」
ガットは魔法を使って猪を川まで運び、血抜きをしてから野営地まで戻った。
「おーい。大物を狩ってきたぞー」
そう言って猪を皆に見せる。アンや藤也、その他メンバーも目を輝かせて驚いていたが、カーターだけは反応が違った。
「おいおい、俺がさっき兎を捕まえてきたのに、なんでお前はすぐに上回って来るんだよ」
「へっへっへ、そりゃ悪かったな。ついでに下処理してくれ」
「わかったよ…」
カーターは渋々といった感じでナイフを持って猪を解体し始めた。手慣れた手つき腹を切り裂き、内臓を種類ごとに分ける。そして毛皮を剥いで部位ごとに切り分ける。
すると、先に兎の調理が終わった霊華がやって来た。
「カーターさん。料理終わりました…あれ?また取ってきたんですか?」
「おう!この俺様がチョチョイのちょいで狩ってきたぜ」
「いいですね。猪肉。お昼は猪肉ですかね」
「ああ、そうだな。ただ、これを旅に持って行くのは少しアレだな」
「…それなら、私が氷漬けにしてアイテムボックスに入れて持っていきますよ」
話を聞いていたキャシーが、仕方ないといった感じでそう提案する。
「お、じゃあ頼む。ありがとうな」
カーターは切り分けた猪肉をキャシーに差し出す。
「氷魔法•霜」
魔法を唱えると、猪肉はたちまち霜に包まれる。こうすることで冷やして鮮度を保つようだ。
「空間魔法•アイテムボックス」
そう唱えると、時空が歪んだような場所ができる。そこに猪肉を突っ込むと、まるで猪肉が消えたように見える。
「凄いですね。空間魔法なんて滅多に使える人を見ませんよ」
アンはそれを見て目を輝かせる。空間魔法は魔法の中でも難しく、使える人は少ない。
「そんなことないわ。私、小さな空間を作るので精一杯だもの。アイテムボックスの容量だって、この猪肉で満杯になるくらいよ」
「それでも凄いですよ!尊敬します!」
「ふふふ。ありがとう」
キャシーが艶っぽく笑うので、それを見ていた藤也は思わずドキりとしてしまった。
「お、あんちゃん、惚れたか?」
「そ、そんな事ないですよ!」
「照れるなって」
それに気がついたガットが冷かしてきたので、藤也は必死に取り繕ってその場を逃れようとする。
「料理冷めちゃうよー!!」
いつの間にかご飯を先に食べていたマオが皆を呼ぶ。隣には姿勢正しく正座してご飯を食べるブランも居た。
「おい!先に食うな馬鹿野郎!」
「へへーん!遅いのが悪いんだよー!」
「マオさん、はしたないですよ。落ち着いて食べてください」
「お前もだよブランこの野郎!」
「はぁ、うるさいですね」
冒険者の五人は仲良く朝食を食べる。それを見た霊華は、微笑みながら兎肉を頬張った。
「仲良いですね。あの五人」
「ああ、言い合ってはいるが、それも仲の良い証拠だな」
「楽しそうだね」
少し離れたところで三人固まって食べる。兎肉は柔らかく、淡白な味だった。
「そう言えば、あの猪心臓の中に魔石があったぞ」
「へぇ、珍しい。もう少しすれば完全に魔物になっていたのか」
「毛の色からしてレッドボアですかね」
「怖いねー」
カーターは解体の時に取れた魔石を弄る。魔石は紅く輝いており、まるで大きなルビーのようだった。
「ふぅー。取り敢えずこんなもんか」
物足りないと言った感じで食器を片付けるガット。兎一匹だけだと、八人全員の胃袋は膨らまなかったようだ。
「準備はいいか!旅を再開するぞ」
食器を片付け終えると、ガーターを先頭に旅を再開させる。途中の街まで一緒の方向らしく、共に行動することとなった。先頭はガーターが守り、後ろは霊華が守る。他の冒険者は不安がっていたが、ガーターが霊華の腕を試しているのだろう。昼までは特に魔物とも出会わずに進めた。
「あー…腹減った」
ガットが昼を食べたいと言うので、お昼休憩にするようだ。この辺りは一面草原なのだが、冬なので草は低く茶色くなっている。
「ここら辺でいいだろう。焚き木を探してくれ」
ガーターの指示で各々焚き火に使う木を探しに行く。幸いなことに、街道を挟んだ向こう側が森だったので、すぐに集まった。
「乾燥しているから気をつけろよ」
木を重ねてから霊華が火をつける。火は順調に大きくなり、鍋を上に置いて料理を始める。
「猪肉を出してくれますか?」
「いいわよ。はい」
「ありがとうございます」
猪肉を調理している間藤也とアンは暇になるので、持ってきた木刀で修練をする。
「アン、軽く手合わせしようよ」
「いいよ。お手柔らかにね」
調理をしている所に土埃が行かないよう、少し離れた場所で行う。
互いに向き合い、木刀を構える。アンはシンプルな中段の構えで、対する藤也は納刀したような構えをとる。
「行くよ!」
「よし!来い!」
アンが地面を蹴り、肉薄してくる。猛烈な速度で迫ってくるアン。藤也は近づいてくるアンを静かに凝視し、タイミングを測る。
中段から上段に移し、上から振り下ろされる木刀。それが到達する直前、藤也は木刀の柄頭にあたる部分でアンの腹を軽く殴り、刀を縦に回すように抜刀して頭を小突いた。
「俺の勝ちー」
「悔しいぃぃっ!」
小突かれた額を摩りながら地団駄を踏むアンを見て、ハハハと藤也が笑う。
「もう!私の方が運動できるのになんで勝てないの?」
「アンは力が強い分、動きが大ぶりだからね」
そうやって話をしていると、何やら霊華が二人のもとに焦った顔で駆けてくるのが見えた。遠くて何を言っているのかわからない。
「なんですか?師匠!」
そこで、急に辺りが暗くなった。いや、光が遮られた。
「逃げろ!お前ら!」
その言葉を聞き取った瞬間、二人の背後に何かが高速で落ちてきた。その勢いは大地にクレーターを作る程で、二人は砂埃と共に吹き飛ばされた。
砂埃の中で巨大な人影が動く。砂埃を払い、その姿が露わとなる。
「強え奴と戦わせろ」
そう言った男は、身長二、三メートルはあり、筋肉が異常なまでに肥大化し、その腕は大木程の太さがあった。
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