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全テをハ壊スル者  作者: 南十字
二章 力を求めて
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二十九話 コーヒードリップ

 建物が激しく震える。そこかしこが軋み、不安になる様な音が鳴る。

 その元凶となったベンは、めり込んだ拳をゆっくりと引き抜く。そして、焦った様な表情で辺りを見回す。

 今ここに居たはずの瀕死の少年が居なくなっていたからだ。


(どこへ消えた…!?)


 無言で、しかし、内心必死で少年を探す。辺りにあるのは瓦礫のみ。人の姿などありはしない。


(どこにいる…まさか!)


「上か!」


 ベンが上を見上げると、ちょうど少年が落下しながら大剣を振り下ろそうとしている最中だった。


「くっ!」


 咄嗟に左手で防ぎながら身体を避け、被害を左腕のみに留めた。失った左腕をすぐさま治し反撃に転じるも、拳を放った先には少年は居なかった。


「どうなっているのです!」


 理解の追いつかない事象に動揺するベン。そんなベンの肩を誰かが叩いた。


「こっちだよ」


 振り向くと、少年の拳が視界の殆どを埋め尽くした。


(近っ…!)


 そう思ったと同時に、ベンは顔面を殴られて頭から倒れる。


「このクソ!」


 地面に倒れたベンだが、しっかりと受け身を取り、すぐさま反撃に転じる。

 脚を払って少年を浮かせ、逆立ちの様な格好で少年を蹴り上げながら立ち上がる。

 少年は天井目掛けて吹き飛ばされるが、その姿が一瞬にして消え、ベンの目の前に急に現れて僅かに浮いてから落下する。


「何が起こったのです…?」


 明らかに天井にぶつかる筈だった少年が、目の前に現れ、吹き飛ばされた勢いそのままに僅かに上昇した。その事実に脳が混乱するベン。

 そんなベンに、少年は嘲笑いながら説明をした。


「俺は気を失っている時に考えたんだ。お前の隙の無い動きと怪力を、どうやって対処すればいいか。そして気がついたんだよ。"破壊の力なら、()()すら破壊できるんじゃないか"とな」


 少年は手を振り下ろし、実際に空間を破壊して瞬間移動を披露する。


「やってみたら意外と簡単に出来てな。まぁ、まだ成長途中だから少しの距離しか移動できねえが」


 また空間を破壊し、今度はベンの背後に回り込む。


「これで十分過ぎる程に便利だよ」


 少年は口端を吊り上げ、ベンの肩に手をやって破壊する。


「なっ!?」


「避けられねえだろ?なぁなぁ!」


 少年はベンの周辺の空間を破壊しまくって、瞬間移動しては破壊し、瞬間移動しては破壊を繰り返す。

 徐々に体積が小さくなるベンだが、このままやられっぱなしではいかない。腕を思いっきり振り回し、少年を弾き飛ばす。

 少年は壁を突き破り、向こうの部屋に吹き飛んだ。


「ハァ、ハァ…マズイですよ…これは」


 ベンは身体を再生し、少年が吹き飛んだ先に向かう。

 瓦礫を掻き分けた先に居たのは、ボロボロの少年と、それと睨み合う、白いスーツを着た男だった。


「おいおい。これはどう言う事だ?カフェテリア」


 男はドスの効いた声でベンの名前を呼び、鋭い眼差しを向ける。ベンは申し訳なさそうな顔でその男を見つめ、頭を小さく下げる。すると、男は苦虫を噛み潰した様な表情になる。


「おい。これにやられたのかよ。あのお前が?ハッ!笑えねえ」


 男は軽口を叩いているが、その表情は依然険しいままであった。


「おいっ!ガキテメェ。名前はなんつーんや?」


「俺はディースだ」


「そうか、俺はラルラージ•リルラっつーんや。よろしくなっ!」


 ラルラージは自己紹介をするや否や、不意をついて少年に肉薄し、手刀を突き刺す様に攻撃をする。

 少年はそれを警戒していたのか、攻撃の初動で避ける動作に入り、目の前を手刀が通過したタイミングでその腕を破壊した。


「ぐあぁぁぁっ!!」


 膝から先が無くなったラルラージは、血を撒き散らしながら痛みに悶える。


「警戒をして無い訳がないだろ。阿保が」


 少年は、ラルラージを冷ややかな目で見つめ、破壊して殺そうと素早く張り手をする様に手を伸ばした。


「ラルラージっ!」


 しかし、その攻撃はベンのタックルによって中断される。少年はすぐさま回避に転じた。間一髪で避け、勢いを殺すためにザザッと足に体重をかけて地面を擦る。

 少年が顔を上げると、ベンがラルラージの応急措置を施していた。懐から何かの液体を取り出し、蓋をポンッと開けると、部屋中にコーヒーの芳ばしい香りが広がった。そして、その液体を患部に振りかける。すると、徐々に血の勢いが無くなり、終いには、薄皮が張り始めていた。


(あれは指の応急処置の時に使ったのと同じ物…あの時は店の香りに紛れて気がつかなかったが、コーヒーを使っていたのか…厄介だな)


 ベンとラルラージの二人は、傷が塞がったのを確認すると、少年を警戒したまま立ち上がる。二人で目を合わせて考えを互いに確認し合い、行動に移した。

 ラルラージはしゃがみ込み、地面に手を触れて魔力を放ち始める。


「『水魔法•雫湧き満ちる空間(アクアルーム)』!」


 すると、部屋床や壁、天井に薄い水の膜が広がり、雫が雨の様に降り始めた。

 そして、ベンも瓶から液体を垂らし、魔法を発動させる。


「『変質魔法•物質変化(ドリップ)』」


 部屋一面の水がたちまちコーヒーに変わり、芳しい香りを放つ。


「何をやるつもりだ?そんなにコーヒーが好きなのか」


 少年が二人の行いを見てそう問う。二人は少年の少し小馬鹿にした話し方も気にせず、ただただ少年をしっかりと見ている。


「見ていればわかります。行きますよラルラージ」


「おうっ!」


 ベンが先に地面を蹴って肉薄する。地面が割れるほどの走り出しに見合うほどのスピードで少年に肉薄する。

 少年は空間を破壊してベンの後ろに回り込み、背中を破壊しようとする。だが、背筋に寒気が走り、違和感を感じてすぐさまその場を離れた。

 その直後、地面のコーヒーが棘状になって、少年が元いた場所を貫いた。


「これを避けんのか」


「流石だな」


 二人は少年の危機察知に感心する。

 少年は地面からの攻撃を常に警戒しなければならない事を煩わしく思いながらも、今度は自分から攻撃しようと意気込み、空間を連続で破壊して接近する。その場から消え、次現れた時には、距離が縮まっている。

 ベンは次はどこに移動するのかと神経を尖らせる。

 少年はベンの射程距離に入ったと思えばまた消え、今度はラルラージの足元に現れた。


「死ね!」


 少年は手を大きく開いて、ラルラージを破壊しようと足に手を伸ばす。


「うおっ!びっくりしたわ!」


 ラルラージは急に現れた少年に驚き、跳んだことで少年の攻撃を躱した。


「『水魔法•水の弾丸(ウォーターピストル)』!」


 そして、間髪入れずに自分の周囲に水の弾を作り出して少年を打つ。

 少年は飛んでくる水の弾丸を、手を払って全て破壊し、大剣を担いでラルラージに肉薄する。


「私を忘れないでくださいよ!」


 ベンがラルラージを庇う様に少年の前に立ち塞がったが、少年は空間を破壊してそれを素通りし、ラルラージ目掛けて駆け抜ける。


「クソっ!猪かこの野郎!『水魔法•水壁(ウォーターウォール)』!」


 ラルラージは攻撃を防ごうと水の壁を生み出すが、少年の手によって意図も簡単に破壊され、少年はラルラージに大剣を振り下ろした。

 だが、ベンが少年をラリアットで攻撃したことにより、大剣で斬りつけることはできたものの、傷は浅くなってしまった。

 少年は吹き飛び、壁にぶつかる前に地面に着地し、足と大剣でブレーキをかける。


「鬱陶しいことこの上ねえな…」


 ラルラージを倒そうとすればベンが阻止をして、ベンを倒そうとしても回復が厄介すぎるし、ラルラージの魔法を警戒しなければならない。

 そんな状況を打開しようと考えていると、ふと背筋にゾワりと寒気が走った。


(今度はなんだ!?)


 少年は反射的にバックステップで避ける。元いた場所には茶色い水の柱が立っており、その奥ではベンが手を伸ばして魔力を使っていた。


「お前も使えるのかよ…」


「コーヒーが好きだから水を変えたわけじゃ無いに決まっているでしょう」


 少年は更に悪くなった状況に苛立ちと絶望感を覚える。

 半ば自棄になり、大剣を担いで二人へ肉薄をする。

 少年が通った場所には幾つもの水の柱が立ち、ベンが少年を来させまいと必死に魔法を使っているのが伺える。

 大剣の射程内に入り、少年は担いだ大剣を思い切り振り下ろす。大剣はベンを唐竹に両断するかと思えたが、ベンは両手で大剣を挟み、真剣白刃取りをする。


(コイツ…力が…)


 ベンの怪力により、押しても引いても大剣はピクリとも動かず、少年の表情に焦りが見える。


「『水魔法•激流の槍(スクリュースピア)』!」


 更に、ラルラージが横から放った回転する水の槍が少年に迫る。


「クソッ!」


 少年は左手を離し、水の槍を上からはたき落とす様に払う。すると、槍と少年の姿が消え、少年だけが少し横にズレた位置に現れた。

 少年は自分の位置を瞬時に理解し、真剣白刃取りの体勢のベンを、大剣で横薙ぎに切り裂いた。


「ヌウッ!?」


 ベンの上半身は下半身からずり落ち、波をを立てて水の張った地面に倒れる。だが、流石の生命力と言うか、身体をくっつけようともがいている。

 勿論それを防ぎたい少年は、ベンに留めを刺す為に、ベンの頭部に手を伸ばす。いくら再生力が強くても、考える頭が無ければ意味が無いだろう。

 少年の手があと少しで頭に届こうとした瞬間、足元から無数の棘が生え、更に頭上から水の槍が降り注ぐ。


「ハハハッ!仲間諸共やろうってのか!?」


「そうしなお前は殺せんわ!」


 ラルラージは必死に魔力を操作して、少年をベン諸共殺そうとする。

 少年は、致命傷になりかねない頭上の槍を大剣で薙ぎ払い、その後に棘を対処しようとするが、流石に間に合わず、少年は滅多刺しにされた。


「終わったんか…?」


 ラルラージは少年の生死を確認しようと、少年のに近づく。

 少年の足元のラルラージは、地面から生えた棘に貫かれ、見るに堪えない姿になっていた。


(アカンわ…アイツの生命力を信じな…)


 ベンが死んだかも知れないと言う考えが頭の中を支配するが、今は目の前の少年の生死を確認しなければいけないと、頭を振って雑念を振り払う。

 ラルラージは少年の顔を眺め、死んでいるかを確認する。


(死んで…おるんか?)


 しかし、少年の僅かに動く胸に気がつき、咄嗟に水のナイフを作り出して貫こうとする。


「騙しやがったな!?」


 バレた事に気がついた少年は、棘を全て破壊し、ラルラージを破壊しようと手を伸ばす。


「死ねえぇぇぇ!!」


「往生しとけやぁぁぁ!!」


 二人は雄叫びをあげ、その腕が交わった。

 読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字などがありましたら教えて頂ければ幸いです。

評価や感想などもお待ちしてます。

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