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全テをハ壊スル者  作者: 南十字
二章 力を求めて
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二十八話 癒しの一杯

 煌びやかな装飾がされた廊下を、少年が歩いている。ここはかなりの大きさがあるらしく、大きな部屋が沢山あり、その一つ一つを探すのは流石に骨が折れる。

 ふと、横を見ると、他の部屋とは少し違う扉があった。そこだけ高さが下がっており、地下もしくは半地下になっているようだ。

 高級感溢れる木製の扉を開くと、カランカランと来客を知らせる鐘の音が響く。

 中は喫茶店になっており、大きなカウンターが少年を出迎える。少年はカウンターに一直線に向かい、少し背の高い椅子に腰をかける。少し待ってみるが、何も起こらず、馬鹿馬鹿しく感じた辺りで、店の奥からマスターらしき男性が現れた。


「いらっしゃいませ。喫茶ルカラクへ。マスターのベン•カフェテリアです」


 ベンと名乗った男はワイシャツにレザーベストを着ており、筋骨隆々な身体で、はち切れんばかりにワイシャツが伸びている。

 ベンはカウンターの下からメニュー表を取り出して少年に渡した。メニュー表は淡く可愛い字体で書かれており、女が書いたかの様にも見える。


「こちらメニュー表です。本日のお勧めは、悪魔山羊(バフォメット)のミルクを使ったカフェオレです」


悪魔山羊(バフォメット)ってなんだ?」


悪魔山羊(バフォメット)と言うのは、魔力を持ち、魔物化した山羊の事を言います。元々、バフォメットと言うのは、山羊の頭を持った悪魔の事を言います。魔物化した山羊は、その荒々しい風貌から、悪魔の名を冠しているのです」


「そうなのか。それで、その山羊のミルクはどんな特徴があるんだ?」


「そうですね。悪魔山羊(バフォメット)のミルクは、濃密な魔力と生命力により、濃厚な甘みと風味のある、やや癖の強いミルクです。そのミルクを、癖の少ないサッパリとしたコーヒーと合わせる事によって、ミルクの癖を抑え、かつサッパリとしたコーヒーに深みを与えた、飲みやすく飽きにくいものに仕上げています」


「じゃあそれで頼む」


「承知しました。ただ、一つ注意点があり、濃密な魔力を持ったミルクなので、一時的に気分が高揚したり、外傷が治癒する場合もあります」


「問題無い。むしろ大歓迎だ」


 少年は歪んだ左腕を摩りながら言った。

 ベンはカウンターに置いてある瓶からコーヒー豆を取り出して細かく挽いてゆく。店内中に心地の良いコーヒーの香りが漂ってきた。

 香りを楽しんでいると、気がつけばもう完成していたらしく、コーヒーカップが少年の前に出される。


「どうぞごゆっくり」


 コーヒーカップの中に、普通のカフェラテとは何ら違いの無いカフェラテが注がれており、香ばしい香りを漂わせている。

 少年は深呼吸を一つした後、コーヒーカップに口をつける。少し熱かったのか、一旦口を離してから息を吹きかけ、もう一度口をつける。

 少年はその美味しさに目を見張る。


(美味しい…まず口の中に濃厚なミルクの味が広がり、後からサッパリとしたコーヒーの酸味が追いかけてきて、口の中をリセットする。このカフェラテは、言うなればミルクが主役のカフェラテだ)


 少年は夢中になってカフェラテを飲み干し、空になったカップを見つめて余韻に浸っていた。しかし、その余韻は凄まじい不快感によって掻き消されることとなった。少年はその不快感のある部位を見る。なんと、左腕が形を変えて蠢いているでは無いか。正確に言うと、歪んだまま癒着した骨が、元の位置に戻ろうとしていたのだ。


「っ!?」


 少年は驚いたが、激しい不快感と痛みによって、無言で耐える事となった。

 暫くして痛みと不快感が引いてきたらしく、左腕をさすって確認する。左腕は一切の歪みがなく、入らなかった力も、しっかりと入れられる様になっていた。

 少年が腕を振ったり手を握ったりしていると、ベンが少年を申し訳なさそうな表情で見ている。


「かなり不快だったでしょう。こちら、お詫びのクッキーです」


「ありがとう。不快感は凄かったけど、腕が治ったんだ。感謝してもしきれない」


 少年はクッキーを食べながら言った。クッキーの味は、ベンの性格と似て優しかった。


「そろそろ行かないと。会計を頼む」


「わかりました。それでは、お代はお客様の命で頂きます」


「は?何の冗談だ」


「いえ、冗談ではありません。この建物のオーナーより、お客様の命を奪る様にと言われております」


「ふざけるなよ」


 少年は頭にきたようで、ベンに向かって手を伸ばす。

 ベンはそれの手に触れない様に腕を掴み、物凄い怪力で少年をぶん投げた。ガラガラと音を立てて椅子やら机やらが散乱する。

 少年は汚れを払いながら立ち上がり、不愉快そうな顔でベンを睨みつける。


「もう一度言うが、お前には感謝をしている。だが、向かって来ると言うなら、お前を破壊する」


「オーナーは絶対なので」


 その返事を聞くや否や、少年はベンに肉薄する。短剣を逆手に握り、ベンを下から切り裂こうと振り上げる。しかし、ベンが持っているコーヒーポットに防がれてしまう。

 少年が振り抜いている隙に、コーヒーポットを投げつける。中の熱湯が零れて少年に降りかかる。


「熱っ!」


 少年は反射で手を前に出してしまい、視界が塞がれる。ベンはそんな少年に向かって乱暴に蹴りを放つ。少年は散乱した店の備品に突っ込む。ベンは容赦なく少年に追撃を加えようと両手を合わせて握り、ハンマーの様に振り下ろす。

 激しい衝撃と共に、埃が舞い上がる。ベンは初め、少年を殺した事に強い後悔を覚えた様な表情をしていたが、鋭く走った痛みにその表情が崩れる。ベンが手を見ると、両手の小指と薬指が綺麗に無くなり、血がダバダバと流れ落ちていた。


「っ!?」


 ベンが驚き、手を押さえていると、舞い上がった埃の中から少年が姿を現した。


「驚いたかい?マスター」


 少年は手を伸ばしており、その手のひらにはベッタリと赤い血がついていた。

 ベンは少年に恐怖を覚え、逃げる様にバックステップで距離を取る。


「あの速度に反応してカウンターを入れるとは。相当な自信が無いとできませんよ」


「自信があるからじゃねえ。こうすればお前の動きを止められるからやったまでだ」


「それを自信と言うのですよ」


「……」


 ベンは苦笑いしながら傷口に薬品をかける。すると、傷口がみるみる塞がった。ベンは残った三本指で拳を作り、少年を睨む。


「よくも指を吹き飛ばしてくれましたね。仕方がありません。本気を出しましょう」


 ベンはそう言うと、身体に力を込める。すると、次第に筋肉が膨張し、肌の色が茶色味を帯びる。無くなった筈の指も次第に治り、背中からコウモリのもののような羽が生えた。

 変身したベンは、凄まじい圧を放つ。ヒリヒリする様な重圧が少年を押し潰さんとする。

 少年はそんなベンを警戒し、急な攻撃にも対応できる様に神経を鋭く尖らせていた。

 鋭い針の様な殺気に、少年が思わず後退りをしようと無意識に筋肉を動かした瞬間、少年の姿がそこから消え、後ろの壁に大きな風穴が空いた。

 まるで、音が遅れた様に鳴り響き、その後ろの壁すらも亀裂が走る。


「ぐ…うぅ…」


 少年はベンに頭を掴まれ、壁に押し付けられる。どうにか抜け出そうにも、その怪力と体格により、攻撃が届きそうに無い。掴んでいる腕を破壊しようと手を伸ばした途端、ベンは少年を離して腕を引っ込め、落下途中の少年に回し蹴りを放つ。

 少年はピンボールの様に弾かれて壁に激突する。


「……」


 少年は頭から血を流し、気を失って倒れてしまった。

 ベンはゆっくりとした歩みで少年に近寄る。少年はピクリとも動かず、死んでいる様に見えた。


「呆気なかったですね」


 ベンは止めを刺そうと腕に力を込める。その瞬間、まるで空気が歪んだ様に見える程の万力を込め、少年の頭めがけて拳を叩き込んだ。

 拳は周囲の物をその衝撃波で吹き飛ばし、ベンと少年は土埃で隠れて見えなくなった。

 読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字などがありましたら教えて頂ければ幸いです。

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