表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全テをハ壊スル者  作者: 南十字
二章 力を求めて
23/89

二十三話 女神との出会い

 濃い霧の立ち込める森で藤也とアンは歩き回っていた。


「ねえ。ここさっきも通らなかった?」


 不安そうな表情でこちらに振り返るアン。琥珀色の瞳が揺れる。


「そう…かな?霧が濃すぎてわからないよ」


 曖昧な反応をする頼りない藤也に、アンはそっぽを向いてしまう。

 アンに無視をされ、しゅんとする藤也。しかし、その直後に何かを見つけ、ハッとする。


「無視しないでよ…あ!アレ見てよアレ!」


 藤也が指さした先には、霧で包まれて良く見えないが、何か池の様な水溜まりがあった。

 藤也がそこに駆け寄ると、まるで蒼玉の様な深い青色の池が待ち構えていた。

 池は相当な深さがあるようで、透明さも相まって不安を掻き立てる様な青黒い色をしていた。


(怖いな…)


 なんて思った刹那、池の水が揺れる。池から手の様な形をした水が群衆の様に藤也を襲う。


「う…うわぁぁぁぁ!離せ!離せ!」


 必死に抵抗するが、虚しくも水中へ引き摺り込まれてしまった。


「どうしたの!?藤也君?藤也君!」


 悲鳴を聞きつけてやってきたアンの、藤也を呼ぶ叫びが辺りに響く。しかし、その声も池に溶ける様に消えた。

 静寂の中、アンの乱れた吐息と、木の葉の擦れる音だけがその場を満たした。



―――――――――――――――――



 透明な光が水中で乱反射する。

 まるで夢のような幻想的な景色とは裏腹に、藤也の意識は霞み始める。


(助けて…苦しい…苦しい…)


 声に出そうにも、水に阻まれて音が籠る。只々肺の中の空気だけが無駄に漏れる。


(意識…が…)


 藤也の意識が消えかける…



 次に藤也の意識がハッキリとした時、まず最初に目に入ったのは木製の橋だった。

 橋を往来する人々は、まるで昔の日本人が着たような和服を身に纏っている。

 橋を渡りきった先にはこれまた昔の日本の町の様な風景があった。


「ここは…何処だ…?」


 藤也は呆気に取られながらそう呟く。

 ふわふわとした感覚になりながら橋を渡りきり、通りを歩く。左右には木造の建物が並び、屋台もいくつか出ているのが見える。

 町の人々には活気があり、皆笑顔を浮かべている。


「平和なんだな…」


 藤也はそう呟き、ふと気がつく。

 何やら視線を感じる。それも一つでは無く、沢山。

 気になったが、今はそれどころでは無いと思い出す。早く元の場所に戻らなければと、藤也は踵を返して橋へと戻ろうとした。


「おい」


 しかし、誰かにドスの効いた声で呼び止められる。

 藤也が恐る恐る振り返ると、刀を大小二本帯刀した男がこちらを睨んでいた。

 辺りに異様な雰囲気が漂い、野次馬達が集まる。


「その可笑しな格好に腰にぶら下げた白鞘の刀、貴様この町の者では無いな?知っているか?この町…この国では一般庶民が帯刀することは許されていない。即刻立ち去るか、差し出すか選べ」


 相手を威圧する物言いに、藤也は萎縮してしまう。

 自分と同じくらいの男が、まるでもっと大きいかのように見えてしまう。

 そんな藤也に男は喝を入れる。


「仮にも刀を持つ者がこんな事で萎縮してどうする!!貴様は幼子か?貴様は女子か?違うだろう!漢たるもの胸を張って生きろ!」


 その言葉にハッとする。


(刀を神から授けられたのには何か訳がある筈だ。それなのになよなよとしているのでは笑われてしまうどころか誰にも相手にされなくなってしまう!)


 藤也は一度深呼吸をし、心を落ち着かせる。そしてゆっくりと目を開き、男を睨む。

 男はそんな藤也を見て笑みを浮かべる。


「良い顔をする様になった。だが、容赦はしない。この町を護るため、刀を抜かしてもらおうぞ!」


 男はその腰に刺した大きい方の刀をスラリと抜き、脇に構える。


「拙者!狐塚(きつねずか) 権左文郎(ごんざぶろう)と申す!」


 それに対して藤也は、白鞘の刀を抜かずに居合いの構えをとり、大声で名乗る。


「俺の名は桐崎(きりさき) 藤也(とうや)!よろしくお願いします!」


 威勢の良い声が町に響く。

 二人は動かず、睨み合う。野次馬の声すらも消える。まるで時が止まったかの様な静寂が生まれる………



 先に動いたのは狐塚の方だった。

 姿勢を極限まで低くし、地を這う様に藤也に肉薄する。

 しかし、藤也は動かない。どんどんと距離は縮み、とうとう二人が間合いに入る。

 狐塚は刀を振り上げようと腕に力を入れた。その刹那、狐塚の身体から一気に力が抜けたのだ。

 倒れるまでの間、狐塚の眼には綺麗に残心する藤也の姿が写っていた。


(良い太刀筋だ…)


 狐塚の身体が地に伏す。


(やってしまった…)


 藤也は刀を鞘に納めながらそんな事を考えていた。

 だが、その思考も次の瞬間に別のものに変わる事となった。


「死体が燃えてる!?」


 なんと、見下ろした狐塚の死体が燃えていたのだ。

 炎は次第に強くなり、燃やし尽くしてしまう。

 それだけでは飽き足らず、地面から家から何から何まで炎に包まれてしまった。


「まずい!逃げないとッ!」


 藤也は駆け出した。

 必死に、必死に。

 やがて音が聞こえなくなった。

 やがて目も見えなくなった。


(なんで!?なんで!)


 藤也は懇願する。

 音を。視界を。

 だが、静寂に、暗闇に飲み込まれる…



―――――――――――――――――



「…君!藤也君!起きてよ!起きてよ!」


 辺りに悲鳴の様な声が響く。

 池のほとりでアンが膝をつき泣き叫ぶ。

 足元には藤也が倒れていた。

 二人の身体は水で濡れ、服が重く張り付いている。


「…ッ…うぅ…」


 藤也が呻き声をあげ、眩しそうにしながら目を開く。


「藤也君!良かった…良かったぁ…」


 アンは感極まり、安堵した表情で涙を流す。


「アンさ…ゲホッゴホッゴホ…」


「大丈夫!?」


 激しく咳き込む藤也を心配するアン。

 藤也は苦しそうな表情をしながらも、手で大丈夫と制する。


「ッハァー。死ぬかと思った…」


「こっちのセリフよ!君が池に持ってかれた時、心臓止まっちゃうかと思ったんだから」


「心配かけてごめん。あと、ありがとう」


 怒りながら泣く忙しないアンに苦笑いを浮かべながら感謝をする藤也。

 アンは呆れた様な、安堵して緩んだ様な表情で藤也の背中を一度叩いて立ち上がる。


「さぁ!女神様の家探しを再開させよう!」


「よし!俺も迷惑かけた分頑張るぞ!」


 二人は捜索を再開させようと、互いを鼓舞するように拳を上げる。

 その直後、何かの強い気配が放たれる。


「「ッ!?」」


 二人がそちらを見ると、一つの火の玉がボンヤリと浮かんでいた。


「何…?あれ…」


「幽霊なんじゃ…」


 二人は火の玉を恐れながら身構える。

 火の玉はふらりふらりと揺れた後、パッと消えてしまう。

 しかし、その後ろには別の火の玉が浮かんでいた。


「…?」


 火の玉の理解不能な行為に二人は首を傾げる。

 消えては現れてを繰り返し、火の玉が徐々に離れてゆく。


「ねぇ。もしかしてついてこい的な事なんじゃ…?」


「もしそうだったら罠なんじゃ…?」


「じゃ、じゃあ様子見で…」


 二人は火の玉が離れてゆくのを見守る事にした。

 火の玉もその事に気がついたのか動きを止める。

 その次の瞬間、炎が全てかき消えた。


「消えた!?」


 そして、謎の声が響く。


『私が直々に私の元へ導いてあげます。感謝なさい』


 凛としながらも威厳のある声に、藤也はふと思った。


(美しい…声だな…)


 今まで聞いたことのない声に、何か神々しさを感じる藤也だったが、アンに手の甲をつねられて我に帰る。

 アンを見ると、頬を膨らませて拗ねている様だった。


「だってさ。行こ」


 アンは藤也の手を引いて火の玉について行く。

 火の玉は一定の距離を保って消えては現れを繰り返している。

 どれくらい歩いただろうか。大体数十分歩いた頃、急に周りの木々が無くなり、視界が開ける。

 更に霧すらも無くなり、クリアな視界が脳に届く。

 木々の無い空間に、一つの石造りの城と立派な大木が圧倒的な存在感を放っている。

 そして、その大木の根元に、一人の少女が立っていた。

 儚げな美しい顔と、狐の耳と尻尾のオマケまでついている絶世の美女がそこに居た。

 藤也は頬が赤くなるのを感じる。

 少女はゆっくりと二人の前まで歩き、こちらをしっかりと見据える。

 表情は明るく、笑顔だ。


「ようこそ。私の城へ。私こそがこの城の主であり、人々から崇められる女神である」


 先程聞いた声と同じ声が辺りに響き渡った。

 読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字などがありましたら教えて頂ければ幸いです。

評価や感想などもお待ちしてます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ