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全テをハ壊スル者  作者: 南十字
二章 力を求めて
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二一話 天使との遭遇

「おはよう!藤也君!」


 朝っぱらから元気な声が藤也の耳をつんざく。


「おはようございます。アンさん」


 二人は部屋を出て朝食を食べに行く。


「おはようお二人さん!適当な席についてちょっと待っててね。今持って行くから!」


 女将さんが忙しそうにしながら二人に笑顔を見せる。

 二人は女将さんの言う通りに空いている席に座る。


「結構賑わってますね」


「うん。ここは元々食堂でね、宿屋はついでみたいなものなんだって。だから朝食を食べに人が良く来るらしいよ」


「へぇ。そうなんですか」


 藤也は納得しながら辺りを見回す。

 老若男女関係なく、沢山の種族の人々が女将さんの作る朝食に舌鼓を打っている。

 皆、とても幸せそうな良い表情をしており、穏やかな雰囲気が漂っている。


(凄いな…初めて見る姿の人も沢山いる。それなのに喧嘩もなくみんな穏やかだ…平和だなぁ)


 そう思いながらホッコリしていると、女将さんが料理を持って来た。


「はいお待ちどうさま!熱いうちに食べてね」


 並べられたのは、綺麗な焼き色がついたトーストとケチャップのかかったスクランブルエッグ、ウインナーとジャガイモのポタージュ、それとカットされたオレンジだ。


「わあ…!美味しそう!」


「か…輝いて見える」


 久しぶりのまともな朝食に涙が込み上げる藤也。

 二人は早速朝食を口にする。

 カリカリのトーストにスクランブルエッグを乗せて齧り付く。そしてポタージュをズズッと啜る。


「最高だ…」


 藤也はそう呟き、一生懸命に朝を堪能した。


「「ご馳走様でした」」


 二人は行儀良く手を合わせ、食器を女将さんの元に持って行く。


「それじゃあ、この後はお待ちかねの旅かな!」


「旅はもうこりごりですよ…」


 テンションの高いアンと対照的に肩を落とす藤也。慣れない旅に参ってしまったようだ。


「レッツゴー!」


「おー…」


 二人は街を出て、東へと向かう。

 木々から差し込む日光が優しく包み込む。


「そう言えば、君はどこを目指して居るのかな」


 アンが藤也に問いかける。

 藤也は少し迷った後、答える。


「実はですね、女神様の住居を目指しているのです」


「女神様って…あの?」


「多分そうです」


「アハハハッ!君は面白い事を言うね」


 腹を抱えて笑い、涙を拭うアン。

 そんなアンをむすっとした顔で見る藤也。


「笑わないでくださいよ。教会の人にそこに行けって言われてるんです」


「教会かー。君ってさ、どこの国から来たの?」


「国ですか、俺はシュルルーシ?国から来ました」


「なんで疑問形なのよ…」


 アンはジト目で藤也を見るが、藤也はハハハと笑って何となくはぐらかす。


(ここと違う世界から来たとも言えないしな…)


 そんな事をそこはかとなく考えていると、右にある茂みがガサりと騒めく。


「?…!!」


 その直後に、何かが茂みから飛び出して来た。

 咄嗟に刀に手を伸ばし、刹那の速度で抜刀する。

 僅かな手応えが感じられ、その直後に湿った音が聞こえる。


「凄い!凄いよ!君って強いんだね!」


 手を叩きながら感激するアンを横目に静かに納刀する藤也。その心の中は強い罪悪感に満たされていた。

 足元を見ると、小柄で醜い狼の様な生物の死体が上下に両断されて転がっている。


「コレはねぇ〜」


 アンが死体の前でしゃがみ込み、むむむと生物の正体を思い出している。


「ズバリっ!わからない!」


 意気揚々と言うアンに、藤也はずっこける。


「まあ、多分何らかの原因で魔力を保持して、それが暴走して変異しまった野犬でしょう」


 アンは笑いながらそう言う。

 藤也は身体についた汚れを払いながら苦笑いをした。


「あまり浮かない顔をしてるね」


「ああ、あまり生き物を殺すのは好まないんだ」


「成る程。優しいね」


「いいや、ただの臆病者さ」


 少し気まずい雰囲気が漂う。

 二人は目的地へと歩を進める。



―――――――――――――――――



 少年が鬱蒼とした森の中を黙々と歩き続ける。


「?」


 変わり映えしない風景だったが、前方が僅かに明るくなっている。

 少年の歩みが僅かに早くなってゆく。

 近づくにつれて森自体も徐々に明るくなってゆく。


「見えた…街だ」


 眼下に見える大きな街に、思わず表情が緩む少年。

 すぐに気持ちを引き締め、街へと向かって行った。



 この街は海の近くにあり、海と密接に関わっている。街の至る所に水路があり、水路には小舟が浮かんでいる。

 小舟はタクシーの様な使われ方をしており、住人はコレによって街を移動している。



 少年は水路の上を通る橋の上で街を眺める。所狭しと並んだ家々と、その間を通る水路。

 少年の頬を潮風が撫でる。


「この街に…アレがあるはずだ…」


 少年は橋を後にする。

 橋の欄干には()()()()()()()()()()()()()()ができていた。



 少年が大通りに出ると、何やら沢山の人が群がっている建物があった。

 気になって近づいてみると、炊き出しをしているらしく、教会の入り口に設置された大釜のスープを掬って渡している修道士達が居た。


(ッ…!)


 少年はそれを見た途端に顔色を変え、舌打ちをして教会の前を通り過ぎる。


「胸糞ワリい。偽善者が」


 あえて聞こえる様な声で言ったため、幾人かが少年を怪訝な目で見ていた。



 少年はそそくさと路地に入り、丁度目の前にある水路のトンネルへと降りる。

 トンネル内部は湿気で満ちており、ピチョンピチョンと水滴の垂れる音が何処からか聞こえる。

 少年は何かにふと気がつく。


「アレの気配が近い…」


 少年は本能に従い、血液の方向へと歩いて行く。

 少し歩いた後、少年は立ち止まり、壁を見つめる。


「この向こうからアレの気配がするが…今壊す訳にもいかない。そうだな…深夜にまた来るか」


 少年は踵を返してその場を立ち去った。



 日が沈み、人々が寝静まった深夜、少年は静寂の街を歩く。

 昼間見た水路も、夜に見るとどこか不気味な雰囲気を醸し出す。少年は水路に架かる橋を渡り、昼間の教会の前を通り過ぎる。



 トンネルに近づくにつれて少年の鼓動は徐々に早まり、気分が昂揚してくる。

 心臓の音と足音が大きく聞こえる。


「来い…来い…来い…!血は何処だあ!」


 少年は大声でそう叫ぶ。

 しかし、少年の表情が曇る。

 少年の本能が指し示す血の位置は向かう方向とは真逆の方向だった。


「こっちは…教会か…?」


 少年は上擦った声を上げる。

 口が裂けた様な笑みを形作り、まるで悪魔の様な表情を浮かべる。

 少年は早まった足取りで路地を抜け、教会の前に立つ。

 教会は一見寝静まっているが、確かにこのどこかに血液がある。

 少年は大剣を担ぎ、教会の門を蹴破る。

 甲高い金属音を無視し、教会の庭を真っ直ぐ横断する。扉を大剣で破壊し、教会内部にずかずかと上がり込む。


「血はどこだぁぁぁ!」


 少年は手近にあった長椅子を破壊し、そう叫ぶ。

 当然、教会内には人がおり、声を聞きつけた人達の気配をそこら中から感じる。


「どこじゃどこじゃぁぁぁ!」


 少年が無差別に破壊行動を繰り返していると、神を象った像を彫った壁に穴が開く。


「?」


 少年は気になってその穴を覗き込むと、なにやら奥に空間が続いている。


「見つけた…」


 明らかにここから血の気配がしており、少年は穴を大剣で広げて侵入する。

 穴の奥は石造りの狭い通路になっており、歩くたびに足音が反響する。


『コソ泥め!出てこい!』


 背後から男の声がするが、少年はもう居らず、困惑の声をあげている。

 通路はやがて行き止まりになり、扉が少年を待ち構える。

 少年は昂る気持ちを抑え、ドアノブに手をかける。

 かに思えたが、少年は扉の右側の壁に手をつく。


「偽装なんて無駄だ」


 少年は不敵な笑みを浮かべて壁を破壊する。

 すると、その奥には何かの儀式を進める集団が居たのだった。


「誰じゃ貴様!」


 その集団の長らしき歳老いた人物が怒号をあげて少年に近づく。

 手には剣が握られており、明らかな殺意が放たれていた。


「死ね!」


 剣を振り上げる長らしき人物だったが、胸から燃え盛る剣が生え、その動きが止まる。


「グフッ…」


 剣が引き抜かれ、血を吐き出して倒れる。

 その後ろには、ドロドロに溶けた剣だった物を持った人物が立っていた。


「誰だテメェ…殺すぞ」


 その者から放たれる圧に耐えながら少年は威嚇の言葉を放つ。


『私の名前はウリエル。神直属の四大天使です』


「神ィ?舐めてんのか」


 神という言葉に殺気立つ少年だが、ウリエルと名乗った人物は気にせずに続ける。


『神の器よ。くれぐれも死ぬなんて愚行はせずに、()()血を集めてくださいね』


 そう言いながらニヤリと笑うウリエルの手には、血液の入った小瓶が握られて居た。

 ウリエルは少年に小瓶を渡すと、少年の頭上で手を横に払った。

 その途端、少年の身体は炎に包まれる。


「ッ!熱っ!」


 少年は焦って全身を叩くが、ふと、熱さを感じない事に気がつく。

 それどころか全身から力が満ち溢れ、気持ちも前向きになった気がした。

 顔を上げると、ウリエルはもう消えていた。

 いつの間にか消えていた炎と手に残る小瓶を見つめながら、暫し唖然としていた。

 読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字などがありましたら教えて頂ければ幸いです。

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