十七話 勇者の誕生
この話は別の作品の第一話で載せようと思っていたのですが、結局同じ世界線で同じ結末を辿るので、一緒にしてみました。
俺は至って平凡な人間だ。
学校ではそれなりの成績を取り、友達も居る。
家庭も裕福な訳ではないが、普通の暮らしはしている。
しかし、俺は普通に飽きてしまった。
学校は退屈、家に帰ってもやる事はスマホやゲームのみ。
俺は毎日に飽きていた。
あるはずの無い妄想をし、妄想の中の俺は出来もしない事を平然とやってのける。俺は優越感に浸る。
皆に讃えられ、皆が俺を褒めてくれる。
そんな甘い甘い、愚かな妄想で飢えを満たしていた。
しかし、ある日その妄想は叶う事となった。
ただ一部だけだが…
「おい!起きろ!」
麗かな秋晴れの日差しを浴びて、ついうたた寝をしてしまっていた俺は先生に注意を受ける。
「高校生なんだから、自分の意思で此処に来ているんだろ!寝るんじゃない!」
生理現象なのだから仕方ないじゃないか。と言いたくなるのを抑え、先生の小言を右から左へと流す。
(ハァ、つまんない)
そう思いながらぼんやりと黒板を眺め、適当に板書をする。
そうやって一時間をいつも通り乗り越えようとする。
しかし、その日に限ってはいつも通りが通用しなかった。
船を漕ぎそうになるのを耐え、重い瞼を開けていたその時、やけに眩しい光が目を刺激する。
(眩しいな…)
そんな事を考えていると、やけに教室が騒がしい事に気がついた。
「なに…?」
何事かと辺りを見回すが、眩しい以外特に何もない。
騒ぐ皆を眺めていると、仲のいい友人が俺に向けて叫ぶ。
「オイ!下だよ下!なんなんだよその光は!」
友達の指差す方向、俺の足元を見ると光っている何かがあった。
「え?何これ」
そこで唐突に視界が光に包まれた。
目を開けると、今までいた秋の麗かな光が差す教室とは真逆の、薄暗く冷たい石造りの広間だ。
(此処は何処だ?)
困惑しながらも辺りを見回すと、沢山の人が俺を取り囲んでいる。
その人達は豪華な服を身に纏い、プライドの高そうな人ばかりだ。
すると、その中の一人の特に偉そうな人と女が俺の前に来た。
「勇者様、ようこそ我が国へ。私はこの国の王です。いきなりで申し訳ないのですが、この国は魔族に脅かされる未来、破滅へと突き進んでいるのです。魔王が覚醒し、この世界が滅ぼされる前に、魔王を討ち取って欲しいのです!」
王様はそう言うと、女を前に出させる。
その女の手には小さな丸い石が乗せられていた。
「これは勇者様が扱うに相応しい武器を授ける石です。ささ、この石を砕いてくだされ」
王様は石を持ち、指で潰して砕く様な動作をした後、俺に石を渡した。
(石を砕け?なんて馬鹿げた事を。煎餅じゃあるまいし)
そう思いながら石を摘み上げる。
翡翠のような緑で柔らかい光を放つその石には、魅力的な何かがあった。
(しょうがない…)
指に力を入れ、石を砕く。
石は案外呆気なく砕け、破片が輝きながら宙を舞う。
すると、石が集まり、その場所が光り輝く。
思わず眩しさに目が眩み、手で光を遮る。
光が治まり、先程の場所を見ると、木製の棒状の物があった。
(コレは…!)
手が吸い寄せられる様に動き、ソレを掴む。
ソレを胸元に持っていき、まじまじと見る。
ソレは綺麗に鑢にかけられた、白鞘の刀だった。
(すげぇ!本物だ!)
初めて見る刀に内心興奮していると、何やら周りから視線を強く感じる。
その視線の方を見ると、貴族らしき人々がコソコソと話をしながらこちらを見ている。
その中には王様もおり、何やら渋い表情をしている。
「よりによって刀…いや、枝切れの勇者か。仕方がない…」
王はそう呟き、兵達を見てから命令を下す。
「兵よ」
その一声で兵達が俺の周りを囲む。
(え?なんで?さっきまで友好的だったのに…)
兵達は持っていた槍を俺に向けて構えている。
その顔には何か差別的な感情が浮かんでいるように見える。
「よりによって異教徒の武器を手に入れてしまったか…異教徒は殺さねばならない掟。すまないが死んでくれ」
王様は冷酷に言い放つ。
「じゃ、じゃあ、俺が死んだら元の世界に戻れんのか…?」
王様は首を振り、静かに口を開いた。
「わからぬ。全ては神のみぞ知る…。抵抗しなければ、楽に殺してやろう」
そう言って兵達の構えを解かせ、一本の剣を持った兵を呼んだ。
(そう…か。一太刀で首を掻っ切って殺してくれるのか…。楽に…殺して…)
俺は諦めていた。
見知らぬ地で、歓迎もされず、逃げても何も分からない…そんな世界で生きるなら死んでも良いのでは?
そんな意味のわからない考えが脳内を支配する。
「楽に…」
俺はそう呟き、先程授かった刀を抱きしめて両膝をつく。
俺の背後に兵が立ち、剣を構える。
(平凡に生きてきたんだ。死に方くらい、変わっていても良いよな…)
俺は正座をして姿勢を正し、刀を静かに横に置く。
静かに瞳を閉じた。
(さようなら…)
何処の誰に向けた訳でもない別れの言葉を心の内で呟いた。
背後で剣を振り上げる気配がする。
その気配はゆっくりと剣を振り下す。
一秒が何十何百にも感じる。
思考が脳を駆け巡る。
(剣を振り上げているなぁ…そのままスパッと切られるのか。
そう言えば子供の頃に目隠しをしながらチャンバラをしたな。
あの時は気配を全く感じなかったのに…成長かな。)
ふと、その時に指先が刀に触れる。
「……まだ、死にたくないな」
その時、俺の中で何かが弾けた。
思考がクリアになる感覚。
生への渇望が魂の底から湧き出る。
(生きたい…生きたい…生きたい!)
俺はすぐさま刀を取り、腰に刀を添えて構えをつくる。
実際に見たことのない居合いの構え。
それなのに自然と身体が動き、構えをとってしまっている。
柄頭を地面につけ、鯉口を切る。
左手と腰の捻りを使って鞘を引き、刀を半回転しながら振るう。
肉を裂き、命の消える感覚が手に伝わる。
剣を持った兵が頭を無くして倒れる。
「…」
王は足元に転がってきた頭部を感情の籠もっていない瞳で見つめる。
周りに居た偉そうな人達は、兵士の頭部を見て腰を抜かしている。
(今のうちに逃げないと)
考えるとともに身体が動く。
俺は素早く納刀し、全速力で扉に向かう。
途中、邪魔な兵達は押し倒して無理矢理道をつくる。
(あと…ちょっと!)
扉がすぐそこまで迫った時、横から騎士が現れた。
その騎士は他の兵よりも重厚で煌びやかな防具を身に纏っている。
「ここは通さない!」
剣を抜いて構える騎士。
その途端、辺りに冷たい突風が吹く。
「フリード•ウィンド!」
騎士の周りに冷たい旋風が巻き起こる。
「エンチャントアイス•ウィンドラーミナ!」
旋風が弾け、騎士の剣の周りに寒風が纏わりついている。
「参る!」
騎士は律儀に合図を言って肉薄してくる。
切り下ろし、逆袈裟、突きの怒涛の三連撃が俺を襲う。
避ける際に、冷気が肌に触れる。
俺は居合いの形を解かずにステップで攻撃を避ける。
突きの直後、そこにある僅かな隙を捉えて抜刀する。
突きによって下からでは首が狙えないので、仕方なく胴を斬る。
だが、鎧によって阻まれてしまう。
しかし、その衝撃で騎士がよろけたので、納刀しながら走り去る。
扉を抜け、廊下の窓から外の景色が見える。
星が瞬く夜空、東京では見られない天の川がはっきりと流れを作ってそこにある。
美しい景色に見惚れる暇は無いので、すぐに視線を逸らして脚を動かすのに集中する。
走っていると、曲がり角の向こうから兵士が現れる。
「止まれい!」
仕方なく止まり、引き返そうとするが、後ろからも兵士が迫る。
(仕方がない…覚悟を決めるか)
俺は廊下にある窓に視線を向ける。
「貴様!」
俺の考えに気がついた先程の煌びやかな鎧の騎士が怒鳴る。
それに構わず、俺は窓に向かって全速力で走り出す。
ガラスが甲高い音を立てて砕ける。
眼下に見えるのは静かな家々、その奥には広大な草原が広がっている。
(ああ…美しい)
景色に見惚れているがここは空中、勿論重力はしっかりと効いている。
自由落下で増してゆく速度、此処は恐らく五階以上はあるだろう。
勿論生身では生きられない。
「あ、死ぬ」
地面があっという間に間近に迫る。
俺は僅かな希望を託し、着地のタイミングを測る。
着地と同時に凄まじい衝撃が全身を襲う。
「痛ぁぁぁい!」
全身を痺れさす衝撃に思わず悲鳴を上げる。
しかし、おかしい。
何故こんなにも高い場所から落ちても死なないのだろうか。
今見上げている建物はかなりの高さがあり、少なくとも常人だったら死んでいる。
それに、先程の己の身のこなし、何故俺はあそこまで綺麗な抜刀が出来たのだろうか。
今まで触れたことも無い本物の日本刀。
それを改めて眺めてみる。
刀を僅かに抜き、刃を眺める。
夜空を反射する美しい刀身、それは芸術的な美しさと命を刈り取る武器としての美しさがある。
(凄いな…人でも何でも簡単に切れそうだ…!)
俺はその時、気がついてしまった。
人を殺してしまった事に。
無意識的に身体が動いたが、それでもやってしまった事だ。
肉が裂かれる感覚。生気のない瞳をした生首。吹き出す血液…
その兵士には家族も居ただろう。親友も。
それを俺は殺めてしまった。沢山の人が涙を流して悲しむ。
(あ…あぁ…可哀想だ…妻子が…俺のせいだ…)
自責の念に飲まれ、刀を抱きながら嗚咽する。
その時、沢山の人の足音が響いてきた。
「居たぞ!殺せ!」
現れた兵士達は俺を見つけるなり大声をあげて迫ってきた。
手には槍や剣が握られている。
(逃げないと…逃げないと…)
俺は死に物狂いで駆ける。先程自分を責めていたのが嘘のように必死に。
通りを走り、路地を抜け、階段を駆け降り。
「ハァ、ハァ、ゼェッ、ハァ」
人生で一番と言っても良いほどに走った俺の身体は、肉が悲鳴を上げ、肺が酸素を渇望していた。
「何処だ!」
兵士の声が聞こえ、俺は足を動かすが、疲労の溜まった足では力が抜けてしまい、倒れ込む。
匍匐前進で何とか物陰に隠れてやり過ごす。
足音が遠のき、兵士達は居なくなったようだ。
(行ったか…?)
俺は一先ず安心し、仰向けになる。
瞬く星空を眺めるだけの時間は、俺に思考を与えるには十分な時間だった。
(人を殺してしまった…俺は責められるのか…?可哀想な…でも可哀想とかエゴなのでは?いや、アイツらも殺しに来たし…ダメだ!命は大切なモノだ!)
そうやって考えていた俺の思考が急にぼやける。
睡魔だ。
眠くなるのは仕方が無い事だろう。
見知らぬ地で自らのキャパを超えた力を出し、精神的にもすり減っている。
だがしかし、俺は殺人を犯した事に対する自責の念に囚われて眠れず、長い長い夜を夢と現の狭間で過ごした。
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