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全テをハ壊スル者  作者: 南十字
一章 力無き弱者
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十三話 女神の国

 真っ暗な夜の下、蒼の炎が二人を照らす。

 少女の短くなった腕で蒼い炎が燻る。


「コレはいけないな」


 そう呟く少女の表情はとても焦っていた。

 少女はバックステップで少年から距離を取る。

 少女が腕をもう片方の手で押さえながら少年を見る。

 少年は俯き、表情は一切見えないが、どうも動きが無く死んでしまった様にも見える。



 少女は最大限の警戒をしながら少年に近づく。

 すると、少女の後ろで何かの気配がした。


「!?」


 少女が勢いよく振り返ると、先程少年に倒された修道士が立っていた。

 修道士はまるで奇跡を見たかの様な驚愕の顔をしている。


「あ…貴方様は…女神様であらせられるのですか…?」


 その問いに、少女は目を見開く。

 驚きと呆れの混ざった表情は、次第に優しいものとなる。

 少女は何も言わず、闇へと姿を消す。


「女神様!女神様!」


 修道士は先程まで少女の居た場所に駆け寄るが、そこには誰もおらず、寂しげな虚空だけがあった。



 修道士は気が抜けた様に脱力し、気を失って倒れてしまう。

 だが、咄嗟にネールナルが受け止めた事で修道士は頭を打たずに済んだ。


「あれが…女神なのか…?」


 ネールナルは少女の姿を思い浮かべる。

 凛として、美しく儚い表情。

 頭と腰から生えた狐の耳と尻尾。

 そして蒼い炎。



 例えその者が女神で無くとも、その美しさにそれ相応の価値があっただろう。

 ネールナルは少し惜しそうに闇を見つめ、立ち上がる。

 少年の方に視線をやると、まだ俯いて動かない。


「何故…来てしまった!」


 ネールナルは少年を叱りつける。

 意識があろうが無かろうが、叱らないと気が済まず、声を荒らげる。


「お前を何の為に国外に逃したと思ってる!お前は…お前は世界に憧れて居たんじゃ無いのか!」


 ハァハァと肩で息をし、少年を見つめる。

 だが、ピクリとも動かない。

 ネールナルは首を振り、後ろを振り向く。

 遠くから兵士が駆けてくるのが見える。

 ネールナルは兵士に指示をし、少年を拘束して連れて行かせる。

 そして、残った兵士と共に、怪我人や死亡者の確認をしたのだった。



―――――――――――――――――



 パチッと炎の爆ぜる音が鳴り響く。

 薄暗い無機質な部屋で松明の優しい橙の光が揺れる。

 その部屋の真ん中で、少年は目を覚ます。

 目を開き、辺りを見回す。

 石レンガの冷たい部屋と鉄格子と手に付けられた手錠は、少年が捕えられている事をハッキリと示していた。

 少年が意味もなく炎を眺めていると、薄暗い通路の向こうから複数の人の気配がする。

 牢の静寂が足音によって掻き消される。

 修道士を引き連れ堂々と姿を現したのは、金の刺繍が施された修道服に身を包んだ神官だった。

 眼鏡をかけ、僅かに微笑んだその表情は一見穏やかそうなのだが、放つ圧は只者では無い事がわかる。

 神官は少年にジロリと品定めする様な視線を送り、そして口を開く。


「君が…ディース君かな?」


 小さな子供を相手にするように神官はディースの前で屈んで話す。

 だが、ディースは神官に向かって唾を吐き捨て、そっぽを向いてしまう。

 その態度に取り巻きの修道士達が殺気立つが、神官はその事を歯牙にもかけずに話を続ける。


「君は悪魔との事だけれど、実感あるかい?」


 神官は、少年を悪魔と決めつけた上で話をした。

 曰く、少年はこれから女神教の本拠地、女神の始まりの地ビーナルークの国に連れて行かれる。

 そして、()()()()をされるらしいのだが、あまり良い雰囲気では無かった。


「さあ、出なさい」


 神官は看守に鉄格子を開けさせ、笑みを浮かべながら手を差し出した。

 少年は手錠に長時間圧迫されていた手を摩りながら神官をひと睨みし、神官の横を通り過ぎる。

 だが、牢から出ようとしたら修道士達に行く手を阻まれてしまった。


「いつから君は自由になったのです」


 若干の嘲笑が篭った声で少年を止め、その両手に新たな拘束具を付けた。

 手錠ではあるのだが、宝石の様な物が埋め込まれており、怪しく光っている。


「これを無理矢理外そうとすれば、強力な電流と軽い毒が流れますのでくれぐれも外そうとは思わない事ですね」


 神官は宝石の様な物を指で触りながら言い、少年が逃げない様に圧を放つ。

 少年はちっとも気圧されず、修道士に連れられて行く直前に神官に向けて唾を吐いた。



 少年は神官一行に連れられ、牢獄の階段を登る。

 外に出ると、朝の明るい日差しが目を刺激する。

 久々の光に目が眩んだが、次第に視界が戻ってくる。

 そこには、沢山の人が居た。

 この国の民から女神の信者、果てには貴族や国王までもが居た。

 あの優しそうな国王も、俺を憎悪の目で睨む。

 ネールナルですらも顔を顰めて逸らす。


(そりゃそうだな)


 少年は自らが行った所業を思い返し、口端を持ち上げて笑った。

 すると、人の群れからざわめきが起きる。

 罪人が笑ったのだ。反省の色は無く、寧ろ煽っているとも捉えられたのか、暴言が少年に降り注ぐ。

 その暴言を浴びた少年は、まるで温かいシャワーでも浴びているかの様にうっとりとした笑みを浮かべた。

 その瞬間、ピタリと暴言が止んだ。

 代わりに、困惑の声が民衆から上がったのだ。


『アイツ何で笑ったんだ?』


『ヤバ…』


『気持ち悪い…』


 困惑の声が少年を包み込む。

 当の本人はまるで気にも留めずにその横を歩き去る。

 少年の小さくなる後ろ姿を見た人々は呆気に取られ、誰一人として声を発さなかった。



――――――――――――――――――



 日差しが木々の隙間から差し込む森の中、少年は修道士達に連れられて歩いていた。

 森の中に場違いな白い修道服で一日に数回祈る彼らを少年は憐れみにも似た目で見ていた。


(人…女神に縛られて生き方を見失う…馬鹿だな)


 決して声に出さずに、しかし視線はそれをしっかりと物語っていた。

 その事を薄々気がついていた修道士も居るが、嫌そうな目をするだけで特に少年には何もしてこなかった。



 歩く事数ヶ月、前を行く修道士達がざわめく。

 ある者はホッとし、ある者は喜ぶ。

 自然と足が速くなり、後ろとの間が空いていく。


(…故郷か)


 少年が俯き考え込んでいると、少年の周りも騒がしくなる。


(見えてきたか…)


 少年が顔を上げると美しい白い外壁が目に飛び込む。

 汚れ一つないそれは、何処か神聖な雰囲気を纏っている。



 女神教を信仰する国、レイカ教国。その国は教会を国の中心に置き、政治までもが宗教を軸に作られている。

 街の中の至る所に女神の像や女神を象徴としたマークがあり、全ての住民が女神を信仰している事がわかる。



 カランカランと鐘が鳴る白い教会の内部には広い礼拝堂があり、そこには木彫りの女神の像が飾られている。

 女神の像の周りにはガラスで出来た蒼い炎の様な物があり、女神がより神聖なものとなっている。


「おお…女神よ。我等に救いを」


 神官が祈りの言葉を詠みあげると、それに修道士達が続く。


『我等に救いを』


『安らぎを』


『祝福を』


 少年を置いて礼拝堂で祈る神官達、少年は呆れを通り越して笑みが溢れる。


(罪人の俺を放置して祈るとは…熱心な事だな)


 祈りが終わると、少年は神官と、二人の修道士と共に一つの部屋へ向かう。

 暗い地下道の先には、木の扉がある。

 その扉の奥からはおどろおどろしい雰囲気が漏れ出す。


「着きましたよ。覚悟は良いですか?」


 扉の奥には何かの器具が大量にあり、その中にはハサミやナイフまでもがあった。


「ここは…?」


 少年の問いに、神官は笑みを浮かべて言った。


「拷問部屋ですよ…」


 その瞬間、少年の顔に恐怖が張り付く。


「悪魔は苦しんで死ななければなりませんからね。女神様の断罪をその身に受けなさい」


 その時、神官の顔は醜く歪んだ。

 読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字などがありましたら教えて頂ければ幸いです。

評価や感想などもお待ちしてます。

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